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みんなと仲の良い雪城さんだが、なぜか俺とだけ友達になってくれない

作者: 墨江夢

 雪城由乃(ゆきしろよしの)は、みんなの人気者だ。

 

 容姿端麗、頭脳明晰。だけどそのことを周囲にひけらかすことはせず、その上誰にでも優しい女の子。

 友達100人なんて、そんなレベルの話じゃない。少なくともこの学校で、彼女と友達でない生徒などいなかった。


 ……ただ一人を除いて。


 誰とでも仲の良い雪城が、唯一「友達じゃない」と公言している男子生徒。それは他ならぬ俺・里崎修輝(さとざきしゅうき)だった。


 雪城に「友達じゃない」宣言された日のことは、今でもはっきり覚えている。

 半年前、俺と雪城は担任に頼まれて美術室の備品の整理をしていた。

 

 備品の数は多く、10分〜20分で終わるような量ではない。小一時間はかかると見た方が良いだろう。


 一時間も無言で作業するなんて、拷問以外の何ものでもない。折角二人で整理しているんだ。楽しくお喋りでもして作業しようじゃないか。

 その雑談の最中で、俺は雪城にこう言ったのだ。


「雪城って、誰とでも仲良くなれるよな。羨ましいよ」


 俺の発言に対して、雪城はこう答えた。


「確かに私は、誰とでもすぐに仲良くなれますね。だけど里崎くん、あなたとだけは友達になるつもりがありませんから」


 ……えっ、何で?

 真っ先に脳裏に浮かんだのは、純粋な疑問だった。


 誰とでもすぐに仲良くなれるのなら、何で俺とだけ友達になってくれないの? 本当に友達になりたくないのだとしても、何でそれを面と向かって言うの?


 雪城に対して何かした覚えはない。となると、生理的に受け付けないというやつか。

 雪城は神や仏じゃない。人間という一種の動物だ。だから本能的に苦手な相手の一人や二人いたって、おかしくないわけで。

 残念なことに、その内の一人に俺が入ってしまった。それだけのことである。


 嫌われているのなら、仕方ない。用事でもない限り、こちらから話しかけるのは控えるとしよう。

 そう思っていたんだけど……


「ねぇ、里崎くん。放課後、昇降口前に溜まっている落ち葉を掃いてくれって頼まれたんですけど……一緒にやってくれませんか?」


 事あるごとに雪城は、俺に「手伝って」と頼み事をしてきていた。


 嫌っているから、面倒事を押し付けているわけじゃない。「一緒にやろう」と誘っているのだ。


 ……お前、俺のこと嫌っている筈だよな? そういうお願いは、沢山いる友達にしろっての。


 しかし帰宅部の俺は放課後これといった余計もなく、また頼まれた以上無碍に断ることも出来ない。

 結局彼女に付き合うというのが、いつものパターンである。


 落ち葉を掃いている最中も、まったくの無言というわけじゃない。寧ろ雪城の方から、積極的に話しかけてきたくらいで。


 でも、俺と雪城は友達じゃないんだよな? ただのクラスメイトなんだよな?


 こんなにも頼ってくれるというのに、どうしてお前は俺と友達になってくれないんだ?





「今日のお昼は、既に予定がありますか?」


 俺が登校するなり、雪城は「おはよう」と近寄ってきては、そんなことを口にした。


「予定っていうか、いつも通り学食で済まそうかと思っていたんだが……それが何か?」

「いや、別に。何かってわけじゃないんですけどね。なんて言うか、その、えーと……」


 髪の毛を指でくるくる巻きながら、なんとも歯切れの悪い喋り方をする雪城。一体何が言いたいのだろうか?


「だからね……この前落ち葉掃きを手伝ってくれたわけですし、そのお礼にお昼をご馳走しようかなーって」


 成る程、理解した。

 つまり友達でもない俺に、借りを作りたくないということだな。


 だったら俺に頼み事をするなと言いたいところではあるが、あの時にはやむにやまれぬ事情があったのだろう。例えば、俺以外手の空いている生徒がいなかったとか。


 俺もこの学校の一員なわけだし、落ち葉掃きを手伝ったことくらい貸しだなんて思ってはいないんだけど……ご馳走されることで雪城の気持ちが軽くなるのなら、素直に提案を受けるとしよう。


「折角だから、ご馳走になるとするよ」


 答えると、雪城の顔がパーッと明るくなった。……俺に借りを作っている状態が、そんなに嫌だったのかよ。


 そしてやって来た昼休み。

 俺は学食……ではなく、中庭にやって来ていた。……え? 何で中庭?


