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第37話 ダンジョン大臣

 管理局を管轄しているのは、ダンジョン省の探索推進課だ。

 ダンジョン省には、ダンジョン整備課やモンスター研究課など、ダンジョンに関係した多くの部署がある。

 そして、リーダーとして省を統括しているのが、ダンジョン担当大臣である村花むらはな栄一えいいち30歳だ。


 日民党の若手のホープとして、早くから重要なポストを歴任し、史上最年少で大臣の座に着いた。

 発信力の高さと清廉潔白なイメージから、国民人気が高く、いずれ総理大臣になることは間違いないと言われている。


 さて、俺たちの前で、管理局の職員から渡された資料を丁寧に読み込んでいる男。

 村花栄一、その人である。

 読んでいる資料は、俺たちがそれぞれ担当の職員に話したことがまとめられたものだ。

 真剣な表情で資料を読む姿に、俺たちは邪魔するまいとただ静かにしていた。


 10分くらい経ったところで、村花大臣が顔を上げた。

 俺たち5人をゆっくり見まわし、口を開く。


「お疲れのところ、長々と引き留めてしまい申し訳ありません。」


 村花大臣は、椅子から立ち上がると頭を下げた。

 俺たちは、いきなり大臣に謝られて面食らってしまう。

 誰も何も言わないでいると、村花大臣は頭を上げて席に着いた。


「皆さんのお話がまとめられたものを、興味深く読ませていただきました。お気づきの通り、これはダンジョンに関係する国民全員にとっての緊急事態です。早急に、有効な解決策を見い出さねばなりません。」


 直々に管理局支部に来たということが、いかにこの事態を重くとらえているかを表している。

 村花大臣の口調からは、何としても早期の解決を目指すという姿勢が見てとれた。


「ですが、いくつか大きな問題があります。他のダンジョンにて、同様の事案が発生したという報告は受けていません。今の時点で確性の高い情報は、皆さんのお話と早倉さんの写真のみということになります。これでは、対策を立てようにも情報が足りません。」


 報告が来ていないだけ、という可能性もあるが、似たような事件が今のところ起きていないようで一安心だ。

 ただ、情報が足りないのは確かに大問題だな。


「さらに、事件に関する情報を上手に管理しないと、国民に過度の不安を与えてしまうことになりかねません。この点では、皆さんにも適切な情報の管理をお願いします。」


 5人とも、しっかりと頷いた。

 悲しいことに、友達のいない「魔王」は言い触らす相手もいないんですがね。


「本来なら、閣議や国会など、いろいろと通さなければならない筋はあるのですが。」


 そう前置きすると、村花大臣は立ち上がって言った。


「いかんせん緊急事態です。総理からも、今回の件は私に一任するとの言葉を頂いています。」


 普通の人だと、「押し付けられたな」と思うところだ。

 でも村花大臣の場合は、「多分信頼から任せられてるんだろうな」と思えてしまう。


「ひとまず、事件の発生したダンジョンを調査したいと思います。そこで、皆さんにお聞きしたいのですが、調査に当たってどのような準備が必要だと考えられますか?」


 切れ者の村花大臣のことだ。

 何が必要か、ある程度は分かっているはず。

 それでも、経験者の意見を聞いておきたいのだろう。


「そうですね…。」


 口を開いたのは、早倉さんだった。


「トップクラスの探索者を集め、パーティーを組んで調査するのがいいと思います。頭数が多さより、バランスを重視するべきですね。」

「なるほど。」


 早倉さんの意見をメモすると、村花大臣はスマホを取り出して言った。


「ありがとうございます。私の考えていたことと、現場の方の意見が一致しました。高レベルの探索者を集め、調査する方向で進めたいと思います。部下に、指示を出してきます。席を外させていただきますね。」


 そして、村花大臣は電話を掛けながら部屋を出ていった。

 15分ほど電話をし、それから部屋に戻ってくる。


「失礼しました。皆さんには、進展があり次第ご連絡します。今のところは、探索の疲れもあるでしょうからお休みください。私が責任をもって、この事件に対応いたします。」

「分かりました。」


 早倉さんが代表して返事する。

 俺たちは、情報を漏らさないようくぎを刺されてから、いったん管理局をあとにした。


 そして翌日。

 日本におけるダンジョン探索の歴史を塗り替える、えげつない探索者パーティーが結成されることになる。

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