第28話 お姉さまですの
ドゴーンっというけたたましい轟音と共に、パワーキッカーの体が吹き飛んだ。
静月が砲弾を発射したのだ。
もう、ダンジョンの壁が崩れ落ちるんじゃないかというレベルの威力である。
当然、パワーキッカーが再び動くことはなかった。
静月がパワーキッカーの体をBOXへ放り込み、こちらに戻ってくる。
「アモルファス」の能力を知っていた早倉さん以外は、全員呆気に取られている。
初めはただの槍だった「アモルファス」が、両刃の槍へ、そして銃へと変形し、最終的に大砲になって今はただの槍に戻っている。
「やばいな、その槍。」
そういうのが精一杯だった。
静月が、得意気に「アモルファス」をくるくると回す。
「でしょ~。使いこなすのに、結構時間かかったけどね。」
ただの槍ならともかく、銃や大砲になっても使いこなせるということは、静月に生来の武器を扱う才能があったのだろう。
ただの剣もろくに使えない俺とは大違いだ。
「すごかったよ!!お姉ちゃん!!」
ララが「アモルファス」を興味深げに見ながら、静月を「お姉ちゃん」とか呼び出した。
「お、お姉ちゃんって私のこと?」
「うん。お兄ちゃんがお兄ちゃんだから、お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ!!」
「お兄ちゃんって…?」
ロロが、俺のことをまっすぐに指差す。
それを見て、静月と早倉さんが怪訝な顔をした。
そういえば、ララにお兄ちゃんって呼ばれていることを静月や早倉さんは知らないんだっけ。
「あれ?ララちゃん、ロロちゃんって何歳なの?」
「ん?18だよ。」
「麻央も私も18歳だよ。だから、同い年なはずだけど。」
「それは知ってるよ。でも、お兄ちゃんがお兄ちゃんって呼べって。」
「おい!!」
ララの突然の暴露、いや虚偽の告発に俺は慌て始める。
静月と早倉さんの怪訝な顔が、変態を見るような目に進化した。
まるで、ただの槍から大砲に進化した「アモルファス」のごとき変貌である。
いや、違うんだよ?
そんな、妹属性やってくれとか頼んでないんですよ…。
「俺は頼んでないぞ。ララが勝手に呼び始めただけで…。」
「本当かなぁ~?」
「本当ですかね?」
静月も早倉さんも信じてくれない。
「ほ、本当だって!!ほら、俺の透き通った正直な目とララの濁った嘘つきの目を見れば分かるだろ!!」
「ちょっと、それどういうこと!?」
ララまでもが、俺をにらんできた。
いや、原因はお前なんだけどな~。
「あ、あの、麻央さんの言ってることが本当です!!すいません、お姉ちゃんがまた麻央さんをからかってるだけで…。」
オオカミ少年状態の俺に、救世主として手を差し伸べてくれたのはロロだった。
「ちぇ、もうちょっとお兄ちゃんをからかおうとしたのに。」
「もう、お姉ちゃんはすぐ麻央さんをからかうんだから。」
ララが認めたことで、この問題は無事解決。
俺の無罪が確定した。
裁判官のお2方の顔も優しくなる。
「同い年は同い年なんだけど、お姉ちゃんって呼んでもいい?」
ララが静月に聞いた。
なぜだ、なぜそんなに兄や姉が欲しいんだ。
「う、うん。いいよ。」
若干戸惑いながらも、静月が頷いた。
「じゃあ、改めてお姉ちゃん。」
「お姉ちゃん」というワードに、静月がくすぐったそうな顔をする。
静月は一人っ子だし、いとこの早倉さんも年上。
妹的な存在ができるのは初めてなのだ。
「わ、私も、年上ですよ?」
早倉さんがボソッと呟いた。
え?まさか、早倉さんもお姉ちゃんって呼ばれたいのか?
ってことはもしかして、「奈菜姉」っていうのは早倉さんが呼ばせて…。
「それは、違いますからね。呼び始めたのは静月です。」
俺の視線に気づいた早倉さんが、思考を読んだかのように言った。
「あ、そうなんですね。ははは…。」
これ以上地雷を踏まないよう、俺は苦笑いで逃げる。
「でも、奈菜さんはお姉ちゃんって感じじゃないんだよな~。どっちかというと…」
「いうと?」
「お姉さまかな。」
「お姉さまですか。」
出てますよ。
「お姉さま」って呼ばれたいって顔に出てますよ。
早倉さんって、俺には敬語だしシンプルに探索者として強いしクールってイメージだけど、別に人付き合いなんて必要ないですからってタイプじゃないんだよな。
むしろ、かなり面倒いいし、ララが「お姉さま」って言うのも分かる気がする。
「お姉さまって、奈菜姉に合ってるかもね。」
「じゃあ、奈菜さんは次からお姉さまね。」
無事ロロによる全員の呼び方が決定したところで、俺たちはダンジョンの奥に進む。
くだらないやり取りしてたけど、ここは一応ダンジョンの中なんだよな。
少し歩けば、またモンスターが出てくる。
また鳥、今度はシールドバードというモンスターだ。
さて、ロロと静月の素晴らしい戦いを見せてもらったことだし、そろそろ俺が獄炎による焼き鳥作りを披露するか。
「じゃあ、ここは俺…」
「では、ここは私が戦いましょう。」
意気込んだ俺の声を、早倉さんが遮った。
弓矢を持ち、俺以上に意気込んでいる。
早倉さんが、シールドバードに向けて一歩踏み出した。
仕方なく、俺は後ろに下がる。
「お姉さま~!!頑張って!!」
「奈菜姉!!ファイト!!」
「頑張ってください!!」
年下女子からの声援に、早倉さんの表情が緩んだ。
モンスターを前にしても、シスコンが発揮されている。
まあ、度を越した武器オタでも、シスコンでも、その探索者としての実力は本物だ。
その片鱗は、実際に戦った俺も目の当たりにしている。
それが、手加減の必要ないモンスター相手になったらどうなるか。
静月の戦いを見るときとはまた違ったワクワクが、俺の胸の中に生まれた。
早倉さんが弓矢を構えた。
その照準は、まっすぐにシールドバードを捉えている。
「お姉さまの戦いを、見せて差し上げますの。」
早倉さん、語尾おかしくなってますの…。
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