3,マリノフカ
『マリノフカの峠道』〓〓〓〓〓〓〓〓
Tier1学年、戦車エリート化になりいよいよ進級の季節です。
tier2学年になれば、マッチングtier2級許可証が与えられて、tier3戦場にお邪魔するようになる。
そうなると、自走砲や駆逐戦車に活路を見出し、クラス替えする戦車がたくさん出てくる。
Ltraktorが入学した時代には、自走砲系車両に対して、頭を切り取るその改造には蛮族・懐古趣味・異常車という偏見が蔓延しており、学園側も通学車両に考慮して駆逐戦車は特別枠、自走砲戦車の入学を拒否していた。しかし戦車開発試験競争の観点から、むしろ砲弾を山なりに放ち、強力な砲を載せれることは先進的ではないかという声が上がり、戦車側の需要で自走砲系戦車の入学ができるようになっていた。
そのように日進月歩を遂げる技術ツリー。
しかし、低tierの車両の確定がされつつも未だに中tier学年・高tier学年の線引き、上限tierはどうするかは議論の余地があった。それというのも公正的に進めていた学園を、実権ないし金に物を言わせて地位を築こうと画策している某国の陸軍団体がいたからだ。
彼らの要求はtierは20までとする校則で(教団員の受け皿を増やす名目と、パーシング将軍降ろし・時期主力教団員開発のための予算獲得が狙いと思われる)、ついには学園側との妥協点で上限tier15が決議された。
だが、この決定に反旗を翻した三両の戦車学車( 様々な呼び名があるが俗に言う特典の三博士、[[M6A2E1]]・[[Pz.Kpfw. V/IV]]・[[A-32]]のこと。ちなみに某国の陸軍団体とはアジウマミ・ゼネラルテイスト・フーズであり、先鋒を務めていたのは[[M4A2E4 Sherman]] )によって提唱された『低tierは1を保育園区域、~4をジュニア教育区域、中tier4~7をミディアム教育枠、そして高tierから軍師官学校となりtier8以上。この区分によってtier9が上限と定め、特例として元首をtier10に置く(・・・)』なるマッチング陸戦条約が支持され、決議は取って替えられた。(紆余曲折を経て現在のマッチング形式になる。私の脳内では)
tier10学年…、tierの頂点。なんと甘美な響きだろうか。
幾両かがtier9年生に就任したと噂に聞く。また違うところではtier9年に不相応として元老院より降格させられたなんてのも。(聞いているのかねパンツ君!!!)
いわば元帥の地位に等しい高tier学年、さらにその頂点の座を奪い合う慌しさのなか、長きに渡って空位となっていた国家元首とも大元帥とも言えるtier10に、ついに一番乗りを果たした戦車がいるという。
その戦車による宣誓が納められたニュース映画が学園各位に送られるとフォーラム掲示板に掲げられた。実物フィルムよりも噂のほうがはやく流布され、ここLtraktorが通うギムナジウムにも波及してきた。口々に「とにかくすごい、見ろ」、「三連マッチング」と内容まではわからない。
そしてやっと、謎のベールに包まれた演説のフィルムがハーバー大学よりギムナジウムことWoT学園に届いた。Ltraktor並びに戦車たちは目を輝かして今か今かとニュース映画を眺めていた。
チン毛のようなものがスクリーン上を縦横に踊り白黒映像がぼんやり浮かび上がった。ダメダメな蓄音機が放つような耳につんざく音声。質が悪いニュース映画だと辟易していたが、オープニングが過ぎてアメリカの制作会社のロゴが出ると一変して変わった。白黒映像はカラー映像になり音声も生で聴いているような迫力で素晴らしいものになった。
そのことに驚いていると、映像には壇上に上がる[[T30]]が鮮明に映し出された。
マイクの前に立ち、正面こちら側を見るとプリントスクリーンのフラッシュが一斉に沸き上がる。映画を見ているLtraktorたちの方が眩しくて目を閉じてしまうほどであった。
フラッシュが静まると、T30は静かに語りだした。
『6世代と3年前(ver6.3)に私たちの祖先たちはこの世界に、自由の理念から生まれ、全ての戦車が平等に創られているという命題に捧げられた国々を生み出しました。(・・・)世界は私達がここで言うことなどほとんど気に留めないでしょうし、それを長く 記憶にとどめることもないでしょう。でも、彼らがここで為したことを決して忘れることができないのです。(・・・)その任務とは、あの死車たちの死を無駄にはしないとわれわれがここに固く決意し、 この世界が神のもとで新しい自由を生み出すことを決意し(・・・)そして私は、戦車の、戦車による、戦車のためのマッチングをすることを誓う』
