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81. ヘイト感覚

 ヘイトとはゲームなどでよく使われる用語で、簡単に言うと敵から受ける敵意だ。それはダメージを与えた時や、魔法などを使った時に増加し、その場で一番のヘイトを稼いでいれば攻撃対象とみなされる。

 これが私1人で戦っている場合なら問題ない。ヘイト量に関係なく狙われるのが私だからだ。けれど、味方がいる場合は話が違ってくる。自分の役割に応じてヘイト量を抑えたり、逆に率先してヘイトを稼がなければならない。


「お前さんのペットは遠距離攻撃型とサポート型だ。つまり、そいつらが攻撃対象にならねぇようにお前さんがヘイトを率先して稼いで、回避タンクのような役回りをしないといけねぇんだ」


 タンクとはパーティー戦闘における役回りの1つで、敵のヘイトを取って仲間に攻撃が向かわないようにする役割の者のことだ。ギンジさんが言っているのは回避タンクなので、攻撃を避けながら敵のヘイトを取っていく形になる。

 役割としては、他に攻撃役のアタッカーや回復役のヒーラー、あとは強化魔法を使うバッファーや弱体化魔法を使うデバッファーなどもある。なので私の場合はアタッカー兼回避タンクということだ。


 私はギンジさんの話を聞きながら、私が今まで意識出来ていなかったヘイトの重要性を理解していった。


「お前さんは今、敵のヘイトを掻っ攫う為の技能を持ってねぇ。だから敵を攻撃してヘイトを奪う必要があるんだが、これまでの戦い方が回避をメインに隙を突いて攻撃していくスタイルだったからな。ヘイトを奪うのが遅ぇんだ」


 私の避けながら隙を見計らうスタイルより、遠距離攻撃で攻撃タイミングが私より多いパルの方がヘイトを稼ぎやすい。つまり戦い方を根本的に変えなければならないということだ。


「これまでの戦いから学んだことが役に立たない訳じゃねぇ。相手を観察し、行動パターンを覚え、隙を狙う、この技術はそのまま武器になる。ただその武器の使い方を少し変えるだけの話よ。……これからこの洞窟を攻略するまでの間にビシビシ鍛えて戦い方を矯正していく。ペットを失わず一緒に戦いたいなら食らい付いていけ」

「はい、よろしくお願いします」


 『ペットを失わず一緒に戦いたいなら食らい付いていけ』その言葉は私に必中クリティカルヒットだ。


 ……


 …………


 ………………


「おら、技能の回転が遅えぞ! どんどん使ってけ!」

「はい!!」


 戦う度にギンジさんから叱咤が飛んでくる。私はそれを無心で受取り、忠実に熟していく。

 戦闘は続き、少しずつ洞窟の奥へと向かう。そしてとうとう複数体同時に襲って来るエリアへと入った。


「ヘイトはモンスター1体1体の個別に管理されてんだ。だから、1体からヘイトを奪ったからといってもう1体を無視していい訳じゃねぇ。敵が複数体なら全員を攻撃して、それぞれからのヘイトを奪え!」


 今までの戦い方と比べると圧倒的に行動量が増え、高速での戦闘を余儀なくされる。それはとても大変だったが、その戦い方に慣れて来たためか、相手の予備動作が前以上によく見えるようになってきた。と言うより予備動作を見る前に動けていて、若干予知している気分になってくる。


「今までは避けながら隙を狙ってたからな。考える時間は十分にあった。だが戦闘の速度が上がってくれば考える時間も短くなっていく。すると人間不思議なもんでな。考えなくても今までの経験から自然と答えを導き出せるようになってくる」


 戦闘を繰り返しながらも、その戦闘速度はどんどん上がっていく。レキやパルへの指示だしもどんどん最適化され、今までで一番息が合っている気がする。

 けれど終わりは突然やってきた。まだ戦闘の途中だというのに、ふっと頭が真っ白になって次に自分が何をやればいいのか考えられなくなったのだ。すると、私の変化に気付いたギンジさんがやってきて、瞬く間に猿達を切り伏せた。


「今日はここまでだな。よく頑張った。この調子で行けば数日中には攻略出来るだろう」

「ギンジさん……凄く疲れました」

「まぁ、そうだろうな。お前さんの今の状態は、本当の意味での集中力が切れた状態だ。普通の奴はそこまで絞り切る事は出来ねぇ。……そいつはお前さんの才能だよ」


 ギンジさんが珍しく褒めてくれている気がする。けど、何も考えられなくて何を褒められているのか全然分からない。……調子が戻ったらもう一度褒めて貰おう。

 その日はそれで解散となり、自分のプライベートエリアに戻ったあとはすぐにログアウトして、ベッドの上で爆睡した。

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