表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思い出の怪文書を保管  作者: ChihaTANK
4/5

2,入学

『WoT学園入学』〓〓〓〓〓〓〓〓


_date; &br;天気・たぶんはれてると思う

最近ボクはやけにものかなしい。

なぜならばいつものようにあそびに行こうよ

ってKSたちに持ちかけてもまったくノり気じゃないからです。

ガッチリでやさしそうなえん長が来ると、

すぐにとびついてダダこねていて、

ようすがおかしい。

しょうがないので、ひとりで掛…町の

はなれにあるゾウ木林で迅ぼうと

保育エンから出ようとしたら、

ガッチリでやさしそうなエン長に呼び止められた。

ロシア語はわからないけど、どうも、

今日はあそびに出るな、と言っているようだった。

ほんとうにつまらない、

なにもしてないとこんなにつまらないなんて知らなかった。

KSたちはシクシク泣いてるばかりで

かまってくれないし、

ヒマだからねころがって、大きな古どけいの玉を身て

ヒマをつぶすしかなかった。

はぁ、……

なんて、チラシのウラをつかった

日記にためいきを書いてしまうほど

すごくすごくヒマです。

トハちゃんいまなにしてるのかなぁ&_time






しばらくすると外が騒がしくなって、軍楽隊の一行が乗り込んできて状況は一変!保育園に軟禁していたのはこのためか!!

楽しい調子で太鼓を掻き鳴らして笛を吹き鳴らして、保育園の中ををぐるっとグルグル回りだして、これはもう一大事だと言わんばかりに僕とMS-1は半狂乱に喜んだ。

異国情緒溢れる選曲で興味は絶えなかったし、誘われるように、軍楽隊に手招きされるように機関車に乗り込んだ。たぶん、傍から見たら子ネズミのパレードに見えただろうな。

列車が走り出す前の、軍楽隊が演奏してくれた最後の一曲は今も耳に残ってる、ムシデンムシデン…可愛らしいし歌いやすくて好

きだ。


 ※


 なんで機関車に乗ってるんだっけ? そんな疑問が浮かぶも、車窓から大都市が見えてくるとそんなことは忘れてしまった。 駅に着き、降りるとガッチリで優しそうな髭の生えた人が出迎えてくれた。 ガッチリで優しそうな園長と雰囲気は似てるし、笑顔が可愛らしかったが、親しみやすさよりもむしろそれが怖かった。ガッチリで優しそうな彼は、Ltraktorにも分かるように易しいドイツ語で説明する。

「はじめましてLtraktorくん、キミの事はお父さんから聞いているよ。

 少しばかり戸惑っているようだけど安心したまえ、これからはちゃんとした学校に通えるようになる」

 お父さん?ちゃんとした学校?Ltraktorの懐疑心と戸惑いは深まるばかりだ。

「あの・・・保育園に帰りたい・・・」

「保育園?ああ、あの児童更生施設のことか

 なに気にすることはない、なんたって保育園ってのは卒業するためにあるからな!…さぁ来なさい」

 言われるがまま、LtraktorとMS-1一行は丘の上に建つ、今にも天を掠めそうな大きな城を仰ぐ広場に整列させられる。 Ltraktorの他にも戦車がいて、広場を埋め尽くすくらいごった返している。音楽は国境を越えるとはよく言うが、言葉は学ばなければ流石にどうにもならない。

「Carri armati cinesi e giapponesi armati Qual è il problema?」

「Je ne sais pas. Il semble que je connais c'est vers vous. 」

「hey guys ,What talking about?」

 Ltraktorに落ち着きがありません。 雑踏の中に飛び交う様々な国の言語が織り成す不協和音もそうですし、 今まで戦車らしい戦車はMS-1しか知らなかったのに[[Renault FT]]、[[Vickers Medium Mk. I]]、[[T1 Cunningham]]を初めて目の当たりにしたのですから。

「ねぇKS、あのバルコニーで女の人が言ってること分かる?」

 Ltraktorは気を紛らわせようとMS-1に話を振る。どうだすごいだろと得意げになりたかったLtraktorは、丘に聳える城から女性が声高らかに宣言している内容を同時翻訳してみせようとした。

