第8話 悪口、それすなわちフラグ
「で、何だって?静月も探索者になるって?」
突然やってきた静月をいったん自室に迎え、俺たちは向かい合って話している。
「そうだよ。私も、麻央と同じ探索者になる。決めたんだ。」
「決めたんだって、お前な。」
静月はかなり明るい茶髪のロングヘアで、一見するとギャルにも見えるような感じなのだが、中身はいたって真面目だ。
思いつきで、ものを言うようなタイプじゃない。
その静月が探索者になると言い出したのだ。
何か、理由があるのだろう。
「両親はいいって言ってるのか?」
「まあね。探索者になるとは言ってないけど、自立してこっちに来たいって言ったら許可貰えた。」
「言ってないのかよ。」
静月らしくない。
「住むあてはあるのか?」
「え?ここ住んじゃだめなの?」
「は?」
謎の同棲前提発言に、俺はきょとんとする。
「な、何言ってんだお前。だ、だめに決まってるだろっ。いくら、幼馴染とはいってもな。」
顔を赤くして慌てる俺を見て、静月が爆笑する。
「笑い事じゃないっての。」
俺はちょっとふくれっ面をして言った。
「いや、ごめんごめん。」
笑い泣きの涙を拭いながら、静月が謝る。
「久しぶりに麻央に会えて嬉しくなっちゃった。ちょっと、からかっただけだよ。住む場所も、もう決まってる。」
「な、ならよかったけど。それで、どこに住むんだ?」
「えっとね、いとこがこの近くに住んでて、その部屋に居候させてもらうことになってる。」
静月のいとこの話は、何度か聞いたことがあった。
何でも静月より2、3歳上のお姉さんで、「黒髪のちょー美人なんだよ~」と聞かされた覚えがある。
ただ、この辺に住んでるというのは初耳だ。
「部屋ってことはアパートか。どこのアパートなんだ?」
「それがね、道に迷っちゃって見つからないの。」
そう言うと、静月はバッグから何やらメモを取り出した。
「アパート与岡103 早倉奈菜」
と書かれている。
「いやお前…」
俺の呆れ声に、静月が「ん?」とかわいらしく首をかしげた。
「『ん?』じゃないよ。アパート与岡はここだよ。この建物。俺らが今いるのが102号室で隣が103。」
「え?嘘?」
「嘘じゃないわ。逆に嘘だろ?本当に気づいてなかったのか?」
「てへっ。」
静月が舌を出す。
「いやあ、全然気づかなかったよ。無いな~無いな~と迷ってて、とりあえず麻央のところ行こうと思ったんだけど、まさか奈菜姉と麻央のアパートが一緒だったとは。」
静月は真面目で、一生懸命なのだが、ちょっと抜けてるところもある。
「探索者になるって聞いた時はビビったけど、何だかんだ変わらないな。」
「ちょっと、どういう意味ぃ~?私だって、ちゃんと成長してるんだから。」
そして静月は、目いっぱいに背伸びしてみせる。
しかし、残念なことに身長150cmくらいだと思われる静月の背伸びは、お世辞にも「おお!おっきいな!」とは言えなかった。
「ああ。すごいすごい。」
「もう、いつまでも子供だと思って。」
棒読みで言って拍手した俺に、静月は頬を膨らませた。
「それで、103は隣なんだよね。」
笑顔に戻って静月が聞く。
「ああ。建物の正面から向かって右側の部屋だな。逆の101にはすっごい怖い女の人が住んでて、ちょっとうるさくしただけで怒られるんだ。逆に103は静かだな。今は確か空き部屋…」
ここまで言って、俺は手が震え出す。
「あ、あの103は空き部屋のはずなんですが。お前のいとこってまさか不法滞ざi…」」
「あ、電話だ。」
俺の心配をよそに、静月は電話に出た。
「あ、もしもし奈菜姉?」
お~い。俺の心配は~?
「え?部屋の番号を伝え間違ってた?103は空き部屋?」
電話の相手は、例のいとこのようだ。
どうやら、不法に滞在してるお方ではなかったらしい。
「あ、そうなんだ。分かった。うん、もうすぐ行くよ。」
電話を終えた静月が言う。
「奈菜姉、部屋の番号間違えてたんだって。正しくは101らしいよ。」
俺の動きが固まる。
え?101?
あの、先程かなり怖いだの怒られるだの言ってしまいましたが。
あの女の人が、静月のお姉さん?
