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永遠のパラレルライン  作者: 瀧川蓮
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46.思いがけない情報

「あっ! 大丈夫!?」


きれいに包装された三十センチ四方の箱を抱えた男の子が足もとにぶつかり、盛川由美は思わず声をかけた。


「う、うん。ごめんなさいお姉ちゃん」


五、六歳くらいの男の子がかわいらしく頭を下げる。細い腕で大事そうに抱えているのは、親から買ってもらったクリスマスプレゼントだろうか。


ふと男の子が走ってきたほうへと目をやると、父親と母親らしき二人の大人が慌てた様子でこちらへ駆けてくる様子が視界に映った。


息を切らせながらやってきた二人の大人は、由美に「本当にごめんなさいね」と頭を下げると、息子に注意しつつその場を離れていった。


その様子を見て、由美がくすりと笑みを漏らす。


いいなぁ……クリスマスプレゼントかぁ。うちは小学三年生くらいまでしか買ってくれなかったな。


そんなことを考えつつ、旧新宿エリアの繁華街をてくてくと歩いていく。クリスマスだからかどうかはわからないが、道行く人たちの表情もどこか明るく見えた。


みんな、クリスマスパーティーとかするのかなぁ。それも羨ましい。私といえば、クリスマスだというのに行き先は学習塾。


「はぁ……」


ダメだ。塾の先生も言ってたじゃない。今が大事なときだって。クリスマスなんかで浮かれてる場合じゃないよね。


繁華街を抜け、横断歩道の前で信号が青になるのを待つ。タイミングがよかったからか、信号はすぐ青へと変わり、軽快なメロディが流れ始めた。


由美がちらりと車道へ目をやると、一台の車が停止線を一メートルほどすぎたまま停車していた。特に気にとめることもなく歩を進めようとしたそのとき。由美の視界に思いがけないものが飛びこんできた。


「え……? どうしてあの人がここに……?」



――影浦邸をあとにした陽菜や咲良たちは、ひとまずマンションの下に停めてある車へと戻った。


「クソ……! いったいどうなってやがる……!」


助手席のドアを乱暴に閉めた咲良が、忌々しげに吐き捨てる。


「落ち着け、咲良」


「これが落ち着いてられるかよ!」


車のエンジンをかけたマコトに、咲良は今にも噛みつかんばかりの目を向けた。


「咲良さん。さっきの影浦という人以外に心当たりがある人はいないんですか?」


「正直……ない。私は絶対にあいつの仕業だと思っていたから……」


「樹里を恨んでいるとか、異様に執着していたとか、何でもいいんです」


少し考え込む仕草をしてから、咲良は首を小さく左右に振った。口ぶりこそ冷静だったが、陽菜は相当焦っていた。こうしているあいだにも、樹里により大きな危険が迫っている可能性があるのだ。


