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145. 最初の脱落者

 ハイエンスドラゴンに付加された厄介なバフ、『物理耐性(極大)』『魔法耐性(極大)』『暴虐の怨嗟』を全て剥がす事に成功し、ここからは憂いなく攻撃を加えることが出来るようになった。

 つまりは、ここからが本当の戦いになると言う事。


「気を付けろ。バフを全て剥がしたことで、恐らく奴の行動パターンが変化するはずだ。羅刹天を発動しちまったからな、暫くは俺がヘイトを受け持つ。ロコは俺の回復を頼む、その他は自己判断だ」


 羅刹天は発動中敵ヘイトを強制的に自分へと向ける効果がある。そして発動中は徐々にHPを消費し、回復アイテムの使用は不可、更に自身への回復効果のある魔法や技能の効果も半減される。少しでも長い間ヘイトを受け持つためにはロコさんの回復が必須なのだ。


 ギンジさんの指示を聞き、私も前線に加わろうと動いたのと同時に、ミシャさんから声が掛かる。


「ナツちゃん、ステージ交代だね♪」

「交代って、次はミシャさんがここで歌うんですか?」

「イグザクトリー♪ 本格的な戦闘に入っちゃうと、前線で私が出来る事ってあんまり無いんだよね。だから、後方でバフ要員をやるのさ♪」


 ミシャさんは本来戦闘に特化したプレイスタイルではなく、あくまで本業はパフォーマーだ。その為、どの戦闘系スキルも高レベルの物はなく、高レベルのボスモンスターにダメージを入れる手段を持っていない。

 私と入れ替わりにミシャさんがステージに立つと、インベントリを操作してヒップホップダンサーのような衣装に変更する。直後、BGMが流れ出し、ミシャさんの歌とダンスが始まった。

 ちなみに、歌唱スキルも演舞スキルも基本的に技能毎の条件をクリア出来ていれば内容は自由で、歌唱スキル技能では事前に流れるBGMを設定する事が出来るようになっている。


 いくらミシャさんの歌とダンスのクオリティが高くても、ここでぼーっとしている訳にもいかない。私はすぐに意識を切り替えてレキ達に指示を出す。


「レキは私にフェアリーハウルを掛け続けて。パルはとにかく安全圏からエレメンタルブレス。モカさんはギンジさんがヘイトを取ってくれている間にカウントナックルの回数を稼ごう!」


 レキ達への指示だしを終えると、私も近接戦闘準備をしながら前線へと向かう。


「リジェネレーション! ライオンハート! レッグ アビリティ アップ! レッグ アビリティ アップ セカンド! レッグ アビリティ アップ サード! ……ウルフ シャウト!『アオーン!』」


 今、ハイエンスドラゴンのヘイトはギンジさんが1人で引き受けている。この状況は長くは続かないと判断し、私はポーションを飲みながら今出来るありったけのバフを自身に掛けた。そしてその後にデバフ付き筋力上昇エナジーバーを限界まで食べる。

 更に追加でミシャさんからスタミナ自然回復量上昇と機動力上昇のバフが入った。


「アオーン!」


 ――回避上昇(大)!? 幸先最高っ!!


 レキのフェアリーハウルによるランダムバフの効果で、回避上昇(大)という大当たりを引き、幸先の良さにボルテージを上昇させてハイエンスドラゴンへと迫る。


「バックスタブ! ラピッドラッシュ!!」


 最初の一撃に確定クリティカル&クリティカルダメージ増大のバックスタブを叩き込み、その直後にコンボ数に応じて機動力を上げ続けるラピッドラッシュで切り刻み始める。

 ハイエンスドラゴンは流石の上位ボスモンスターであり、更に運営スタッフキャラも含めた数々のバグモンスターを捕食したことによって、素のHPと防御力はかなり高い。私の攻撃を受けても、入るダメージ量は微々たるものの様だった。

 しかもハイエンスドラゴンの能力に常時HP回復があるのだから質が悪い。


「陽炎! 桜花幻武! 一刀破棄!」


 私達が総攻撃を仕掛けている間、ギンジさんは様々な技能を駆使してハイエンスドラゴンの猛攻を防いでいた。それでも消費するHPとスタミナは凄まじく、それをロコさんがMPポーション片手に回復し続ける。


「光龍、エレメンタルブレスじゃ!」


 そしてそんなヒーラーの立ち回りの最中でも、私とシュン君を遥かに凌ぐ火力を出す。流石にこの危険性の高い戦いの中で、HPを犠牲に光龍の火力を上げる事は無かったが、それでもイクスチャージと思念の宝珠によって強化された光龍の火力は凄まじかった。

