第47話 寝ている間に
「グオァァァァ!!」
目を覚ました瞬間、燃え盛る炎が眼前まで迫っていた。
これが、さっき四桜さんの言っていた【ファイアーウェーブ】か。
【サイレンス・レッドアイズ】発動状態の俺が強く睨み返すと、炎はその生みの親をより強い火力で包んだ。
トパーズドラゴンが苦しんでいるような声を上げるが、所詮は2倍。
ルビードラゴンを倒した時の256倍とは訳が違う。
これでは、一発K.O.とはいかないだろう。
「ゴガァァァァ!!」
案の定、トパーズドラゴンは再びパターンのないめちゃくちゃな攻撃を始めた。
本来なら【ファイアーウェーブ】の来るタイミングは予測できるので、それに合わせて【サイレンス・レッドアイズ】を使えばいい。
しかし、この狂竜相手にはそれが通用しないのだ。
「【ヘルフレイム・ネット】!!」
シールドの中からでも出来る遠隔攻撃を放つ。
「【奇術・イグニッション】!!」
「【ブラック・キャノン】!!」
早倉さんと静月も、シールドの中から攻撃を放って援護する。
早倉さんはシールドの外に出てもいいレベルだが、射程的に出ても出なくても変わらないのでここにいるのだろう。
ララとロロはといえば、石狩さんに言われた通り先輩たちの戦いを真剣に見守っていた。
「【忍流・風花】!!」
「【万斬り】!!」
「【フリーズトルネード】!!」
藤塚さんのクナイ、石狩さんの剣、四桜さんの竜巻が、それぞれ確実にトパーズドラゴンの体力を削る。
トパーズドラゴンのカウンターは、浅川さんがしっかりと防いだ。
大丈夫。本来より時間はかかるが、確実に倒せる。
【サイレンス・レッドアイズ】のクールタイムが終わった。
いつ来るか分からない【ファイアーウェーブ】に備えて、俺は再び休眠状態に入る。
次に目が覚めた時、目の前に迫っていたのは炎の波ではなく一本の矢だった。
戸惑いながら俺が反射すると、その矢を浅川さんの大盾が受け止める。
「え…?」
俺が混乱していると、早倉さんがため息をついて言った。
「今のは私の攻撃です。いつまで経っても、柏森さんが起きないので」
「【ファイアーウェーブ】は…?」
「トパーズドラゴンなら、柏森さんが寝ている間に倒れました」
「ええ…」
何てこったい。
攻撃パターンがめちゃくちゃなせいで、あれから一度も【ファイアーウェーブ】は来なかったのか。
「みんな無事ですか?」
「もちろんです。ただ…」
早倉さんの表情が曇る。
「ダンジョンの攻略成功が知らされないんです。つまり、まだ戦いが残っている可能性があります」
トパーズドラゴンは倒した。
しかしまだ、ダンジョンから出られない。
「ちゃんと警戒しとけ。どういう訳か分からねぇが、きっとまたモンスターが出てくる」
石狩さんの言葉に頷き、床に横たわるトパーズドラゴンを見つめる。
もともと濁っていた目が、命を失ったせいでより汚く思えた。
「あの、あれはどう処理するんですか?」
俺が聞くと、四桜さんが腕を組みながら悩まし気に答えた。
「今ちょうど困っているのよ。普通なら焼くなり細かく斬るなりしてBOXへ入れるんだけど、狂犬病に感染しているかもしれないでしょ?そうなると、体の一部を持ち帰って検査した方がいいから…」
確かに処理に困る状況だな。
このあと起きるかもしれない戦闘で、トパーズドラゴンの体が焼失したりしないといいけど。
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「さてさて、トパーズドラゴンがやられるのは想定内。本番はここからだ」
そう言うと男はスマホで電話を掛けた。
「もしもし?」
「もしもし俺だ。赤堀、首尾は?」
「あと1、2分です」
「そうか」
しばし、2人の間に沈黙が流れる。
予告通り1分半で、赤堀は「完了しました」と言った。
待ってましたと言わんばかりに、男が手を叩く。
「よし、繋げ」
「了解です」
男が見守る中、麻央たちのいるボス部屋にモニターが出現し、映像が映し出される。
流れているのは、先ほど行われていたトパーズドラゴンとの戦闘だ。
「何だ…これ?」
「私たちが映ってる…?」
戸惑う麻央たちを見て、男がニヤリと笑う。
机の上に置かれていたマイクを持つと、声高に修羅場の始まりを告げた。
「さあさあ!!これよりご覧いただきますのは、一世一代のショータイム!!怪物と人間のデスゲーム!!人間を代表するのは近頃ネットで話題の『魔王』!!最強ともてはやされる『聖剣』!!『絶壁』!!『超光速』!!『ダンジョンの天使』!!全世界にネット配信中のこの戦い!!怪物どもの先陣をきるのはぁ⁉」
少しタメてから、男は叫んだ。
「マーダーコングゥゥゥ!!」
同時にボス部屋へ、とてつもない迫力の巨大ゴリラが現われた。
「SSランクダンジョンに生きる恐怖のモンスター!!ただひたすらに殴るだけの脳筋ながら、これまでに葬ってきた探索者の数はTOP5入り!!さあ、どうする人間たち⁉」
男はマイクの電源を切ると、興奮したまま言う。
「マーダーコングはスキルを使わない。お前のオリジナルスキルは通用しないぞ?さあどうする?『魔王』」