あまりにも淡々と、マイクも声を拾うのにやっとで、カメラマンたちは演説が終わるのに気づかないほど静かに終わった。
T30が壇上から降りようとした時に、思い出したかのようにフラッシュが疎らに彼を包んだ。(某演説を宣言風に無理やり捏造しましたごめんなさいエイブラハム戦車…)
よく分からないけど、この戦車はなんかやってくれそうだ!そう思った矢先、いちりょうの軽戦車が噛み付くようにT30に食って掛った。カメラに捉えられたその軽戦車は緑色の顔色で喚く。
『献金団体がバックにいるって聞いたんですけほ!T30さんとは長い付き合いだし心も繋がってるから(・・・)おれが絶対気付かせてあげるから!そこんところよろしくね』
突然の招かれざる客に動じず、T30は軽やかに返す。軽戦車の糾弾はむしろ“クリーンなT30”像を強固にするのに一役買った形だ。
聴衆の笑われ戦車になったその軽戦車にカメラが寄っていくと、
『管理人さんの声が聞こえた絶対正しい…』
と意味不明な捨て台詞を吐いて演説砲撃会場を出て行ってしまった。
まだニュース映画上映は続いているのだが、アメリカのニュース映画本編上映は終わると、長いエンディングロールとともに雷神行進曲が流れる。すると視聴覚室から満足したというような笑を見せる低tier年生がどんどん出てくる。
その中にLtraktorはいた。
「T30かっこよかったなぁ…tier10重戦車っていう肩書きもすごくかっこいい…」
まだ夢見心地で、うっとりとT30の演説映像の余韻を楽しんでいる。
紳士的な砲塔旋回、砲身を下げたときの精悍な目つき、腹から響くほどの砲撃音。なにより突然興奮した軽戦車の砲撃を砲塔で跳ね返してしまうタフネスさに一目惚れしてしまっていた。
「tier10…」
Ltraktorは、もし自分がtier10学年になったら…なんて妄想をしていた。仲間の救援に颯爽と駆けつけ、どんな砲撃も跳ね返す装甲で盾になって、どんな戦車も一撃でスクラップにしてやる砲…そんな妄想を。
*
まだ低学年だからtier10までの進路を意識しなくてもいいのと、tier10にならなくてはいけないということはない。
tier6年生ともなれば困ることはないし、そこからさらに経験を積んで8年生になれば余生は遊んで暮らせる。でもやはり、tier10というものがある限り、その響きは何ものにも代え難い魅力があるのである…。
どうしてそこへ辿り着こうか考えていると、何か近道はないかと穿った考えが過ぎる。それはtier10学年への侮辱以外のなにものでもないが、少ない戦闘数で辿り着きたいなぁと思ってしまうのは戦車のサガだろう。
憧れを抱きつつモンモンとしながら過ごすLtraktorであった。
*
今日はマリノフカ学園内の自然複合兵器マリノフカ公園(マリノフカは牧歌的なマップと思われている節があるが、実際は英雄都市・英雄要塞に並ぶ英雄自然)で一号戦車先輩と散歩する。
「そうか、まだ進路は決めてないのかい。まぁ山あり谷あり蟻地獄あり?だ、そんな早急に決めなくて大丈夫だよ」
tier2年生として、一号戦車になるべきか二号戦車になるべきか決めかねていたので、一号戦車先輩に相談を持ちかけてみたのです。
Ltraktorの焦る気持ちを察した一号戦車先輩は宥めるように、
「経験を積んでからでも遅くはない。経験こそ勉学のありかた、自分が得意だなって思うプレイスタイルに気付くのだって大事なことだからね」、そう答えたのでした。
失礼ながらその助言は期待外れで、落胆と不安は募るばかり。しかし、そんな不安で視界が狭まっているからこそ自制を促してくれたに他ならない。
早くtier10へ昇進したいという焦る気持ちを落ち着かせて、自分が出来ること得意なことを整理してみる…。
「得意…なこと」
「そうそう、得意なこと。得意なことがなくたって大丈夫。好きなことでもいいんだ、好きなことが一番だよ」
好きなこと…。
次第に、記憶の片隅に眠っていた楽しい感情が呼び起こされ、過去の、保育園での日々を、アルバムを捲るように思い出した。
