第45話 狂っている
「まずいって…何がまずいんです？」
四桜さんの凍結からの石狩さんの攻撃は、しっかりとトパーズドラゴンの体力を削っていた。
大ダメージというには苦しいが、繰り返していけば確実に倒せるはずなのだが…。
「いや、でもそんなはずは…。ただ、この異常事態だし…。」
四桜さんは、トパーズドラゴンをじっと睨みながら、何やらブツブツ呟いている。
「爆炎聖剣!!」
石狩さんが、再び剣を叩き込む。
ジューっと音を立てて、氷が蒸発した。
拘束が解け、トパーズドラゴンが再び暴れ出す。
石狩さんが、噛みつこうとするトパーズドラゴンを、体をひねってかわした。
「石狩くん!!一旦、トパーズドラゴンから離れて!!」
「言われなくても!!」
動きの止まっていないドラゴンに向かっていくほど、石狩さんは無謀ではない。
すぐに、トパーズドラゴンと距離を取った。
「私の考えが正しければ…っ。」
四桜さんが、杖をかざして言った。
「【ウォータートルネード】!!」
「ゴガァァァァァァ!!!」
激しい渦巻を食らったトパーズドラゴンが、咆哮しながら暴れまわる。
ボス部屋の壁が壊れるんじゃないかというくらい、体をあちらこちらに叩き付け、頭部を巻き込み続ける水の竜巻を振り払おうと、必死に頭を振っていた。
いくら攻撃を受けているとはいえ、明らかに過剰な反応だ。
「やはり…間違いないか。」
四桜さんは、何かを確信したように頷くと、シールドの外にいる残りの３人に叫んだ。
「絶対に、あいつの攻撃を食らわないようにして!!一回でも嚙みつかれたら、体力に関係なく、命の保証はないよ!!」
「分かった!!一度、シールドに退避しよう!!」
浅川さんの声で、全員が俺たちのいるシールドに向かって動き出す。
トパーズドラゴンの目が、走り出した四桜さんをとらえた。
「ゴガァァァァァァ!!!」
「危ない!!【テレポーテーション・ディフェンス】!!」
四桜さんに向けて大きく口を開けたトパーズドラゴンの前に、瞬間移動した浅川さんが、盾を持って立ち塞がる。
「【シールドストライク】!!」
浅川さんが思いっきり振った盾が、トパーズドラゴンのあごにクリティカルヒットした。
見事なアッパーに、トパーズドラゴンが一瞬ひるむ。
「今のうちにシールドへ…っておい!!」
浅川さんが振り返ると、もうそこに四桜さんはいなかった。
さっさと、俺たちがいるシールドに逃げ込んでいる。
「ったく。そそくさと逃げやがって。」
文句を言いながら、浅川さんもシールドに入った。
「ごめんって。ほら、私、攻撃はそこまでだし。」
「まあ、いいけどな。」
トパーズドラゴンは、まだこちらをじっと睨みつけている。
石狩さんが、四桜さんに聞いた。
「それで、噛まれたら死ぬってのはどういうことだ？」
「そうだね。ちゃんと説明する。でもその前に。」
四桜さんは、浅川さんの方を向いて言う。
「何か、水系のシールドは出せる？」
「ああ、あることにはあるな。でも、そんな硬いシールドじゃないぜ？」
「いいよ。とりあえず、それを展開してくれる？そしたら、私の考えをちゃんと話すから。」
「任せとけ。このシールドの外に張ればいいな？」
「うん。よろしく。」
「んじゃ、【ポイズンウォーターフォール】。」
シールドの外を、紫色の滝が取り囲んだ。
それを確認して、四桜さんが話を始める。
「あいつ、トパーズドラゴンがイかれてる理由が分かったわ。これまでの奴の行動を整理すると、それが見えてくる。」
「行動って言うと、ギガントイーグルを食べたところから？」
ララの質問に頷き、四桜さんは話を続ける。
「ギガントイーグルを捕食、スキルとは全く関係のない噛みつき。これらの行動は、興奮状態にあると判断することができる。さらに、【ウォータートルネード】を食らった時の反応。明らかに、水を怖がっている。現に今も、【ポイズンウォーターフォール】のせいで近づいてこないしね。」
確かに、トパーズドラゴンは、こちらに睨みを利かせているものの、噛みついてきたりはしていない。
「それに、さっきからトパーズドラゴンの周りに湯気みたいなのが見えるでしょ？あれは、体温が異常に上昇してることを示してる。」
興奮状態、水を怖がる、体温の上昇か。
「これらの症状を総合するに、ある1つの病気にたどり着くわ。」
その症状の病気なら、俺にも心当たりがある。
納得して頷いていると、四桜さんはそんな俺を見て聞いてきた。
「柏森くん、分かったみたいだね。答えをどうぞ？」
「狂犬病。合ってます？」
俺が答えると、四桜さんは満足そうに頷いた。
「その通り。致死率ほぼ100％、全世界で年間何万人もの人を殺している、最悪の感染症よ。最も、日本ではすでに撲滅されていたはずだけどね。」
よだれを垂らし、暴れまわっているトパーズドラゴンを見上げ、四桜さんは言う。
「あの竜は、狂犬病に感染している。文字通り、狂ってるのよ。」