「ご馳走する」と言われたから、学食で一番安いきつねうどんでも奢って貰おうと思っていたのに……。

 そう思っていた俺の前に、雪城は大きな重箱を置いた。


 そこで俺は、ようやく理解する。

「ご馳走する」っていうのは学食の代金を出すという意味じゃなくて、お弁当を用意するって意味だったのね。


 重箱の中には、様々なおかずが敷き詰められている。どれも俺の好物だ。


「これ、全部雪城が作ったのか?」

「まぁ。料理には、そこそこ自信がありますので」


 女の子の手作り弁当。

 そう思うと、どうしても身構えてしまう自分がいる。

 しかし、これはあくまでお礼なのだ。他意がないことは、明白である。


 俺は早速、お弁当をいただくことにした。

 そうだなぁ。まずは……唐揚げを食べるとしようか。


 俺は唐揚げを摘むと、口の中に放り込む。


「うん、美味い」

「本当ですか!?」

「嘘をついてどうするんだよ? いや、マジで美味いよ」


 雪城がどれだけ料理好きなのかが、この唐揚げには表れているような気がした。


「よく友達に、お弁当を作るのか?」

「……友達には、作ったことがありません。これから作る気もありません」


 友達ですらない、俺だからこそこの弁当にあり付けた。そう考えると……今の雪城との関係も、案外悪くないのかもしれない。


「それにしてと、本当に美味いな。雪城は絶対、良いお嫁さんになるよ」

「およっ!? ……ありがとうございます。楽しみにしてて下さい」


 楽しみとは、何を楽しみにしていれば良いのだろうか?


 ……あぁ。もしかして、結婚式や披露宴のことか。

 クラスメイトという理由だけで、友達でもない俺まで呼んでくれるなんて、雪城は義理堅い人間である。





「クリスマスの予定って、埋まってますか?」


 終業式の日、俺は雪城からそんな質問をされた。


 ……そういえば、明後日はクリスマスだったな。

 恋人もおらず、毎年一人自宅でゲームしているたけの俺にとっては、単なる平日に過ぎない。だから、クリスマスという概念がすっかり頭から抜けていた。


「いや、特にないけど」

「でしたら、我が家に来てくれませんか?」


 どうして俺が雪城の家に? 友達ですらない、ただのクラスメイトの俺が?

 一瞬そう思ったが、よくよく考えて「そういうことか」と納得する。


「あー。パーティーでもするのか」

「そんなところです」


 クラスメイトという理由だけで俺にも声をかけてくれるとは、これが雪城の人気者たる所以なのだろう。

 俺は彼女の気遣いを、素直にありがたいと思った。


 クリスマス当日。

 俺は雪城の自宅に行って、そして驚いた。

 彼女の家には……俺以外のクラスメイトが、誰も来ていないのだ。


 俺は時刻を確認する。

 集合時間は、午前11時。そして現在は、10時50分。


 まだ集合時間になっていないとはいえ、それでも数人くらいは到着していてもおかしくない。


 不審に思った俺は、雪城に尋ねてみた。


「なぁ、雪城。他の奴らはまだ来てないのか?」

「他の人たち? 今日は里崎くんしか呼んでいませんよ?」


 俺しか呼んでいない? つまり今日のパーティーは、俺と雪城の二人だけで開催されるということか?


「友達じゃない俺と、二人きりで良いのかよ?」


 その質問に、雪城は「こいつ、何言っているんだ?」と言いたげな視線で返す。

 そして少しだけ頬を染め、恥ずかしそうに呟く。


「友達じゃない……特別な人だからこそ、二人だけで過ごしたいんです」


 ……もしかして、俺は大きな勘違いをしていたんじゃないだろうか?


「友達じゃない」というのは、友達以下という意味ではなく、それ以上の存在だということで。

 雪城は俺と友達になりたくないと言った。それはつまり、友達以上の……恋人同士になりたいということだったのだ。


 そう考えると、雪城が何かと俺に頼み事をしてくることにも、お礼と称して俺に弁当を作ってくることにも、二人きりでクリスマスを過ごしたいと言い出すことにも説明がつく。


「里崎くん、クリスマスプレゼントです」


 雪城は俺に小包を手渡す。

 早速開けてみると、中に入っていたのは……手編みのマフラーだった。


 雪城に「友達になりたくない」と言われてショックを受けるばかりの毎日だったけど……見方を変えるだけで、こうも嬉しくなるものなのか。

 

「ありがとう、雪城。大切に使わせてもらうよ」

「えぇ、そうして下さい。そのマフラー以外を付けていたら、許しませんからね」

「わかってる。……それでだな、俺は一つお前に謝らなければならないことがあるんだ」


 言いながら、俺はプレゼントの入った小箱を差し出す。


「プレゼントは用意してきた。でも、正直お前と二人きりだとは思っていなかったら、その……無難なものになっているんだ」


 男女問わずにあげても喜ばれるものとして、俺が用意したのはちょっと高価なチョコレートだった。

 雪城は俺の為にマフラーを編んでくれたというのに、俺は雪城の為のプレゼントになっていない。本当、プレゼント選びからやり直したい気分だ。


 しかし雪城は「気にしなくて良いですよ」と言いながら、微笑む。


「その代わり、来年のクリスマスは期待していますから」


 それは「来年も一緒にいてくれる」という言質に等しくて。


 あぁ、やっぱり。俺はいつまで経っても、雪城とは友達になれないみたいだ。

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