「わげーみんぐよ、すべての…あれ、ドイツ語じゃないのかな?  あ、やっぱドイツ語だ!えーっと…自由の話は仲間を作るな…前の車が転んだら後ろは?…ヨーロッパは…いいよね…??ドイツは小説の輝きあれ?!何言ってんだあの人!やっぱりドイツ語じゃないや!」

 ドイツ語をMS-1に教えてやろうとやり始めたことだが、父の使っていたドイツ語とは似て非なるものだった。これでは面目が立たないと「ドイツ語がかっこいいからって、適当言ってもらっちゃうと困るよまったく!」と照れ隠し気味に言い訳をしました。

 なぁMS-1、キミもそう思うだろう? 見上げた砲身をMS-1に向ける。彼はLtraktorの話なぞ聞いておらず、フランス戦車の[[ルノー>Renault FT]]とお喋りをしてました。 まるで本当の兄弟のように楽しそうに…。

 その時Ltraktorの目にはMS-1の背中が遠く、小さく映った気がした。

 Ltraktorは咄嗟に砲塔を別の方向へ向け、何事もなかったように平然を装う。平常心を繕えば繕うほど、この雑踏の中、どれだけ戦車がいようとたった独り。そんな孤独が襲う。

「hey, Over here ! Over here !The yanks are coming! 」

 ぼんやりしていると、Ltraktorに向けてこっちこっち!と手を振っている[[中戦車>Vickers Medium Mk. I]]がいた。 小さくてお洒落な三角帽子を優雅に被る姿は、近世のおとぎ話に出てくる兵隊さんのようだった。一切妥協のない貫禄がある雰囲気がかっこいいし、何よりLtraktorと体格が似ていることから親近感を覚え、呼びかけに答えた。

「Yankee to the ranks from the towns and the tanks …HA! Hi Hi Hee! Call of your numbers loud and strong !」

  気さくな感じで“ハーイ"と言いかけたとき、後ろからそんな掛け声が上がって[[カニみたいな軽戦車>T1 Cunningham]]が威風堂々とLtraktorを押しのけて、その中戦車の許へ。押されよろけた拍子にLtraktorは群衆の外縁へ逃げるように歩き出しました。    演説会の最後に、ガッチリで優しそうな髭を蓄えた人が〆る。心ここにあらずで言葉はLtraktorに留まらず、風が吹き抜けるように通り過ぎていく。


「なにはともあれ、我が学園へようこそ」


  ガッチリで優しそうな髭の人の長話のなかで覚えていることは、最後に言ったその言葉だけ……


 *


 この始業式の洗礼を受けたモノは須らく学園への参加を許される。

 様々な国の戦車がWoT学園へ通うので共通語は英語が推奨され、英語が分からない、または通学難のモノのため各国に姉妹提携校が設けられている。 代表的なものでドイツはギムナジウム、フランスは廃校寸前マジノ学院、ソ連はマリノフカ学園、アメリカはハーバーみなと大学、イギリスはレッドブリッジ・カレッジ。アジアにも新たに三棟を建築中で、籍だけは必ずどこか一校に置く代わりに、それらすべての提携校はWoT学園と同じ質の教育を受けられ、姉妹校領であれば自由に留学することを許可されている。

 突然の入学式から数日が経ち、LtraktorはWoT本校に籍を置いて学園生活を開始しました。 MS-1をはじめ、ほとんどの戦車は母国語が通じる学び舎に散っていきましたが、マジノ学院だけは事情が違い、3月ごろから雲行きが怪しくなって、5月ごろに本格的に廃校になりました。 視聴覚室で放映されているニュース映画から察するに、[[D1]]、[[H35>Hotchkiss H35]]はジークフリートタウンへ雪崩れ込んでなし崩し的に亡命政府を樹立。AMC34、ルノーR35といった戦車はモンテカッシーノ修道院で難民生活をしているようだ。  学園側にとっては大事件なマジノ学院廃校、しかし他校に通う身としては対岸の火事といった様子で、Ltraktorや数両の戦車が安否を気遣う程度でこれといって気にも留めなかった。