と、そのとき――


やや重苦しい空気を無視するように、『ピロリン』とポップなサウンドが車内に響いた。LIMEの受信音だ。マコト以外の全員がスマホを手にとる。


「あ……私です」


陽菜がスマホのロックを解除しLIMEを起動した。メッセージが一件届いている。樹里からではないかと期待したが、その期待はあっさりと裏切られた。


「陽菜ちゃん、誰? もしかして、樹里じゃないよね……?」


「違います。白鳥さんです」


メッセージの主は白鳥沙羅。こんなときに何の用だ、と忌々しく感じつつも、陽菜は沙羅からのメッセージに目を通した。


沙羅『神木。あんた、今日はジュリさんたちとクリパだって言ってなかった?』


陽菜『そうですが』


沙羅『そうだよね。じゃあ、やっぱり由美の見間違いか』


陽菜の目が大きく見開く。画面に表示されている沙羅のアイコンをタップし、素早く通話モードに切り替えた。コール音が響くこと三回程度で沙羅が電話口に出た。


『ど、どうしたのよ。あんたのほうから電話してくるなんて』


『白鳥さん。さっきの話、どういう意味ですか?』


『え? ああ。由美がさ、塾へ行く途中でジュリさんに似た人を見たって言ってたのよ』


『本当ですか!?』


思わず大声を出してしまい、電話口の向こうで沙羅が『わっ』と驚く声が聞こえた。


『な、何よ、大声出して……。ええと、うん。見たのは本当らしいよ。旧新宿の『アンリミッツ・イースト』の近くだって。車の助手席で眠っていたみたいだけど』


アンリミッツ・イーストは、旧新宿エリアにある大型のショッピングモールだ。


『車の、助手席で?』


『うん。神木の家でクリパって言ってたのに、どうしてこんなところにいるんだろうって不思議に思って、それで私に連絡してきたのよ』


沙羅の声を聞きながら、陽菜は必死に頭を回転させた。


『車の色とか、ナンバーとかはわかりませんか?』


『いや、私が見たわけじゃないし。って、どうしたの? 何か、あったの……?』


『……またあとで連絡します』


まだ沙羅が何か言っていたようだが、最後まで聞くことなく陽菜は通話を終了した。


「陽菜ちゃん! 沙羅ちゃんは何て!?」


「私のクラスメイトが、樹里らしき人を見たそうです。車の助手席で眠っていたようだと言っていました」


「車の助手席で……?」


怪訝な表情を浮かべる咲良を無視し、陽菜は頭をひたすら回転し続けた。


「咲良さん。どこかWi-Fiが使える個室は近くにありませんか?」


「Wi-Fi? ええと、このあたりならカラオケが一番近いかも」


「では、マコトさん。そこへ向かってください。なるべく急いで」


車のステアリングを握ったまま、マコトは「わかった」と短く返事すると、勢いよく車を走らせ始めた。



――車を走らせること約五分。カラオケ店に着いた陽菜たち一行は、とりあえず一番広い部屋へと案内してもらった。


部屋に飛びこむやいなや、陽菜が素早い動きでソファへ腰をおろし、ノートパソコンを起動する。


「ひ、陽菜ちゃん。何するつもり?」


「もし、私のクラスメイトが見た人が樹里なら、やはり攫われた可能性があります。助手席で寝てたと言っていましたが、おそらくは眠らされているのでしょう」


陽菜の言葉に、咲良と葉月、昌が一斉に息を呑んだ。


「そして、犯人はおそらく樹里と顔見知りの人物です」


「ど、どうしてそんなことが?」


「人を強引に攫うとなれば、後部座席やトランクに押し込むほうが遥かに楽です。おそらく、樹里は自宅から駅へと向かう途中、顔見知りに声をかけられた。そして、送っていくよとか何とか言われ、警戒することなく助手席に乗りこんだと考えられます」


あとは、樹里に睡眠薬でも入れたドリンクを飲ませれば眠らせるのは簡単だ。


「な、なるほど……! で、陽菜ちゃんは今から何を……?」


「樹里を攫った目的がよくわかりませんが、可能性で言えば性的な理由でしょう。樹里は同性から見ても魅力的なスタイルですから。もし、その顔見知りの人物が、以前から樹里に(よこしま)な感情を抱いていたとすれば、ワイセツな行為目当てで攫ったのかもしれません」


「クソ……!」


「だから、とりあえず警察のデータベースに侵入し、旧新宿エリア周辺に居住していて、過去に性犯罪歴がある人のリストを取得します。咲良さんたちは樹里ともつきあいが長いですから、そのなかに樹里と顔見知りの人物がいないかどうかチェックしてください」


「わ、わかった! でも、取得するデータって膨大な量になるんじゃ……」


「それは仕方ありません。でも、今はこれに賭けるしかないんです」


強い意思を宿した瞳を向けられ、咲良も力強く頷いた。陽菜が大きく息を吸いこみ、吐き出す。そして次の瞬間、凄まじいスピードでノートパソコンのキーボードを叩き始めた。

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