第7話 優しくていかつい初心者さん
「【ラビットファイヤー】!!」
本日もまた、焼きうさぎが完成した。
「ふう」と、俺は一息つく。
[攻略報酬として経験値を獲得しました。]
[攻略報酬としてスキル習得ポイントを獲得しました。]
[攻略報酬として550円を獲得しました。]
[攻略報酬としてアイテム《アミュンラビットの毛皮》を獲得しました。]
[レベルが1上昇しました。レベルが33になりました。各ステータスの数値が上昇しました。]
「よし、もう一回!!」
俺は報酬を確認してすぐさま《DD-187ダンジョン》を出ると、また《DD-187ダンジョン》に入り直した。
この周回を繰り返すことこれが9回目。
確かに2倍のスピードで、俺は成長している。
それもこれも【進化】のおかげだ。
ポチャンポチャンと、スライムがやってくる。
「【ラビットファイヤー】!!」
スライムの体が弾け飛んだ。
俺はさらに奥へ進もうとする。
その背中に、声が響いた。
「おう、兄ちゃん。面白いスキル持ってんな。」
振り返ると、茶色の短髪にがっちりした体つきのいかつい男が立っていた。
ボディービルの会場にパンイチでいても、違和感なさそうだ。
別にこの《DD-187ダンジョン》は俺専用のダンジョンという訳ではないので、他の探索者たちも攻略にやってくる。
彼も、俺と同じ探索者だろう。
「どうも。」
「おう、こんにちはだな。」
ごつい見た目ではあるが、男はとても人がよさそうだった。
「俺は瀬藤裕司っていう。見ての通り、駆け出しの探索者だ。」
いや、見た目は超強そうな上級探索者なんだけどな。
ともかく、俺も自己紹介した。
「俺は柏森麻央っていいます。同じく、駆け出しの探索者です。」
「麻央か。よろしくな。」
そう言って、瀬藤さんは右手を差し出した。
俺がその手を取り、握手を交わす。
瀬藤さんの右手は、その見た目に似合うごつごつした力強い手だった。
「時に兄ちゃん。さっき使ってたのは火炎系のスキルだろ?スライム相手なら、貫通攻撃の方がいいんじゃないのか?」
うーん。
ま、そうね。そうなんですよ。
でも俺は貫通攻撃は使わない。
あのダサい【ステムバレット】だけは、永遠に封印すると心に決めたのだ。
「ん?どうした兄ちゃん。もしかして、貫通攻撃使えないのか?」
「あ、まあ...そんなところです。」
「はっはっは。そうかそうか。兄ちゃん、相当な初心者だな。」
瀬藤さんが、俺の肩をバンバン叩きながら豪快に笑った。
そして自分のスマホを取り出し、画面を見せてくれる。
「俺もまだ初心者だが、このスキルは習得しておいた。兄ちゃんも取っとくといいぞ。スキル習得ポイントも少なくて済むし。」
瀬藤さんが指すのは、【ウィンドアロー】という名のスキル。
初心者必修のスキルとしてまとめサイトなどでも紹介されている、駆け出し探索者の定番スキルだ。
まあ確かに、【ステムバレット】が使えない以上は【ウィンドアロー】を取っておいても損はないかもしれない。
「これって、スキル習得ポイントどれくらい必要ですっけ?」
「えっと、680ポイントだな。」
それなら、十分貯まっている。
「分かりました。一応取っておこうと思います。」
「おう。まあ、無理強いする訳じゃないけどな。」
「いえいえ。ありがとうございました。」
「気にするな。また何かあったら、聞いてくれよ。」
瀬藤さんが連絡先を見せてくれた。
俺はQRコードを読み取り、瀬藤さんを友達に追加する。
「それじゃ、俺は先に進むな。」
「はい。それではまた。」
「おう、またな。」
ダンジョンの中には、いくつか分かれ道がある。
それでも結局、すべての道は同じボス部屋に通ずのだが。
「さて、まずは【ウィンドアロー】を習得してと。」
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【ウィンドアロー】Lv.1
効果:高速で矢状の風を発射しダメージを与える。
与ダメージ:自身の攻撃力×3%
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取ったはいいけど…使えないな、これ。
【ラビットファイヤー】で十分だ。
すいません、瀬藤さん。
「まあ、いっか。」
そして俺は、瀬藤さんとは別の方向に歩き始めた。
まだまだ、周回は続くのだ。
「だあ!疲れたぁ~!」
さすがにダンジョンに潜り続けると疲れる。
レベルが45になったところで、俺は家に帰った。
そしてベッドに倒れこむ。
すると、スマホに電話がかかってくる。
「はい、もしもし。」
「あ、麻央?私、静月だよ。」
「静月か。元気か?」
「うん。めっちゃ元気。」
「そっか、良かった。」
前にお父さんがピリピリしてるとか言ってたが、何とかなったのだろう。
静月の声は、心なしか吹っ切れているような気がした。
「麻央ってさ、今一人暮らししながら探索者してるんだよね?」
「そうだよ。」
「大変?」
「いや、毎日楽しいよ。稼ぎもそれなりだし。」
「そっかぁ。」
そう言って、静月が沈黙する。
「どうかしたか?」
反応が無い。
「静月?」
え?
無視されてるの?
「しーずーくー?」
「ご、ごめん。少しぼーっとしてた。」
「本当に大丈夫か?」
「うん。ちょっと疲れてるのかも。電話かけといて、ごめんね。」
「いいよ。休みな。」
「本当にごめん。またかけるから。」
そして、静月からの唐突な電話は唐突に切れた。
まさかこの後、静月があんなことをするとは思わなかったよ。
次の朝、ボロアパートを出た俺の前に現れた静月は言ったのだ。
「私も、探索者になるから!」
は、はぁぁぁぁぁ!?
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氏名:柏森麻央
年齢:18
《STATUSES》
レベル:45
攻撃力:570
防御力:570
速 度:570
幸 運:570
体 力:570
《SKILLS》
〈オリジナルスキル〉
【複製転写】Lv.1
【体当たり】Lv.2
【粘膜シールド】Lv.2
【分身】Lv.2
【跳躍】Lv.1
【ジグザグジャンプ】Lv.2
【ラビットファイヤー】Lv.3
【催涙花粉】Lv.1
【ステムバレット】Lv.1
【進化】Lv.1
〈ノーマルスキル〉
【鑑定眼】Lv.1
【ウィンドアロー】Lv.1
スキル習得ポイント:2650
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