  Ltraktorは祖国へ帰らなかった戦車たちと花の学園生活を送り、一ヶ月、二ヶ月…友達作りのきっかけができないまま月日は流れ流れて、一緒に遊びたい仲間になりたいという想いは薄れていきました。 淡々と授業を受けてはガレージへ帰る毎日。

 Ltraktorはいつも一人、ガレージで。


 *


 “学園”に馴染めてきた頃、tier2年生のお兄さんお姉さんとたまに合同授業をするようになってきました。授業で下級生が分からないところがあれば、上級生がそれを教えてあげるといった風にペアを組むわけです。概ねこの試みは良好で、規則を設けて制度化しようなんて話も出てきているほどです。 しかし合同授業の度にLtraktorは憂鬱でした。 戦車との付き合い方を忘れてしまった彼には、挨拶から先のことはできませんし、学園はその先のことは各々が学ぶべきという姿勢。

「実はこのスキンMOD自作なんだ~」

「すごいですね」

「MC☆すうじく知らないの?毎週日曜の朝番組のやつなんだけどDJホーホーのトークが…」

「すみません…僕そういうの疎くて…」

「ふぅ~ん、そうなんだ…」

「……。(スキンMODってなんだろう…、なんか車体見せてきたけど別に変わったところはないように思える…)」

 そんな風に、教室内はワイワイとしているのにLtraktorの島だけは沈黙で粛々と授業を受けている。 もちろん、このままあぐねているわけにはいかないと夜な夜な宿題を消化しつつ、話題に乗るために無線機からノイズ交じりのラジオを聴く。

  チャンネルを回してもこの時間だ、ノイズばかり。

 たまに誰かが何かを話しているのに合わせるが、なんか怖いので聞かなかったことにしたりで諦めかけたときに楽しそうなトークが聞こえた。慌てて密にチューニングする。

<<……リーちゃんの登場です!サリーちゃーん!>>

<<ハァイ!全国のサリーファンのみんな~お・ま・た・せ♪枢軸サリーの少しだけメランコリー♪>>

 人生ではじめてのラジオ番組。何を言っているのかわからないけど、ご機嫌なDJに当てられて貪るように聞いてしまった。

 これで今度の合同授業の話題ができた、そんな思いを抱きつつDJのトークに耳を傾けながら眠りにつくのであった。

<<…それでね、なんでお月様((バグジャンプなどをすると見れる月。ちなみにお月様マップはエイプリルフールネタだと思われているが、運が良ければ4月1日限定でマッチングされる))がお空にあるかって皆知ってる?知らない?実はね…太陽の裏に黒太陽があって、そこから毒電波線がい~っぱい出てて今も地球上に毒電波を送り続けてるのね、でもお月様があるお陰で…スタッフ!今日ゲスト呼んでないわよね?!ちょっ誰っなによあんたたry……Ya UVB-76, Ya UVB-76. 180 08 BROMAL 74 27 99 14. Boris, Roman, Olga, Mikhail, Anna, Larisa. 7 4 2 7 9 9 1 ……>>


 今日の合同授業はいつもと違っていた。

 クラスメイトの戦車たちはいつも通り同じ戦車とペアを組んでいるのに、Ltraktorだけは違う戦車とペアを組むことになった。この処置の裏でどのようなことが起こっていたのだろうか、少しばかりの詮索をしたがやめ、Ltraktorはさらに引っ込み思案になるのでした。

「tier2年、自走砲クラスの[[G.Pz. Mk. VI (e)]]でーす。よろちくび~む♪キュイイっえいっえいっ!」

「よ、よろしくおねがいします…([[よろちくびーむ?>Cruiser Mk. I]])」

  新たにペアを組むことになったドイツ戦車に英国式挨拶をされてたじろぐLtraktor。Mk. VI (e)は反応の薄さに呆れて居直って教室を見回している。

「おお♪カリアゲっちはっけーん!ちょお久しぶりじゃん♪シカトすんなよオイッ」

 Mk. VI (e)はそう言って、机ごと[[Loyd Gun Carriage]]ペアのところへ移動していった。

 また一人になってしまったLtraktor。問題児Mk. VI (e)とのペアはその日限りだったが、その次に来た戦車もつれないLtraktorとのペアは長続きしなかった。

