第35話 十二竜のスキル
「【サイレンス・レッドアイズ】?」
「はい。そのスキルをコピペすれば、圧倒的に戦力の足りないこの状況でも勝ち筋が見えるはずです。」
「それが、今ルビードラゴンが使っているスキルなんですか?」
「その通りです。【バーニングスター】の破壊力はすさまじいですが、真に恐ろしいのはこのスキルなんです。【鑑定眼】で確認してみてください。」
「分かりました。」
俺は、頭上のルビードラゴンへ視線を向けた。
【サイレンス・レッドアイズ】か。
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【サイレンス・レッドアイズ】Lv.9
効果:自身の防御可能なダメージの最大値を上回る攻撃を受けた場合、その攻撃のダメージを受けることなく2倍にして反射する。
ただし、スキル使用時は効果発動まで休眠状態になる。
反射可能回数:4回
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結構複雑なスキルだな。
ルビードラゴンが防御可能なダメージの最大値が、【レッドスケイルシールド】を使った時の12312。
それを上回るだから、スキルが効果を持つのは与えるダメージが12313以上の攻撃を受けた時。
そこからさらに2倍になるから、こちらに返ってくるダメージは24626。
うわ、【バーニングスター】のダメージを余裕で超えてんじゃん。
しかも、こっちの攻撃は通らない。
つまり、「何だ、寝てんじゃん。」とか言ってフルパワーの攻撃を撃ったら、それが2倍になって返ってきて逆に大ダメージってことだ。
確かに、ルビードラゴンの真の恐ろしさはこのスキルだな。
「【サイレンス・レッドアイズ】について、理解できましたか?」
早倉さんが聞いてきた。
「ええ。それにしても恐ろしいスキルですね。」
俺が答えると、早倉さんは深く頷いてから言った。
「恐ろしいですが、その分こちらにとっても武器となります。」
「あの~。」
静月が、恐る恐る手を挙げた。
「私たち、完全に置いてかれてるんだけど…。」
おっと、俺と早倉さんで話を進めてしまっていた。
ララもロロも、きょとんとした顔をしている。
「悪かったな。ちゃんと説明するから。」
俺は3人の方へ向くと、【サイレンス・レッドアイズ】について丁寧に説明した。
ルビードラゴンは相変わらず眠っている。
まあ、やばいスキルが発動中なんだけど。
一通りの説明が終わったところで、早倉さんがハッとした顔で言った。
「今思ったのですが、他のダンジョンでもこういった事態が発生している可能性があります。ここには私や柏森さんがいたので何とかなりそうですが、他の場所にも上級の探索者がいるとは限りません。」
確かに、SやAランクダンジョンで戦える探索者が、Bランクダンジョンを探索することなどほぼない。
もし、Bランクダンジョン帯の探索者しかいないところに、十二竜が現れでもしたら…。
即、全滅だろう。
どうやら、あまりのんびりするべきではなかったようだ。
「管理局に報告してどうこうなる問題かは分かりませんけど、とにかくルビードラゴンを倒して、早急に情報を伝達した方がよさそうですね。」
俺が言うと、早倉さんが深く頷いた。
そうと決まれば、後は俺のやるべきことをやるだけだ。
「【複製転写】ぉぉ!!」
本来はまだ手に入らないはずの、十二竜のスキルが手に入る。
ただ、手放しに喜べるほど状況はよくない。
「【サイレンス・レッドアイズ】!!」
[スキル【サイレンス・レッドアイズ】Lv.9を複製しました。転写しますか?]
