オーディション
「結構いるね」
ジニーは人の多さに驚いて、目を丸くした。オーディションには三十人近くが集まっていた。
「そうね……」
明らかにエミリーは緊張して、グラブを持つ手が震えていた。
「大丈夫だって。見てよ、あんなマニキュアやスカートで捕れる訳ないよ」
確かに場違いな格好が多く、何のオーディションか分からなかった。
「でも……」
エミリーはまた俯いた。
「あら、偶然ね」
聞きたくない声に振り向くと、後ろにレべッカが立っていた。
「またか……」
ジニーは大きな溜息を付いた。レべッカは、ご丁寧にプラネッツのユニホームまで着ていた。
「まさかオーディションに来たなんて言わないわよね?」
レべッカはピチピチのユニホームで、腰をくねらせた。
「悪い?」
ジニーはズイと前へ出た。
「やる気?」
パットとリタがレべッカの前に出た。
「やめなよ、ジニー」
エミリーは泣きそうな顔で、ジニーを止めようと抱きついた。
「やあ、ジニー」
突然の声は巧だった。
「どうも……」
ジニーはさっきの勢いは失せて、俯いた。
「ジニーもオーディションなの?」
汗を拭きながら、巧は笑顔で言った。
「友達の付き添い……」
小声になったリンジーだった。
「どうして松田と知り合いなの?」
固まりかけてたエミリーは、ジニーの腕を揺すった。
「家の間借り人よ……」
「エミリーです、応援してます」
ぼそっと答えたジニーを尻目に、エミリーは満面の笑顔で巧と握手していた。
「あんたねぇ……」
溜息を付いたジニーだった。
「ジニー、エミリー、今日二番手で投げるから見て行ってね。それとオーディションがんばって」
巧は手を振って戻って行った。横のレべッカ達三人組は固まり、エミリーはニヤニヤ笑っていた。
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「これなら大丈夫だよ」
ノックが始まると、まともに捕れる者は少なくてジニーは笑顔でエミリーの肩を叩いた。
「そうね……」
さっきまで緊張していたのにエミリーは、うわの空だった。
「エミリー、聞いてる?」
「……松田……キュートね」
エミリーの目はハート型になっていた。
「まったく……もうすぐ順番だよ」
ジニーの大きな溜息も、レべッカのフィールディングを見ると消え失せた。大口を叩くだけあって、これまで見た中では一番上手かった。
「レべッカ……上手いね」
やっと正気に戻ったエミリーが呟いた。
「もう少し腰が低くて、膝が柔らかいといいのにね。初動も遅い、バットに当たった瞬間に動かなきゃ」
リンジーの言葉に、エミリーは唖然とした。
「ジニー……」
「さあ、エミリーの番よ」
笑顔のジニーは、エミリーの背中を勢いよく押した。
「キャッ」
エミリーはゴロのバウンドにグラブを合わせられなくて、逸らせてばかりだった。しかし、それでも逃げることなく必死で喰らい付いていた。
「ボールの正面に入るのっ! 腰を落としてっ! グラブが逆よっ! 最後までよく見てっ!」
リンジーの的確なアドバイスに、エミリーは捕球の確立を上げた。しかし、ショートバウンドに合わせきれず、ボールがお腹に命中した。
「エミリーっ!」
飛び出したジニーは、エミリーを抱き起こした。
「捕れた……ジニーのおかだげよ」
痛みに耐えながらも、エミリーは笑顔を見せた。
「大丈夫か?」
ノックをしていたベンチコーチのマイクが、心配顔で近付いて来た。
「大丈夫です」
エミリーはジニーに支えられて、なんとか起き上がった。
「最後の方は様になってたな、それじゃあ位置に付いて」
マイクは真顔で、ジニーにグラブを渡した。
「私は付き添いで……」
意味が分らないジニーだった。
「的確な指示だった、君の守備を見てみたい」
マイクは、ホームベースに戻りながら笑った。
「何でこうなるのよ」
呟いたジニーだったが、グラブをはめると腰を低く落とした。
「いい構えだ」
マイクは呟くと、緩めの打球を打った。すると、ジニーは打った瞬間にダッシュして簡単にさばいた。ニヤリとしたマイクは、少しづつ球速を速めた。
「速いよっ……でも」
ジニーの中に煌きが走った。打球音は渇いてて、白球が糸を引いて飛んで来る。それが茶色のグラウンドに跳ね、砂煙が舞い上がる。瞬間の痛みとグラブの立てる゛パシッ゛という音が心を沸き立たせた。
強い打球がイレギュラーする、体勢を崩されたジニーは瞬時に片膝を付き逆シングルで捕球した。誰もが唖然と見詰めた……マイクとジニーはまるで、対話を楽しんでいるように打っては捕りを繰り返した。
「ジニー、何で?……上手いよ……」
見ていたエミリーは唖然とした。
「よし、これまで。集まってくれ」
マイクはバットを置くと、集合を掛けた。
「採用者は、レべッカ・ハミルトン……それにジニー、苗字は?」
「ローレンですけど、私応募してません」
マイクの以外な言葉に、ジニーは困った顔で腕組みした。
「やりなよジニー」
エミリーはジニーの腕を揺すった。
「でも……」
突然の事で、ジニーは言葉が出なかった。
「日給100ドルだけど」
マイクはニヤリとした。
「二三時間で100ドル……」
ジニーの目がドルになった。
「それと、エミリー・ウェルズ。君もボールガールとして採用だ」
「やったっ! やろうよジニー」
マイクの言葉にエミリーは飛び跳ねた、その笑顔にジニーは仕方なく頷いた。
「納得いかない」
両腕を腰に当てたレべッカは、眉間にしわを寄せていた。