 次第にペアを組むことに慣れたLtraktorは、ペアになったお兄さんお姉さんそっちのけでお勉強に取り組む方法を体得していきました。ペアを組んで双方勉学を深める制度なのに、彼らはもはや遊びに来ているとしか思っていないし僕たちtier1年生も同じ。

 でも僕は違う、彼らを反面教師として使うんだ…。そう思うようになったのです。

「えっと…強化ガン立ちドライブ3個で…ドライブ一個50万クレジット、それにかける3で…」

改良型射撃装置ガンレイな」

「えっ、あ、ありがとうございます先輩…改良型射撃装置3個の値段は150万クレジット…」 間違いを指摘され、少しばかり赤面してしまう。

 少し考えれば強化ガン立ちドライブなんて読み方は間違いだとわかるのに…卑猥な言葉を連呼していたんだと思うとさらに脂汗が吹き出るくらい恥ずかしかった。

「じゃあ問題、君の砲収束速度にガンレイの収束時間10%短縮が加わると何秒になるでしょうか?」

 赤面した砲塔を隠すように、机に被りつくようにしてフォーラム・ノートに算数の問題を解いていたLtraktorに現ペアを組んでいる戦車が突然問題を出した。

「えっ…ぱーせんとってなんですか?」

 その返答にハッハッハと大笑いされた。あまり気分は良くなかったのでムスッとしていると彼は、 「とりあえずだな、ガンレイを載せると…君の場合は1.5秒ってところだな  つまるところ、君にガンレイは高値の花、必要ないってことだ」 と、得意げに言い連ねた。

 今まで分からないことがあれば一緒に悩んだり、答えの解き方を教えてくれたりはしたが、こういう風なことを教えてくれる戦車はいなかった。

 その後も、学校の授業なんてしてられないとその先輩に色んなことを聞いた。

「あの先輩…名前伺ってもいいですか…?」

「え!?自己紹介したのに覚えてないのかい!」

 名前を覚えてもどうせ違う戦車が来るし…と、まったく覚える気がなかった。申し訳なさそうに砲身を下げたLtraktorに、しょうがないやつだという風に先輩は名乗った。

「い ち ご う、[[一号戦車>Pz.Kpfw. I]]な。先輩の自己紹介はちゃんと聞いておくように!」

 そうしてLtraktorと一号戦車のペアは、ペア制度の試行期間が終わるまで続いた。

 学園の先生の授業はもちろん勉強になる。算数国語社会理科…、フォーラム黒板をノートに書き写す退屈な作業。でも一号戦車先輩は「そんなのやってもしょうがないよ!」と言って、タメになることを教えてくれる。

 私生活にも言い割ってきて解像度や言語の最適設定も手ほどきしてくれて本当に面倒見がいい。Ltraktorは学園の先輩というよりも、兄として一号戦車先輩を慕っていました。


 *


 入学して数ヶ月、秋の兆しが見え始めた頃に低tier運動会が催されることになりました。

 クラス(車種)別に分けられて、Ltraktorを含むtier1・2年戦車クラスはティレニア海を望むイタリアのカンパニア州([[プロヴィンス]])で騎馬戦をすることになりました。 騎馬戦とは名ばかりで、要は戦車戦。第一試合はtier1学年同士で、谷底開始の建物を挟んでキャプ無し砲撃戦の特別ルール。第二試合はtier2学年で、通常ルールという具合。

