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第44話 身体と技術

「トパーズドラゴンの特徴は、その圧倒的な体力にある。」


 石狩さんが、頭上のトパーズドラゴンを見ながら言った。

 浅川さんが生み出したシールドの中で、俺たちはその話を聞いている。

 さすがはSS級の探索者、先ほどからトパーズドラゴンが何度か噛み付いてきているが、シールドが壊れる気配はない。


 前回、ルビードラゴンと対峙した時の俺たちは、突然の事態に慌てふためいていた。

 しかし今回は、最強格の探索者が4人もいることで、比較的落ち着いている。


「攻撃自体は、十二竜の中で考えると大したことないレベルだ。防御は中の上から上の下といったところ。ただ体力は、上の上、あるいは特上と言っても差し支えないほどだな。」


 石狩さんの解説によれば、トパーズドラゴンを倒すには気力が必要らしい。

 相手の攻撃を防ぎつつ、圧倒的な体力を徐々に徐々に削っていく。

 もちろん、こちらの体力も削られるため、トパーズドラゴンとの戦いはいつも消耗戦だったと、石狩さんは語った。


「まあ、十二竜とは久しく戦ってなかったが、戦い方は覚えている。さらに強くなった俺らなら、必ず倒せる相手だ。」


 石狩さんが、最強メンバーの3人を見て言った。


「だな。目はイってるが、ステータス自体は通常のトパーズドラゴンと変わらない。警戒を怠るべきじゃないが、確実に倒せるだろ。」


 藤塚さんが答えると、他の3人も頷いた。

 やはりこの4人、めちゃくちゃ頼もしいな。


「そうだ、柏森くん。トパーズドラゴンからは、何かスキルを複製コピーしなくていいの?きっとこの人たち、すぐに倒しちゃうから、やるなら今のうちよ?」

「分かりました。ちょっと見てみますね。」


 四桜さんの提案に応じて、俺は【鑑定眼】を使う。

 トパーズドラゴンのスキルは4つか。

 体力が長所のモンスターなだけあって、攻撃スキルはあまり魅力的じゃないな。

 となると、防御系か回復系のスキルになるけど…。


「あんまりのんびりしてる時間はないぞ?」

「すいません。今すぐ決めますので。」


 藤塚さんに急かされつつ、俺は複製コピーするスキルを見極める。

 いくつかのスキルの中で、俺の目にとまったのは、【ラック・ハート】というスキル。

 幸運のステータスを上昇させ、攻撃がクリティカルヒットする度に、自身の体力の最大値を上昇させる。

攻撃と防御の両面で役に立ち、平均的だった俺のステータスを補うことも出来る有能なバフスキルだ。


「それじゃ、急いで複製コピーしちゃいますね。」


 俺はシールドの中からトパーズドラゴンに手をかざすと、スキルを発動した。


複製転写コピーアンドペースト!!」


 汚く濁った巨竜の目が、ぎろっと俺を睨む。

 だらしのないことに、口からは、唾液とギガントイーグルの血がぽたぽた垂れていた。


「【ラック・ハート】!!」


 [スキル【ラック・ハート】Lv.9を複製コピーしました。転写ペーストしますか?]


「Yes!!」


[スキル【ラック・ハート】Lv.9を転写ペーストしました。]

[スキル【ラック・ハート】Lv.9を習得しました。]


「出来ました。ありがとうございます。」

「了解。それじゃあ、遠慮なくぶっ倒させていただきますかね。」


 石狩さんの声で、最強4人がそれぞれ武器を構える。


「シールドを新しく張り直しておく。その中にいれば安全だ。あとは、俺たちに任せておけ。」

「分かりました。」


 俺たちは頷き、トパーズドラゴンに向かって進んでいく4人の背中を見つめる。

 この4人の前では、俺も早倉さんも余計な手出しをしないのがベストだ。


「俺が一瞬あいつの動きを止めて隙を作る。。その間に、四桜が完全に固めちゃってくれ。」

「分かったわ。この戦闘、完全な作業ゲーね。」

「だな。じゃ、いくぞ。」


 軽く四桜さんと言葉を交わし、藤塚さんが忍者が使うクナイのような武器を指で挟んだ。

 そしてそれを、素早くトパーズドラゴンに向けて投じる。

 見事、トパーズドラゴンの巨体にクナイが突き刺さった。


「見事ですね。」


 俺の横で見ていた早倉さんがうなる。


「竜の外側、最も表面の柔らかいところを正確に捉えています。スキルを使った訳でもないのにあの正確性というのは、さすが上級の探索者です。」


 事前に藤塚さんが言っていた通り、トパーズドラゴンの動きが僅かに鈍くなった。

 すかさず、四桜さんがスキルを使う。

 四桜さんが使っているのは、魔法使いの杖のような武器だ。

 普段は回復やバフ、デバフかけがメインのため、特に武器は必要としないらしい。

 武器が必要な場合は、杖を分解して槍にできるそうだ。


「【フリーズトルネード】!!」


 極寒の竜巻が、トパーズドラゴンの頭部を襲う。

 あっという間に、だらだらと溢れていた唾液もろとも、トパーズドラゴンの頭が凍った。

 ぴくぴくと体は動いているが、暴れていた竜の面影はない。

 そこへ、石狩さんが炎の剣を叩き込んだ。


爆炎聖剣エクスプローシブ・ホーリーソード!!」


 ちなみにトパーズドラゴンがいるのは、俺らのはるか上。

 石狩さんはそこまで、垂直の壁を駆け上がって飛んでいる。

 さっきの藤塚さんのコントロールといい、この人たちは素の身体能力も異常だな。


 燃える斬撃が、トパーズドラゴンの体力を確実に削る。

 これは勝ったな…

 俺や静月、さらにはララやロロ、早倉さんまでもが勝利を確信したその時。

 四桜さんが首をかしげて言った。


「これは、ちょっとまずいかもしれないわね…。」

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