第31話 異常事態発生
「さて、いよいよ最後のボス部屋です。」
早倉さんが、大きな扉を指差して言った。
何体ものポイズンホークス、パワーキッカー、シールドバードを倒し、いよいよボス攻略である。
「今回のボスはギガントイーグル。その名の通り、大きな鷲の姿をしています。翼で羽ばたいた時には強烈な風が起きますし、足の爪も鋭い。さらには火を噴くと、かなり攻撃的なモンスターです。ですが」
ここまで話して、早倉さんはララとロロ、静月を安心させるように言った。
「何やらものすごく強そうな感じはしますが、あくまでもBランクダンジョンのモンスター。十分皆さんが倒せるレベルの相手です。私や柏森さんも共に戦いますし、自信をもって自分の持ち味を発揮してください。」
3人とも、力強く頷いた。
「まあ、みんな普段からBランクダンジョンを攻略しているんだし、そんなに気負わなくて大丈夫だと思うよ。」
俺も、一応3人に声をかける。
「そうですね。では、準備を整えたらいきましょうか。」
早倉さんの言葉に、みんな自分の武器をしっかり点検する。
あいにく、俺には点検する武器がない。
仕方ないので、静月が「アモルファス」を磨くのを見ていた。
「本当にすごいよな、その武器。」
俺の声に、静月がにっこり笑って言った。
「うん。使っていてすごく楽しいし、強いしすごいと思う。私も、もっともっと強くなって、この武器の力を最大限引き出せるようになりたいな。」
「そうだな。お互い頑張ろう。」
「うん!!」
静月が、磨き終えた「アモルファス」を軽く回しながら頷く。
黒光りする「アモルファス」は、それだけで立派な槍ということが分かる。
ただ、大砲に変身するとまでは分からないだろう。
【複製転写】に負けず劣らず、えぐいスキルを持つ人は世の中にたくさんいるもんだな。
「では、いきましょう。」
えぐい人の1人、早倉さんがボス部屋に入った。
俺も続いて入ったが、入り口で立ち止まってしまった早倉さんにぶつかる。
「痛っ。すいません。どうかしましたか?」
俺が言うと、早倉さんは黙ってボス部屋の奥を指差した。
その先にいるモンスターを見て、俺は愕然とする。
「何してんの?お兄ちゃんたち。」
呆然としている俺と早倉さんを不思議がりながら、ララたちもボス部屋に入ってくる。
そして、中央に鎮座するモンスターを見て固まった。
「早倉さん。」
俺は、モンスターから目を離さず口を開いた。
「はい。」
「このダンジョンのボスって、でっかいだけの鷲でしたよね。」
「『だけ』ではないですけど、ギガントイーグルで間違いありません。」
「ですよね。」
しばしの沈黙。
そして俺は、再び口を開く。
「鷲って、あんな姿してましたっけ?」
「私の知ってる鷲は、あんな形してませんね。」
「俺もです。あれって。」
「ええ、あれは。」
俺と早倉さんの声が重なった。
「「グリーンエアツリー…。」」
ここはBランクダンジョン。
それは事実。
しかし、目の前にいるのはAランクダンジョンのモンスターであるグリーンエアツリー。
それもまた事実。
「【鑑定眼】。」
俺は、【鑑定眼】でグリーンエアツリーのステータスを確認した。
間違いなく、Aランクダンジョンレベルのステータスだ。
早倉さんも、【鑑定眼】で相手のステータスを見たらしい。
顔色がものすごく悪い。
俺や早倉さんが、準備を整えた上でソロで戦う分には、どうってことない相手だ。
ただ問題は、グリーンエアツリーと戦うには明らかに力不足の3人がここにいるということ。
確かに【風翼加速】や「アモルファス」は大きな武器だが、ララや静月自身のステータスが圧倒的に足りない。
ロロの防御力もなかなかのものだが、状況は同じだ。
「柏森さん。」
「何ですか?」
「酸素ボンベを持ってたりはしないですよね?」
「持ってたり…しないですね。」
酸素ボンベなんか、Bランクダンジョンに持ってきても無用の長物だ。
「あ、でも。」
俺は早倉さんに言った。
「【ガスコントロール】ならコピペしてあります。」
その言葉に早倉さんが、ほっとした表情を浮かべる。
「良かった。窒息死は免れられそうですね。」
「でも、【ガスコントロール】で空気を正常に保てるのは俺の周りだけです。範囲がそこまで広くないので、攻撃するにも回避するにも全員一緒に行動しないといけないかと。」
「なるほど…。」
俺だけなら、勝手に自分の周りの空気をコントロールして、勝手に裸足で飛び上がって、勝手に【シックススラッシング】で瞬殺するんだけど、この度はそうもいかない。
酸素を奪われた状態で【ヘルフレイム・ネット】なんか論外だし。
「早倉さん、俺は酸素供給と防御に徹します。攻撃をお願いできますか?」
少し考えてから、早倉さんは言った。
「分かりました。任せてください。」
すると、固まっていたララが口を開いた。
「私たちは?」
早倉さんが、真剣な表情をして言う。
「ここは、私と柏森さんに任せてください。」
「でも…」
「今は、明らかな異常事態です。」
早倉さんの本気度に、さすがのロロも黙ってしまう。
「Bランクダンジョンに、Aランクダンジョンのモンスターが現われるなどありえないこと、あってはならないことです。しかし、現実にそれが起きてしまっている。原因は分かりません。調査の必要があるでしょう。でも今は、とにかくあのモンスターを倒すことしか出来ません。」
早倉さんの言う通り、これは異常事態だ。
公になれば、ネットのまとめサイトを騒がせるどころの話ではない。
TVで大きく報道されるレベルの事件である。
「分かったよ、奈菜姉。」
静月が言った。
「ここは、奈菜姉と麻央にお願いする。それが一番いいみたい。」
「私も、それがいいと思います。」
「分かった、お兄お姉に任せる。」
ララとロロも静月に同意した。
俺と早倉さんは、顔を見合わせて頷く。
「あまり話している時間はなさそうですね。」
早倉さんが言うと同時に、グリーンエアツリーがわずかに動いた。
確かに、もうちまちまと計画を立てている時間はなさそうだ。
「いきましょう。」
「ええ。」
俺はまず暴風に備えて、防御に入った。
「【グラウンドウォール】!!【グラウンドウォール】!!【グラウンドウォール】!!【グラウンドウォール】!!」
---------------------------
「おやおや。噂の「魔王」様に奇術師とは、なかなか面白い奴らが引っ掛かったものだね。」
4つ並んだモニターの前で、一人の男が呟いた。
モニターには、麻央たちとグリーンエアツリーがいるボス部屋が移っている。
「へえ、【グラウンドウォール】か。やっぱり「魔王」の噂は本当みたいだ。」
モニターを見ながら、男はにやりと笑って呟く。
「ちょっと計画は狂ったけど、これはこれで面白い。さて、楽しませてもらいましょう。」
お読みいただきありがとうございます!!
「ブックマークへの登録」と「★★★★★の評価」をぜひよろしくお願いします!!
「面白かった」など一言でもいいので、ぜひ感想も聞かせてください!!
レビューでおすすめしてもらえると、さらに嬉しいです!!