 坂を下りる前にLtraktorは一号戦車先輩に声をかけた。

「どうしたんですか?」

 WoT学園が運動会のために新しく獲得した領地を見回していた一号は声をかけられたのに気づき、

「ん、新しい領地にしては狭すぎるなってね…

 ま、そんなことより試合頑張ってね」と言った。

「はい!頑張ります!」

  Ltraktorはそういって、元気よく坂を下っていったのであった。


 この時には微塵も思いもしなかった。Ltraktorの心に影を落とす事件が起きるとは……。


 さぁ、谷底に戦車が集まりだしてきました。

  まずはフランスのルノー。“深淵より蘇った旧支配者”との戦いで活躍したシュナイダーやサンシャモンといった戦車の侍女であったルノーだが、全世界にその慎ましい姿が報道されると、各国の陸軍は旧支配者との戦いの勝敗よりも彼女に首っ丈。戦中から戦後しばらくまでプロポーズが絶えなかったなんて逸話を持っているモテモテの彼女は、足こそ遅いのですが、見た目に反して装甲を生かした戦いが大得意。

  続いてT1カニはフロンティア精神が生み出した戦車で、装甲の薄さを感じさせないほど足の速さと瞬間火力に特化。なるほど20 mm Hispano-Suiza Birgikt Gunを掲げて戦場を駆け回る彼を皆は“紙装甲の掃除屋さん”と呼んだわけか。

  ヴィッカースmk1は、神格化されている菱形女王マザーの血を受け継ぐ英国戦車エリート。一見、親の九光りのボンボンに見えるが、その実態はシュートレスリングの頂点に立つ、相手のキューポラに強烈なサブミッション・ホールインワンを打ちかます残虐レスラー戦車である。


 そんないきり立った戦車たちが集まり、試合が始まって数分。自分のもてる力を余すことなく発揮し、あちらこちらで呻き声があがり地獄絵図が出来上がっていた。谷の上の観覧席に座っていたtier2年生も1年生の奮闘に拍手喝采で大盛り上がり。

 熱気が包むプロヴィンス、思わず建物の陰に身を潜めてしまうLtraktorでしたが初めて見る“戦い方”に胸騒ぎを隠し切れず、 「みんなすごい活き活きしてる…!!  僕も前に出て戦いたい!」 と思ったのです。

 そしてLtraktorが建物の角から車体を出した瞬間でした。

 *ZUBO*

  出鼻をくじくように車体前面を撃ちぬかれ、一発でエンジンが発火した。 刻一刻減り続けるHP。

エンジンは止まっているものの、惰性でそのまま前進し、角から砲塔を出した。

撃った戦車をスポット。

そこに居たのは…MS-1  

保育園では負けたことないのに、遅れをとった、砲塔が車体後部にあるせいだ、火が弾薬庫に移った、はやく建物の陰に隠れなくちゃ、エンジン治るまで撃たれないかな、次弾にどのくらい装填がかかるんだろう…一号戦車先輩が見てるのにこんな…。

 動揺も手伝って、いろいろな考えが頭をよぎっていく。

 MS-1に合わせたレティクルが収束し一発撃てる間があったが、Ltraktorは撃たなかった。…いや、撃てなかった。

 悔しいという感情が、暑い炎のように胸を貫き、保育園での彼らの姿が目に写った気がした。あの頃は無邪気だった。燃えるような痛みで撃発装置を起こすことを忘れてしまった。

 一瞬赤白色の閃光が走り、目の前がセピア色一色に。そしてトドメの何発かが車体前面(となぜか背面)に撃ち込まれて、ささやき声が聞こえた。

「砲塔後部症のくせに…」


*ZUBO*


「車体出してカモになるとか…キャンプファイヤでもしたかったのかな?」


*ZUBOZUBO*


「ああいう奴のせいで砲塔後部症に風当たり強いんだよなぁ…」「アンインストールんで欲しい…」


*ZZZUBO*


 Ltraktorは全身打撲の重症で二試合目のtier2学年の試合を見ることなく、学園の保健室に担がれていった。

 さらには保健室の整備兵に「こんくらいなら唾つけときゃ治る」と言われて火が吹き出るエンジンにペッと唾を吐きつけられ、打撲箇所にリペア湿布を貼ってリペア包帯をぐるっと車体に巻かれて、最後にガレージに帰された。

 この日、Ltraktorの日記には初めての空欄が載った。空欄というより、何か、ミミズが這うような字が、強く日記に掘り込まれてあった。


 Ltraktorはいつも一人、ガレージで。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