「Yes!!」
[スキル【サイレンス・レッドアイズ】Lv.9を転写しました。]
[スキル【サイレンス・レッドアイズ】Lv.9を習得しました。]
よし、これで用意は整った。
「準備ができたようですね。では、スキルを発動して待っていてください。最初の攻撃は、私が撃ちますので。」
「お願いします。」
「攻撃が返ってきたら、矢をしっかりと見てください。目をつむってしまっては、効果がない可能性があります。」
「分かりました。」
12000超えの攻撃となれば、もう早倉さんに任せるしかない。
反射された矢をしっかり見る。反射された矢をしっかり見る。
自分に言い聞かせて、俺はスキルを発動した。
「【サイレンス・レッドアイズ】!!」
「サイレンス」なのに全く静かじゃない声で言って、俺は立ったまま休眠。
静かになる。
そして次に目を覚ました瞬間。
目の前に、燃える矢が迫ってきていた。
矢の勢いに、つい目を反らしてしまいたくなる。
俺は何とかその衝動を抑えて、矢を強くにらみつけた。
矢が俺に突き刺さる寸前で軌道を変え、ルビードラゴンの方へ飛んでいく。
矢の飛んでいく方へ視線を向けると、ルビードラゴンの目が開き、赤い瞳が矢をじっと見つめていた。
ものすごい眼力。
見ているだけで、圧倒されるような目だ。
矢はやはり、ルビードラゴンに突き刺さる寸前で軌道を変える。
ルビードラゴンは最初に早倉さんの矢を反射しているため、これが2回目。
対する俺も、次が2回目だ。
目を開けていきなり目の前に矢が迫っているのに比べて、今回はわずかな時間ながら心の準備ができる。
俺は飛んでくる矢を一身に見つめ、全身に力を込めた。
矢は1回目と同じ位置まできて、方向を変える。
大丈夫だ。
【サイレンス・レッドアイズ】を、しっかり使いこなせている。
三度ルビードラゴンに向けて突き進む矢は、三度ルビードラゴンに反射される。
しかし俺もまた、その矢を反射した。
残りの反射可能回数はお互いに1回。
先にそれを使い果たすのは、ルビードラゴンだ。
4度目、ルビードラゴンが矢を反射する。
俺は人生最高の眼力で、えげつないダメージを生むであろう矢を見つめた。
ギリギリまできて、矢が軌道を変える。
【サイレンス・レッドアイズ】の効果で、矢が与えるダメージは2倍の2倍の2倍の2倍の2倍の2倍の2倍の2倍。
つまり、最初に早倉さんが撃った矢の256倍だ。
早倉さんが【サイレンス・レッドアイズ】が発動するギリギリの攻撃をしていたとしても、与えるダメージは12313×256で3152128。
どうやっても、ルビードラゴンが防ぐことは不可能である。
矢が、ルビードラゴンに向かって勢いよく飛んでいく。
Bランクダンジョンのボス部屋には大きすぎるその体が、最後には命取りとなった。
いくら巨体をうねらせようと、矢を避けることは出来ない。
「ゴガアアアア!!!!」
Sランクダンジョンの探索者でさえ恐れるその赤い瞳に、燃える高速の矢が突き刺さる。
部屋全体が、激しい光に包まれた。
あまりにまばゆい光に、俺はずっと見開いていた目をぎゅっとつむる。
ルビードラゴンの体力が3000000もないのは明らか。
目を開けると、ルビードラゴンは白い灰になっていた。
ルビードラゴンの巨体が、大量の灰となってボス部屋に降り注ぐ。
倒れっぱなしのグリーンエアツリーにも、みんなの頭の上にも、灰が積もって真っ白になった。
「倒した…よね?」
早倉さんの陰に隠れていたララが、恐る恐る顔を出す。
「ああ、もう大丈夫だ。」
俺はララに笑顔で答えた。
「やった!!さすが麻央!!さすが奈菜姉!!」
「やりました!!」
静月とロロが、手を取り合って喜ぶ。
早倉さんも、ひとまず安心した顔をしていた。
さて、これから管理局への報告だ。
こういったことが起きるのは前代未聞。
どんな対応が取られるかは分からないが、原因が分かるまでダンジョン閉鎖なんてことにもなるかもしれない。
その前に、事情聴取とかもめっちゃされそうだな。
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ほっとしつつもため息をつく麻央のことを、男は驚愕と焦燥と共に見つめていた。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!」
男が、近くに会った机に拳を思いっきりたたきつけた。
「『魔王』の情報が少なすぎた!!なぜだ!!なぜ【サイレンス・レッドアイズ】までも使える!?」
男は一つ深呼吸をすると、食い入るようにモニターをにらみつけながら言った。
「この際、管理局へ報告されるのは仕方ない。こちらも、その分準備を早めなければ。しっかり情報を集め、本当の『魔王』がどんなものか証明してやる。」




