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148. プログレス

 ハイエンスドラゴンの変化を見て、最初に動き出したのはギンジさんだった。

 ギンジさんはハイエンスドラゴンとの距離を一気に詰め、その身を包む膜へと切りかかる。……けれど、それは膜を切り破ることなく弾かれてしまう。


「くそっ! やっぱりそうか! おい、ファイ。こいつはクラーケンも食ってたのか?」


 ギンジさんは焦りを隠すことなくファイさんに詰問した。


『いや、そんなはずは無い。ここに凍結処理していたバグモンスターにクラーケンは居なかったし、このハイエンスドラゴンが発見された時点でも、その出現場所からしてクラーケンを捕食していた可能性は無いはずだ』

「だが、現にこいつのこの能力はクラーケンの物だ! 捕食してないモンスターの能力を身に着けたってのか!!」


 ギンジさんのあまりの剣幕に私は不安を覚え、これがかなりマズい状況なのだということを嫌でも認識する。


「ロコさん、クラーケンってどんなモンスターなんですか? あの膜って何なんですか?」

「……そやつは深海のクラーケンと言うボスモンスターでの、HPが3割を切るとその体を膜で覆い、完全防御状態になるのじゃ。その後HPは完全回復され、ステータスも大幅強化されて戦闘が第2ステージへと移行されるのじゃ」

「そんな!? あの膜を破る方法は無いんですか!」

「……出来ん。これは次のステージに進む強制イベントじゃからの」


 ミシャさんやシュン君の献身でなんとかここまで戦ってこれたのだ、ここでもし全回復とステータス強化なんてされたら、勝ち目なんてあるはずが無い。


『……確かに原因不明で予想外な状況だが、状況はそこまで悪くなっていない。先ほどハイエンスドラゴンに施した凍結処理は、完全凍結を断念した分強固になっている為、そう簡単には破れないはずだ』


 ファイさんの言葉を聞いて、改めてハイエンスドラゴンを見る。確かにその身を拘束する鎖は健在で、今もハイエンスドラゴンの身を縛っている。

 けれど、その拘束が実際にいつまで続くか分からない。膜が解けたら総攻撃を仕掛けて少しでも早くHPを削り切らないと。


「キャン!?」


 みんなが今も回復し続けるハイエンスドラゴンを見て焦りを募らせるなか、その静寂を破るレキの鳴き声が響く。

 その鳴き声に驚きバッと振り向くと、そこには黒いオーラに包まれ苦しむレキの姿があった。


「レキ!? なにこれ! ファイさん、何が起こってるんですか!?」

『分からない! データ解析もやっているが、データ上は何も起こっていない! 仕様外の何かが起こっている!』


 ファイさんも予想外のこの状況に驚いているようだった。そしてその様子に私は更に不安を募らせる。


「ナツよ、サモンリングに戻すのじゃ!」

「そうか! レキ、戻って!! ……なんでっ!?」


 ロコさんの提案を聞き、すぐにレキに触れてサモンリングへと戻したが、サモンリングとなっても黒いオーラは纏わりつき、少しずつリングが黒く変色していった。

 その時、そのオーラと同じ色に光るハイエンスドラゴンの瞳が目に入る。


「お前かぁぁああああ!!」


 私は両手の短剣を強く握り締め、ハイエンスドラゴンへとその刃を突き立てた。けれどその刃がハイエンスドラゴンに届くことは無く、その身を膜う膜に弾かれてしまう。それでも私は攻撃を止めず、何度も何度も切りかかる。


「ギンジ! わっちらもやるぞ!!」

「意味の分からねぇことばっかりだな、おい!!」


 ロコさんもギンジさんも、ペット達も総出で攻撃を開始する。けれどそんな攻撃は無駄だとばかりに、全ての攻撃を受けてもその膜は傷一つ入らない。

 そしてそんな状況で私の毘沙門天の効果が切れた。毘沙門天のデメリットは反転していたデバフの倍化。私はそれまでのステータスの落差と、重いデバフに膝を付く。


「こんのぉぉおおおお!!」


 私は左手に持つ短剣を捨て、両手で一本の短剣をドスのように持ち、体全体で押し込むようにその刃を突き立てた。

 頭の中が真っ赤に染まる。澄ました顔でこちらを見つめるこいつを倒すと感情が爆発する。……すると、その破壊不可能であるはずの膜が少しずつ歪み始めた。


「毘沙門天!!!」


 私は理屈も何もかなぐり捨てて、力を求めて毘沙門天を発動させる。すると効果が切れたばかりのはずの毘沙門天が発動し、再度私の姿を変えた。


「どうなっておる!? 毘沙門天は1度効果が切れて、24時間のクールタイムに入ったはずじゃぞ!?」

「分からねぇよ! それ言ったら、絶対に破れねぇはずのこの障壁が歪んでんのも意味不明だろうが!」


 私は更に一歩踏み込み、それに応じて膜の歪みも更に大きくなる。すると私とハイエンスドラゴンの周りに変化が起き始めた。少しずつ空間に小さなひび割れが起き、地面のテクスチャがはがれ始めたのだ。


『マズい! ロコ君、ギンジ君、今すぐそこから離れるんだ! ナツ君とハイエンスドラゴンの周りのデータが崩壊し始めた。このままでは君達も巻き込まれるぞ!』

「なんじゃと!? じゃが、それではナツはどうなるんじゃ!!」

『理由は分からないが、この現象を起こしているのはナツ君だ。ナツ君のデータには何の障害も起きていない為、恐らく無事のはずだ!』


 ロコさんは一瞬躊躇したが、ペット達のテクスチャにノイズが走り始めたのを確認すると、一度強く目を瞑り、カッと目を開くとギンジさんやペットと共に後退する事を決断した。

 そして私は周りの状況にも気付かずハイエンスドラゴンとの攻防を続ける。……すると不意に、ハイエンスドラゴンの瞳から強い光が放たれ、それと同時にハイエンスドラゴンを中心とした強い衝撃波が発生した。

 私はその衝撃波に耐える事が出来ず、吹き飛ばされ宙を舞う。


 衝撃波に吹き飛ばされ宙を舞うなか、私は見た……レキのサモンリングが砕けて黒い光の粒子となり、ハイエンスドラゴンに吸収される様子を。


 そして衝撃波が収まり、この隔離エリアが静寂に包まれた時、そこにハイエンスドラゴンの姿は無かった。


 <<レキのロストにより、心合わせの指輪をドロップしました>>




 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「素晴らしい……遂にこれで、”プログレスが進みだす”」

 

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