第41話 可能性と囮
[ボスモンスター討伐を確認しました。ダンジョン攻略成功です。]
《BD-120ダンジョン》本来のボスであるギガントイーグルが倒れ、攻略成功を告げる声がボス部屋に響く。
「何にも出てきやなしないな。」
部屋全体を見回しながら、石狩さんが言った。
「このギガントイーグルも、特に異常はなさそうよ。」
モンスターの死体を調べながら、四桜さんも言う。
早倉さんの奇術で凍らせられた挙句、俺と石狩さんに溶かされ燃やされたギガントイーグル。
「これは、捨てちゃってよさそうね。」
四桜さんに抱えられ、BOXの中に放り込まれた。
「2人が以前ここへ来た時は、ギガントイーグルは出現せず、グリーンエアツリーとルビードラゴンだけが現われたんだよな。」
「そうです。」
「それで、今回は何も出てこない…。妙だな。」
浅川さんはそう言うと、ボス部屋を壁伝いに歩き始めた。
SSクラスの4人があれやこれや調査をしているので、俺もそれとなく部屋の中を歩き回ってみる。
ボスモンスターを倒すとすぐにボス部屋を出ていたため、こういう風に長い時間滞在するのは初めてだ。
それにしても、この部屋でルビードラゴンを倒したとはいまだに信じられないな。
しばらく部屋を調査した後、石狩さんがみんなに声をかけた。
「どうだ?もう少し調査したいという人はいるか?」
誰も声を上げない。
俺も一通り調べてみたが、やはり手がかりらしい手がかりは見つからなかった。
「よし、じゃあ出るか。」
石狩さんに続き、全員がダンジョンを出る。
そのまま、管理局へ戻った。
管理局の3階、大きな部屋に戻ると、静月たちが待っていた。
「麻央お帰り~。」
「おう。ただいま。」
軽く会話を交わして椅子に座ると、モニターに再び村花大臣が映る。
「お疲れ様でした。幸か不幸か、何も起きませんでしたね。」
異常事態が起きなかったのは、普通に考えれば幸い。
ただそれによって、手がかりがつかめなかったのは不幸とも言えるだろう。
「みなさんが探索しているライブ映像を拝見しつつ、柏森さんたちの調書を読み返してみました。それにより、一つの可能性に至ることができました。」
村花大臣の声の調子がやや低くなる。
モニター越しの眼光は、今までで一番鋭かった。
「この異常事態が偶発的に発生したものではなく、人為的なもので、この事件を引き起こした犯人がいるということです。」
犯人…か。
前回はたまたま、俺や早倉さんが遭遇したからよかったものの、もしこれで死亡者が出ていたら、その犯人とやらは殺人犯だ。
本当に犯人がいるのなら、野放しにしておく訳にはいかない。
「その可能性に至った理由は何ですか?」
四桜さんが聞くと、村花大臣は一つ頷いて話し始めた。
「いくつか理由はあります。ですが一番の理由として、グリーンエアツリーが倒れかけた時に、ルビードラゴンが現われたということが挙げられます。」
確かに、ルビードラゴンが現われたのは、俺が【ガスコントロール】を使いグリーンエアツリーが不利になった直後だった。
犯人が追い込まれてルビードラゴンを…と、考えることもできる。
「方法に関しては皆目見当がつきません。ですが、ルビードラゴンがグリーンエアツリーを助けにダンジョンへやってきたというより、誰かが柏森さんたちを倒すために解き放ったという方が、筋が通っていると思います。」
筋は通っているが、方法が分からないことには、この説を実証することができない。
だが、現時点で最も可能性が高いのはこの考えかも。
「もちろん、あくまでこれは可能性に過ぎません。他の可能性も検証していく必要があります。しかし、もしこれが人災であるなら、犯人を見つけることが最優先となります。」
他の線も追いつつ、犯人を捜していくという訳か。
ダンジョン内に証拠がなかった以上、断定はできないもんな。
「犯人を見つけるといっても、手がかりは0に等しい。どうやって探すんです?」
浅川さんが聞いた。
村花大臣が、自信ありげに答える。
「ある方法で、犯人をあぶり出します。」
「あぶり出す?」
「ええ。私が思うに、これほどの事件を起こすからには、犯人には何らかの目的があるはずです。それが何か思想に基づくものなのか、ただの自己顕示欲なのかは分かりませんが、このまま沈黙したままではいないでしょう。餌をまけば、きっと食いついてくるはずです。」
「餌って、何をまくんです?」
村花大臣が、少し間をおいて口を開く。
「人と情報です。みなさんほどの力はない、そこそこの探索者が調査に乗り出すという情報を流し、実際に彼らをダンジョンに送り込みます。」
「で?その餌になった探索者はどうする?」
「もちろん、見殺しにはしません。極秘で、みなさんに護衛していただきます。」
「つまり、情報では弱い探索者が調査をするが、実は俺たちがバックにいるってことか。」
「そうです。」
囮を使うということだな。
ベーシックだが、確実性の高い方法だ。
「その囮役は誰がやるんです?」
「そこはまだ。これから検討を…」
「やらせてください。」
村班大臣の言葉をさえぎって、声が上がった。
「私にやらせてください。その囮役を。」
椅子から立ち手を挙げているのは、静月だった。




