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海辺のイエローサブマリン  作者: 真壁真菜
21/29

 ゲームが終わり、ジニーは更衣室で着替えていた。巧が登板を飛ばしていたので違うピッチャーだったが、何故か安心してゲームに集中出来た。


 時折、ベンチの巧を見るが目を合わせずに、巧がこちらを見てない時にそっと見ているだけだった。


「帰り、何処かに寄ってく?」


「そうね、カフェでも行こうか」


 エミリーの問い掛けに、ジニーは笑顔で答えた。ふと視線をずらしレベッカを見る、薄化粧で服装も地味になってる事に首を捻るが、スタッフなどの対応が依然と比べ横柄ではなく、優しくなってる事には気付いていた。


「昨日、松田とデートだったの?」


 ロッカールームに入って来た売店のおばさんが、笑顔でレベッカに聞いた。その言葉はジニーの心臓を締め付けた。身体は震え、心拍は壊れそうな位に上昇した。


「見てたんですかぁ?」


 笑顔で答えるレベッカは、チラッとジニーを見た。直ぐに察したエミリーが、間に入るがジニーは固まって声すら出なかった。


「ジニー……」


 振り向いたエミリーは、見た事のないジニーの様子に動揺した。そして、目を見開いたジニーの大きな瞳からは、涙が溢れ出した。


「あれっ……あれっ……」


 真っ白になった頭の中で、ジニーは景色が歪んでるのを……ただ、泣きながら見ていた。


「どうしたのよっ?」


 肩を揺らすエミリーは、子供みたいに泣くジニーを揺らした。そして、自分も泣きそうになり、慌ててジニーの肩を抱いて外に出た。


 泣きじゃくるジニーを抱き締めながら、エミリーもまた泣きながらジニーの家にフラフラと歩き出した。


「あら、どうしたの二人とも?」


 ドアを開けたサラは二人の様子に驚いたが、直ぐにジニーを自分の部屋に連れて行った。


「ごめんさいね。迷惑かけて」


 玄関で泣いていたエミリーを居間に通すと、タオルを渡してお茶を出した。


「私……ジニーに何もしてあげられなくて……」


「いいえ、エミリーは色々してくれたじゃない」


 俯くエミリーに、サラは微笑んだ。


「でも……」


「ジニーは自分で決めないといけないの。立ち止まるのも、進むのも……」


「私は……」


「こんな良い子が傍に居てくれるなんて、ジニーは幸せ者……」


 サラはエミリーを抱き締めた。


___________



 サラはエミリーを車で送ると、ジニーの部屋をノックした。ジニーはベッドに伏せたまま、シクシクと泣いていた。


「……エミリーに聞いたわよ?」


「……」


 泣いてたジニーが一瞬止まった。


「泣くだけじゃ、何も解決しないんだけどなぁ」


 ベッドに座ったサラは微笑むが、ジニーにも分かっていた……分かり過ぎていた。でも、巧がレベッカとデートしている所を想像するだけで、涙が溢れ思考は停止した。


「一つ分かったわね」


 ふいのサラの言葉、ジニーには意味が分からなかった。


「えっ?」


 枕から顔を上げたジニーに、サラは頬にキスをした。


「これだけ泣いて、悩むんだもん……ジニーは巧の事が本当に好きなのよ」


 自分でも分からなかった心の中のモヤモヤが、小さな音と共に胸の中で弾けた。


「私……」


 起き上がったジニーは、サラの顔を見た。優しい笑顔は、いつもジニーの傍に居た。


「がんばれ……」


 抱き締めたサラは、それだけ言った。


「……うん」


 その言葉は、魔法の様にジニーの心と身体を軽くした。


___________



 全体練習が終わると、巧は何時もの様にランニングを始めた。眩い太陽と芝生の香りが潮風に混ざって、心地良い汗に変わる。


 身体は軽く体調も良かったが、何故か心は霞んでいた。そいて、グランドを何周かするとベンチに見知らぬ人を見掛けた。


 ジムと気軽に話している様子を見ると、関係者だとは思ったが刺す様な鋭い視線には違和感があった。


 40前半、金髪で瘦せ型で雰囲気には強い意志が現れていた。ジムに呼ばれてベンチに行った巧は、帽子を取って挨拶した。


「巧・松田です」


「指を見せろ」


 挨拶も返さず、男は巧の指を見て表情を変えずに続けた。


「投げて見ろ」


「ジム?」


 巧は訝し気にジムを見た。


「こいつは昔からの知り合いで、ジョー・……」


「マットから聞いた。お前の球を見てみたい」


 ジムが紹介しようとするが、ジョーと呼ばれた男は途中で遮り巧に強い視線を向けた。


「まあ、いい。投げれるか?」


「はい」


 一応ジムの許可は出たので、巧は頷いた。そして、マットの知り合いだとは分かったが、強い命令口調に少し嫌な感じがした。


 巧はブルペンに行こうとするが、ジョーはマウンドを促した。トムも呼ばれ、マウンド付近で軽く打ち合わせをした。


「知ってる? マットと関係あるみたいだけど」


「さあな、ジムとも知り合いの様だが、マットのコーチってとこか」


「何か、凄く見てるんだけど」


「知るか……まあ、今のお前の成績じゃ、メジャーの視察とかじゃないから安心しろ」


 確かに三勝二敗、防御率3.47は悪くはない数字だっが、メジャーに昇格出来る数字でもなかった。


 ジョーは腕組みしたまま、トムの後ろで巧の投球を見ていた。別に指示やアドバイスも無く、ただ見ているだけだった。


 20球程、変化球を織り交ぜながら投げると、ジョーは巧に聞いた……低い声で。


「メジャーに行きたいか?」


「行くつもりです」


 真っすぐにジョーを見て、巧はしっかりした口調で言った。


「……そうか……練習を続けろ」


 ジョーは背中で言うと、ジムと一緒に戻って行った。


「何だったんだ?」


「さあね……」


 マウンドに来たトムは唖然と言うが、巧はジョーの背中に残る違和感を拭えずにいた。

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