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87. ナツ、ロコさんに本気で怒られる

 猿洞窟を卒業してから数日が経ち、その間に私を取り巻く環境は大きく変わっていった。

 

 まず一番に挙げられるのは私達の新しいギルド【エイリアス】についてだろう。このギルドは、当初の予定通り二つ名持ちを集めたギルドで、目的をバグモンスターイベントの攻略として設立したことにしてある。

 だが当初の予定とは少し違う立ち位置となった者が2人いる。1人はミシャさん。彼女はギルドに入ることで受けられるメリットを蹴る代わり、公式イベントには出られるという条件の元入団した。勿論、守秘義務は結んでいる。

 2人目はファイさんだ。当初の予定では彼女もギルド員として在籍する予定であったが、二つ名を持っていないという理由で表面上ギルドへは入団せず、裏ではしっかりギルド運営のサポートすることとなった。


 2番目に挙げられる環境変化は、先日私に付けられた偽の二つ名だ。その名も【アンタッチャブル】。見るからに不穏な気配を感じる二つ名だが、神AIによって全掲示板とユーザー会話ログを調査し、洗い出した二つ名候補の中から実績との関連度が最も高かったのがこの二つ名だったらしい。……解せぬ。

 この二つ名が公式からアナウンスされ、更に新規設立されたギルドの概要情報から私がアンタッチャブルであることが知れ渡り、それ以来プレイヤーからの視線が大きく変わった。私とすれ違う人は2度見してくるし、遠くでこちらを指さしてひそひそ話する人も居る。正直あまり気分がいいものじゃない。


「まぁ、最初の内だけだよ。私達も大なり小なり二つ名を得たあとはそんな感じだったけど、良くも悪くも物珍しさで注目してくれるのは最初だけなんだよねぇ……」

「わっちもじゃな。二つ名を得たあとは今のお主と同じような状況じゃったが、時が過ぎれば自然と無くなっていったのぅ」


 やたらと視線に晒されるこの状態が今だけだというのなら、今は我慢するしかない。……それにしても、ミシャさんが凄く哀愁を漂わせているのだけれど、何かあったのだろうか?


「あ、そういえばシュン君。今まで表に出てなかったキャラクター名が大々的に表に出て、二つ名と結び付けられちゃったけど良かったの?」


 シュン君は基本ソロプレイであり公式イベントにも殆ど出ない為、見た目と二つ名は知られていたけれどキャラ名は知られていなかったのだ。今回の件でキャラ名と二つ名が結びつけられたことが本人にとって不都合なことでは無かったか少し気になった。


「……実はシュンって名前、僕の本名なんです。だから足の速い子って二つ名とシュンって名前が紐づけられると、正直微妙な気分になっちゃいますね。ただ、どうしても知られたくなかったって程でもないので問題はないです」

「お主、ネットゲームで本名を使っておるのかえ? 不用心じゃのぅ。まさか素顔まで晒してはおらんじゃろうな?」

「流石に本名を出した上で素顔は晒してませんよ。キャラ名に関しては、いいのが思い付かなかったので本名をそのまま使ったんです。ありふれた名前ですしね」


 ――……あれ?


「俺はリアルと同じ見た目だが、今ん所なんの問題もないぞ? ちなみに名前も本名だ」

「お主の個人情報などどうでもよいわ! おっさんと子供の個人情報を同列に語るでない!」


 ――……あれれ?


 私は今更になって自分がかなりマズい問題を犯していたことに気付き、ひとまず私は気配を消してこの話題が通り過ぎるのを待つことにした。……けれど、そんな私に違和感を持ったのか、ミシャさんが私のことをじっと見つめてきた。


「ナツちゃん、まさか……やっちゃってる?」

「……」


 ――やばい、どうしよう! 私、今凄い目が泳いでるのが自分で分かる! 否定したいのに緊張して口が開かないよ!!


「お主、まさか本当に……。正直に言うのじゃ……名前と見た目がリアルと同じなのかえ?」

「……はい。髪型や髪色は変えましたけど顔は殆ど同じです……」


 空気が一瞬キュッと縮んだ気がする、そして一気に大爆発を起こした。


「見た目が殆ど同じな上に、名前までリアルと一緒というのがどれだけ非常識で危険な事なのか分かっておらぬのか!!」

「ひゃい! ごめんなさい!!」


 ロコさんから今まで見たことが無いレベルの剣幕で怒られた。正直、両親からもここまで怒られたことはないかもしれない。

 それからはネット上に個人情報を晒す危険性を懇々と説明され、私はただでさえ小さい体を更に小さくしてロコさんのお説教を聞き続けた。


「まぁまぁ、ロコっち落ち着いて。あんまり怒るとナツちゃんが畏縮しちゃうから。……でもね、ナツちゃん。世の中には色んな人が居るから、本当に気を付けないと駄目だよ? 何かあってからじゃ遅いんだからね?」


 ミシャさんからもそう諭され、私は神妙に頷いた。

 ロコさんから私がやったことの危険性を説明され、自分が如何に迂闊だったのか理解した。名前以上に顔がマズいとのことだったが、もうすでに二つ名持ちとして注目を浴びてしまっている状況ではどうすることも出来ない。

 

「ナツ、もしこの事で何かあれば、わっちにすぐ相談するのじゃぞ? わっちはこれでも法律関係にちと詳しいのじゃ。何かあれば力になれるやもしれん」

「はい、お手数お掛けしますが宜しくお願いします」


 その後、ミシャさんから「何だかんだナツちゃんはギンジ君と一番似てるよね♪」と冗談を言われて場が少し和んだ。


 いや、ギンジさんはとてもいい人なんだよ? 凄くお世話になってるし。……ただ、ちょっと釈然としないのは何故だろう。

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