まあ確かに、黒髪ロングだったしかなり美人だったけど。
「じゃあ、早速奈菜姉のところに行こっ。麻央も来るでしょ?」
「あ、いや俺は。」
結構うるさいと怒られている手前、「あなたのいとこの幼馴染です!どうも!」とは行きづらい。
俺が渋ると、静月は強引に俺の手を掴んで言った。
「ほら、一緒に行こっ。」
はいはい。分かりましたよ。
幼馴染と久しぶりに再会し、手を繋いでいるというのに、俺の心は不安でドキドキしていた。
ピ~ンポ~ンという音から数秒後に、101号室の住人は出てきた。
「し~ず~く~!!ひっさしぶり~!!」
「奈菜姉!!これからよろしくねっ!!」
再会に大喜びで抱き合う2人。
あれ、お隣さんってこんなキャラだったっけ。
と、奈菜姉さんが俺の存在に気づく。
「な、何であなたがここにいるんですかっ!!何見てるんですかっ!!」
静かにしてたのに怒られた。
理不尽だ…。
「あ、一応俺は静月の幼馴染でして。ど、どうも。」
「あなたが?本当なの?静月。」
「そうだよ。」
俺の顔を二度見してから、奈菜姉さんは言った。
「どうも。静月のいとこの早倉奈菜です。以後、よろしくお願いします。」
丁寧なあいさつに一瞬面くらったが、俺もきちんと返す。
「幼馴染の柏森麻央です。よろしくお願いします。あ、あの、いつもうるさくてすいません。」
「ええ、本当に。」
ト、トゲがあるなぁ。
ブラッディローズ並みのトゲだ。
俺の心が血みどろのズタズタになったりしないかな。
大丈夫かな。
「さ、静月。中に入って。柏森さんもどうぞ。」
「え?俺もいいんですか?」
「静月の大切な幼馴染と聞いてますから。」
あ、そうか。
この人シスコンタイプなんだ。
でなきゃ、隣室のうるさい男を部屋に迎え入れるはずがない。
部屋に入ると、ええ…女の子の部屋ってこんなものだっけ?
大量の武器、それも弓矢が置かれている。
「あのひょっとして。」
「ええ。私も、探索者なんです。」
奈菜姉さんも探索者なのか。
しかも、武器の質を見る限りはかなりの上級者なんじゃないか?
「ちなみに、レベルってどれくらいですか?」
「そうですね。昨日確か、315になりました。」
さ、315⁉
それって、Sランクダンジョンに挑めるレベルじゃないですか!?
「す、すごいですね。」
「まあ、あなたより歴は長いですから。」
何だか、部屋に迎えてはくれたけどぶっきらぼうだな。
やっぱり、心から歓迎はされていないんだろう。
「なんでお前が、うちのかわいい静月の幼馴染なんだ」という念が、伝わってくる。
…気がする。気のせいかもだけど。
「一つ言っておきたいのですが。」
奈菜姉さんが、俺の方へ振り返って言う。
「私としては、静月が探索者になること自体は構わないと思います。ですが、危険な職業である以上はきちんと訓練を積んでほしいとも思っています。」
まあ、それは当然の思いだろう。
「申し訳ないのですが、あなたと私のどちらが静月の先生に向いているかといえばそれは私です。あなたの今のレベルでは、静月に危険が及びます。」
うーん。
確かに、いくらオリジナルスキルがあるといえども250以上のレベル差は埋まらない。
これもまた、当然のことだ。
「そこで、あなたと静月が共に一定のレベルに達するまでは、一緒にダンジョンに入ることは遠慮していただけますか?」
もう、当然すぎる。
「分かりました。でも、俺が強くなれば2人でダンジョンに行ってもいいんですよね?」
「構いませんが、おそらく数年はかかりますよ。最低でも、今の私のレベルには達して欲しいので。」
315か。
確かに、数年かかるだろうな。
…普通なら。
ただ俺には、【複製転写】がある。
そして俺には、【進化】がある。
「数年も要りませんよ。」
俺は拳を握り、にやりと笑って言った。
「静月が戦えるようになる頃には、必ず強くなって迎えに来ますから。」
そして、弓矢の観察に熱中している静月に言う。
「静月!!俺がすぐに迎えに行ってやるからな!!」
「ええ!?」
「ちょっと!あなたは何を言っているんですか!?」
静月がなぜか顔を赤くし、奈菜姉さんがなぜか怒る。
「わ、私は、今すぐに貰ってくれても…」
静月は、何やらぼそぼそ呟いている。
「俺、何か変なこと言いました?」
「あ、何だ。気づいてないんですか。」
奈菜姉さんは、ほっとしたような様子を見せると言った。
「とにかく、そういうことですから。ただ、決して無茶はしないでください。レベル上げは、確実に徐々にやっていくものなので。」
「ええ。無茶はしないと、約束します。」
そうと決まれば、一刻も早く【進化】を駆使しまくりたい。
「じゃあ俺はこれで。ダンジョンに行きます。」
「そうですか。静月、柏森さんが出かけるそうよ。」
静月は弓矢を置くと、近づいてきて言った。
「頑張ってね。私もすぐ追いつくから。」
「ま、無茶はするなよ。」
そして俺は、101号室を出てダンジョンへ歩き出した。
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氏名:柏森麻央
年齢:18
《STATUSES》
レベル:45
攻撃力:570
防御力:570
速 度:570
幸 運:570
体 力:570
《SKILLS》
〈オリジナルスキル〉
【複製転写】Lv.1
【体当たり】Lv.2
【粘膜シールド】Lv.2
【分身】Lv.2
【跳躍】Lv.1
【ジグザグジャンプ】Lv.2
【ラビットファイヤー】Lv.3
【催涙花粉】Lv.1
【ステムバレット】Lv.1
【進化】Lv.1
〈ノーマルスキル〉
【鑑定眼】Lv.1
【ウィンドアロー】Lv.1
スキル習得ポイント:2650
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