第30話 蹴って蹴って蹴って
「では、俺の出番はまだかとうずうずしている柏森さんに、そろそろ戦っていただきましょうか。」
出現したパワーキッカーを前に、早倉さんが言った。
一応、お姉さま口調からは戻っている。
「任せてください!!」
ようやく、俺の出番だ。
早倉さんの奇術ショーの後、なぜかララとロロが戦い、静月が戦った。
その間、俺はずっと観戦だったのだ。
うずうずしているのは本当である。
ララ&ロロ、静月、早倉さんと三者三様の戦い方を見せてくれた。
俺も、俺らしい戦い方でパワーキッカーを倒すとするか。
「麻央、頑張って。」
静月が、胸の前で握り拳を作って応援してくれた。
「お兄ちゃん頑張れ~。」
「頑張ってください。」
「おう。」
みんなの声援に笑顔で答えると、俺はパワーキッカーをじっと見つめる。
所詮はBランクダンジョンのモンスター。
やろうと思えば【ヘルフレイム・ネット】で瞬殺も出来るが、それでは面白みがない。
「魔王」様の戦い方をご覧に入れよう。
まずは…
「【鑑定眼】!!」
【鑑定眼】を使い、パワーキッカーのステータスを確認する。
相手のレベルは111。
攻撃力が1500超えとこのレベルにしては高いが、防御力と体力はかなり低い。
スキルはきっちり【ガトリングキック】、【ローリングキック】、【スタンプキック】の3つを所持している。
各スキルの詳細は…
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【ガトリングキック】Lv.2
効果:左右両足を交互に使い、相手を連続して10発蹴りダメージを与える。
ただし、連続蹴りの途中で攻撃がブロックされた場合、蹴った回数のカウントはリセットされる。
与ダメージ:1~9発目:自身の攻撃力×3%
10発目:自身の攻撃力×30%
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【ローリングキック】Lv.2
効果:回し蹴りで相手にダメージを与える。
与ダメージ:自身の攻撃力×20%
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【スタンプキック】Lv.1
効果:足裏で相手を蹴りダメージを与える。
与ダメージ:自身の攻撃力×15%
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なるほど。
与えられるダメージが一番高いのは【ガトリングキック】だが、途中でブロックされてしまうと効果が薄くなる可能性がある訳だ。
【ローリングキック】と【スタンプキック】では…
おっとっと、パワーキッカーが攻撃態勢に入った。
さすがに、ずっと考えている訳にはいかない。
パワーキッカーは勢いよく突っ込んでくると、左足を軸に一本足で立って、右足を思いっきり振りかぶった。
静月と戦ったパワーキッカーも見せていた、【ローリングキック】の予備動作だ。
「【グラウンドウォール】!!」
俺は、強烈な蹴りを繰り出す右足の軌道上に土壁を展開した。
ドゴォォとすさまじい音がしたが、土壁が崩れることはない。
パワーキッカーの足も、特に異常はないようだ。
さすがの筋肉である。
さて、スキルを一瞬だけ使って即【スキル収納】送りにするという大胆さも「魔王」らしいといえよう。
それはただの無駄遣いだろとか、そもそも「魔王」らしいって何だよとかいうことは置いといて、取りあえずGoing my wayならぬGoing maou wayする。
「【複製転写】ぉぉ!!」
…アニメとかの魔王ってあんまり技名を叫んでるイメージないな。
ま、今はいっか。
「【ローリングキック】!!」」
[スキル【ローリングキック】Lv.2を複製しました。転写しますか?]
「Yes!!」
[スキル【ローリングキック】Lv.2を転写しました。]
[スキル【ローリングキック】Lv.2を習得しました。]
「よっしゃいくぜ!!【ローリングキック】!!」
俺は左足を軸にして右足を振りかぶり、思いっきり体をひねって渾身の回し蹴りを叩きこんだ。
右足の甲に、フランスパンくらいの堅さのものを思いっきり蹴り飛ばしたような感覚がする。
大空キャプテンも名探偵江戸川もびっくりのナイスシュート。
クリティカルヒットも発生し、パワーキッカーが吹っ飛んだ。
しかし、パワーキッカーは再び立ち上がる。
「【ローリングキック】!!」
よろけながら体を起こしたところで、俺はもう一発回し蹴り。
パワーキッカーがまた倒れた。
【ローリングキック】は【スタンプキック】より与えられるダメージが大きいが、予備動作に時間がかかる。
【スタンプキック】は、速攻に便利だ。
ただ、パワーキッカーが立ち上がるまでの間で予備動作が完了する以上は、ダメージをより多く与えられる【ローリングキック】でいい。
「まだ起き上がるか。【ローリングキック】!!」
何度も立ち上がるパワーキッカーに、何度も回し蹴り。
格闘技だったら、とっくに審判が止めに入っているところである。
しかしここは、残念なことに弱肉強食のダンジョン。
パワーキッカーを救おうとする人は誰もいない。
「とどめだ!!」
俺とパワーキッカーのステータスからして、もう一発でK.O.のはず。
「【ローリングキック】!!」
まともに食らったパワーキッカーが吹っ飛び、今度は立ち上がる様子を見せない。
相手に攻撃させることもなく、相手のスキルで足蹴にし続けての勝利。
俺なりに「魔王」らしく戦えた気がする。
パワーキッカーをBOXに放り込み、4人の元に戻る。
「お待たせしました。」
「お疲れ、麻央。」
「おう。」
「羽がついてるよ。」
静月が肩に乗っていたパワーキッカーの羽毛を払ってくれた。
いつの間に乗ったんだ、これ。
「ありがと。」
「うん。」
俺と静月のやり取りが一段落したのを見計らって、早倉さんが口を開いた。
「何ともいやらしい戦い方でしたね。相手のスキルでぼっこぼこにするとは。」
言ってることの割りに、早倉さんの表情は「面白いものを見た」という感じだ。
「まあ、柏森さんらしいといえばらしいですね。」
「らしいというより、俺はモンスターのスキルで戦うしか出来ないですから。」
「それでも、わざわざ時間のかかる【ローリングキック】で戦う必要はなかったでしょう?」
「それはそうですけどね。何だかみんなすごかったので、俺もいつもと違うことをしてみようかと。」
「私たちは柏森さんの『いつも』を知りませんけどね。」
言われてみればそうだな。
あれ?もしかして、普通に【ヘルフレイム・ネット】で瞬殺した方がよかったのか?
「まあ、いいでしょう。柏森さんの力も見られたことですし、先に進みましょうか。ボス部屋も近いはずですよ。」
このダンジョンのボスは、確かめちゃくちゃ大きい鷲の姿をしているモンスターだった。
「ボス部屋では、試しに5人で共闘してみましょうか。」
「いいね!!さすがお姉さま!!」
共闘か。
大砲になる槍、翼で高速飛行、鉄壁の守り、変幻自在の奇術、モンスターのスキルとかなり個性豊かだが、息が合えば破壊力抜群なのは明らかだ。
どんな相乗効果が生まれるのか、かなり面白そうだな。
さて、ボス部屋までの道を急ぐとしますか。
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