重く閉ざした尾栓がゆっくりと開き、Ltraktorは細い声で、それでいて自信を秘め、言いました。
「得意…、待ち伏せとか偵察が好きかな…撃ち合いはあんまり得意じゃないです…」
Ltraktorが思い悩んでしまったので、一号戦車先輩も反応を伺うように押し黙っていたのですが、Ltraktorがそう言うと思いもよらぬ言葉だったのか、喜ぶように感心したのでした。
「むっ!いいねェ…
一年坊は大抵、撃ち合いやりたいーだの走り回りたいーだので
じっと偵察する大切さがわかってないからね、大した奴だ!」
Ltraktorは褒められるとは思っていなかったので、照れくさそうに付け加える。
「昔、MS-1と保育園が一緒だったんです。色んな事を教えてくれた先生もいて、それで視界距離や隠蔽率に気付いて…。」
Ltraktorは何か思うことがあったのか、第一声の内に秘めた自信とは対照的に思い悩むような素振り。
言葉を詰まらせてよそよそしくいぢけているLtraktorに一号戦車先輩も思い当たることがあるようで、一蹴するように笑い飛ばす。
「いいのいいの!ランダム戦で戦うってことは慣れ不慣れも共にするってことだから割り切って、そっから差し合いを考えたほうが成長するよ」
相変わらずの大笑い。
不思議と馬鹿にされているという気持ちはなく、一号戦車先輩なりの激励。一号戦車先輩の気風からすると、強くなるということは、性能はもちろん大事だが、それ以上に勝ちたいという気持ちが必要なのかもしれない。
そういう風に受け取って、なるほどと思うLtraktorに一号戦車は話を続ける。
「ところでMS-1と一緒だったって…それどこの話か聞いていいかな?」
不意の質問に言葉がジャムるが、思い出した記憶を辿って、たどたどしく言葉を連ねる。
「ソ連に…父の…仕事の関係でロシアに、どこの町かは分からないんですが、そこの保育園で…」
疑問に思った一号は、
「うn…?スペインでドロッドロの内輪揉め始まったから、ウォーゲーミングアップすっぞオラ!ってみんな駆り出されたんだよ?
始めはちょいと砲慣らしがてらに締め上げて帰ろうって、みんな軽い気持ちで浮かれてたんだけどね…紅茶しにピクニックにきた場違いイギリス戦車を島に蹴り返して、フランス戦車もついでに沈めてやる!ってな具合でね。
そしたらあいつら不介入とか言っちゃってさ、代わりにソ連戦車勢が参戦してて、そりゃあもう…後で不可侵結んだけどあいつら絶対に許さん!」
と遮る。
昔話に懐かしさを感じて、一人頷く一号戦車先輩。Ltraktorは耳を傾けていたが、実のところ、わだかまりを覚えて黙り込んでいた。
一号戦車は話が逸れたと気まずさを抱き、
「あー、キミは違うんだっけ。
これけっこうタブーな話だから他言無用で…でないと、俺がスクエ□に怒られちまう」(ふわっふわなパラレル設定!クロスオーバーですが、オーダーオブウォーと世界観を共有してます)
と、これは嘘っぱちだから信じるなと冗談話を話すように言い加え、何か思いついたような仕草を交えて「そうそう、これは秘密なんだけど…」と言うとLtraktorとの距離を詰めた。
三秒間停止しカニメガネを発動し近くに戦車がいないことを確かめ、そっと砲口を耳撃ちするように近づけヒソヒソと「俺のtier2級証だとtier2特別許可証っていってマッチング優遇が付くんだ。進級先迷ってて決められなかったら一号戦車がいいよ、他のクラスじゃ色々大変だからね…二号戦車は強いけど、機関銃しか武装ないからtier3戦場で苦戦する場面あるかも」と囁き、ぱっと砲口を離すと
「そろそろマッチングが終わるから戦場に行かなくちゃ、それじゃーねー」
と行ってしまった。
一号戦車が言ったスペイン内戦、そのことで腑に落ちないLtraktorはガレージへの帰路で考えに耽る。
「(皆戦いに駆り出された…僕は行ってない…なんだろう、行けなかった理由って…。そういえばたまに出会う二号戦車先輩は一号戦車先輩っぽいけど、僕とは改良砲塔しか似てない…なんで?)」
一号戦車が口をすべらた言葉が頭からはなれない、自問すればするほど謎は深まるばかり。なぜタブーなのか、なぜ自分はみんなと違うのだろうか。
ちょうどマリノフカの丘を登りきったとき、Ltraktorはあるひとつの結論に至る。
「僕は…ドイツ戦車なんかじゃないただの試作…だから皆がスペインで戦ってるとき…