 それだけでなく、白亜や黄月の火力もカンストペットなだけあってかなり高い。これでその気になれば近接戦も熟せるのだ。恐らくプログレス・オンラインでロコさん以上のパーフェクトプレイヤーは居ないのではないだろうか。


「ナツよ、ハイエンスドラゴンの怯み耐性が徐々に強くなって来ておる。このままでは全体攻撃をギンジだけでは止められん。次からはモカさんと光龍の火力も使って全体攻撃を止めるぞ」

「分かりました!」


 既にモカさんのカウントナックルは4回当てており、次で確定クリティカルが起きる。流石にチャージはタイミングが合わないため出来ないが、それでもモカさんと光龍の火力が合わされば、まだ全体攻撃のキャンセルは出来るはずだ。

 その予想は正しく、定期的に発動しようとするハイエンスドラゴンの全体攻撃はモカさんと光龍の火力によって止める事が出来た。そしてその後も安定した戦況が続く。

 だが、そんな安定した戦況にも1つ目のリミットがやって来た。


「ギンジ、羅刹天のコストがもうわっちの回復力を超えそうじゃ。済まぬが羅刹天はここで終いじゃ」

「分かった。……シュン、俺の後のヘイト処理はそっちに任せていいか?」

「いいですが、火天を使っても受け持てるのは30分までです。しかもその後は戦線を離脱することになります。……大丈夫ですか?」

「どのみちこのままだと全滅だ。その後のことはその後考えりゃいい」


 現在、ハイエンスドラゴンのHPはやっと3割を削った所、まだまだ戦いは続く。敵の怯み耐性はどんどん高くなっていっているし、AIも少しずつ私達との戦い方を学んできている。

 確かにシュン君の火天による強襲と、機動力と反応速度の超強化による避けタンクの立ち回りがなければ戦線が瞬く間に崩壊する可能性は高い。


「……分かりました。ここからは僕がヘイトを受け持ちます! 火天!!」


 シュン君の姿が火天発動により変化し、それに合わせるようにギンジさんは羅刹天を解除した。

 そこからはシュン君の高機動力から繰り出される強力な蹴り技の数々と、ハイエンスドラゴンの猛攻を避け続けながら戦線を維持し続ける。

 ギンジさんはタンクの役割から解放されて攻撃に専念し、ロコさんもヒーラーの役割から強力な魔法によるアタッカーの立ち回りに切り替えた事によって、私達の火力は一気に増した。


 一気に増した火力とシュン君の奮闘によりハイエンスドラゴンのHPはどんどん減り始め、遂にそのHPが半分を切った。……そして状況は一転する。


「グゥウウウオ˝オ˝オ˝オ˝オ˝オ˝オ˝ォォォン!!」


 ハイエンスドラゴンの突然の咆哮により私達は動けなくなってしまう。


「くっ、その咆哮はもっと先の隠し玉のはずじゃぞ!?」


 私達が動けなくなったことを確認すると、ハイエンスドラゴンはその翼を羽ばたかせ私達から距離を取った。そして口を大きく開け、ブレスのモーションを開始する。


 ――私達をブレスで一気に薙ぎ払う気だ!

 

 データ保護を受けている私達プレイヤーはやられても復活出来るが、ペットは復活する事が出来ない。私はその強力なブレスによってレキ達がロストする瞬間を幻視してしまい、血の気が引いて体が震えだした。

 このあと起こる絶望から目を逸らすように思考が止まり掛けたその時……ハイエンスドラゴンが私達とは全く違う方向を向く。それは後方支援をしていたミシャさんの居る場所だった。


「ミシャの奴、歌唱スキル技能で咆哮を防いでたのか」


 ハイエンスドラゴンの咆哮を咄嗟の機転で防いでいたミシャさんは、ステージ上でヘイトを奪う歌唱と演舞の技能を使っていた。ロコさんが深淵魔法で召喚したステージは歌唱スキル技能の効果も増大させる為、ハイエンスドラゴンのヘイトを一気に奪うに十分な効果を発揮したようだった。

 けれど、それではミシャさんがブレスで吹き飛ばされてしまう。私はこれから吹き飛ばされてしまうであろうミシャさんに視線を向ける。……そこには渾身のドヤ顔で歌って踊るミシャさんが居た。


(ふっふっふ、今日一のファインプレーさ♪)


 そんなことを言っていそうなミシャさんは、その堂々とした立ち振る舞いを一切崩さないままハイエンスドラゴンのブレスに消えていった。

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