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211. そして極へ……

「ネガティブバイアスって言ってね。基本的に人はネガティブな思考や情報、経験に重きを置く生き物なの」


 悪鬼を倒した後、私達はギルドハウスへと戻った。

 そして今は私の部屋で、悪鬼を倒した時にミシャさんが言っていた『自己認識の壁』について説明を受けていた。


「そして重要なのが『同じネガティブでも人によってタイプが違う』って事。例えば、常に体の不調を探す人も居れば、調子が出ない理由を探す人が居る。後よくあるのは、何かをやろうとする時にまず出来ない理由から探そうとする人とかね」


 そんな話を満面の笑みで話すミシャさんは、とても楽しそうだった。

 こういう時のミシャさんの顔を見ていると、偶にだがゾクリと怖く感じる時がある。

 

 ――きっとミシャさんは人が大好きなんだろうなぁ。……犬や猫に向けるそれと限りなく近い意味合いで。

 

 人が大好きだからこそ人の内面を読み取る能力に長けているし、人を操る技術にも長けている。きっとミシャさんにとって人とは愛玩動物であり、楽しい観察対象なのだ。

 そんな一面を感じるからこそ時々怖く感じる事もあるけれど、だからと言ってどうこうという事は無い。だってミシャさんからは、人との繋がりを大切にしているという一面も確かに感じるからだ。


「さて、こっからが本題ね♪ 私の見立てだと、ナツちゃんのネガティブの元は自己肯定感の低さにあるのだよ!」


 ミシャさんはビシッと私を指さし、高らかに宣言した。


「自分の事を駄目な子だと決めつけている所があるから、目隠しみたいな何かしらの制限が掛かるとやる前から酷く弱気になるし、演じる事に関しても理想と現実の差という荒探しを無意識にしてしまって、演じる事に集中出来なくなる。……でも、ナツちゃんは直情的でのめり込み易いっていう性格をしてるから、怒ったりボルテージが上がって来るとネガティブな思考がスポーンと吹っ飛んで行っちゃうんだよね」

「……確かにそうですね。私は自分に自信がありませんし、演じる最中の荒探しに関してはまさにそうだった気がします。……後半に関してはあまり認めたくありませんけど、確かにそうですね」


 学校から逃げ出して不登校になり、レキという大切なパートナーと出会ったのに、守れず死なせてしまった。

 エイリアスの師匠達には何時も情けない所を見せているし、何時も助けられている。

 こんな私が『私は自分に自信があります!』なんて言えるはずもない。


「えっと、つまりは自信を付ける事が重要って事でしょうか?」

「いんや、そうじゃないよ。そもそも自信なんて物は幻想だし、よくある言い訳の材料でしかないからね。……ナツちゃんに必要なのは、自分を騙す技術と経験に基づく『出来る』という根拠さ」


 ミシャさんの説明は続く。


「悪鬼と戦った時のバロメーター10に入る際にやった事、これが自分を騙す技術。そして上手く自分を10に持っていけたという経験が、次も上手くやれるという根拠になる。これから私は色んな自分の騙し方を教えるから、ナツちゃんは自分を騙しながら沢山の成功体験を積み重ねていくの。これは気休めや誤魔化し、スピリチュアルな手法よりよっぽど効果的なやり方さ♪」


 こうしてミシャさんの、私への指導方針が決まった。


「ナツ、わっちからも良いかの?」

「は、はい。大丈夫です!」

「うむ、まず先ほどの悪鬼との戦いは中々見事だったのじゃ。……それでの、先ほどの戦いを見ながら、ナツになら出来るかもしれぬ立ち回りを1つ思い付いたのじゃ」

「本当ですか!?」


 今ロコさんと2人で作り上げようとしている立ち回りとは、ハイエンスドラゴンなどの強敵と常に接近した状態で戦う私が、ペットの安全性を確保した上でペットを前面に出して戦える方法だった。


「まだ机上の空論でしかないがの。……じゃが、実現出来るのであればその有用性は計り知れぬし、テイマーの概念が大きく変わる偉業になるじゃろう」

「な、何だかとんでもなくスケールの大きい話ですね……」

「あぁ、じゃがこれは、常識的に考えれば実現不可能な立ち回りじゃ。長年テイマーをやってきて、多くのペットを育てて来たわっちじゃからこそ言える。……じゃが、先ほどのお主の戦いぶりを見てから、その空論が浮かんで頭から離れんのじゃ」


 私の目をまっすぐ見るロコさんの目が細められ、私はそのロコさんの迫力に押されて背筋がビクンッと伸びた。


「ナツよ、これは先程も言ったように机上の空論じゃ。結局は空論に終わり、実現出来ん可能性が高い。……じゃが、どうか暫くお主の時間をくれぬだろうか? もし実現出来るのであれば、わっちはその立ち回りで戦っているお主を見たいのじゃ」

「……分かりました。私の方こそ、どうかよろしくお願いします」


 それから暫く、私はハイテイマーズ戦準備期間以上の激動の日々を過ごした。

 

 地獄の訓練場によるスキル上げにペットのレベル上げ。

 ギンジさんから様々な武器の扱い方を体に叩き込まれ。

 シュン君からプログレス・オンラインに最適化された体の動かし方を学び。

 ミシャさんから自意識や思考プロセスを魔改造され。

 ロコさんと共に、今までにないテイマーの立ち回りを作り上げる。

 

 合間合間で、次世代デバイスの性能を十二分に発揮してロコさんや私のペットと戯れながら気力を回復し、そんな激動の日々を乗り越えていった。

 

 ……そして、その成果を示せとばかりに強敵ビリディアのバグモンスターが出現した。

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