第27話 アモルファス
「あれ、普通の槍じゃないですよね。」
槍を振り回してパワーキッカーと戦う静月を見ながら、俺は早倉さんに言った。
明らかに、攻撃の破壊力がおかしい。
今の静月の攻撃力からはありえないようなダメージを、パワーキッカーに与えているのだ。
「当然です。」
早倉さんが頷いて言った。
「あの槍、名前を『アモルファス』といいます。その意味は不定形。定まった形を持たないことが特徴の、この世で静月だけが持つ槍です。」
何だか想像よりもすごい武器だった。
「不定形ってことは、自由自在に形が変えられるってことですか?」
「その通りです。ほら、あのように。」
早倉さんが戦っている静月を指差す。
静月は両刃の槍を高速で回転させて2体のパワーキッカーの足を薙ぎ払うと、バランスを崩した片方のパワーキッカーの後ろへ回り込んでスキルを発動した。
「【ガン・スピアー】!!」
槍の形が変わり、今まで刃がついていた片側に銃口が、もう片側に引き金が出現する。
ガン・スピアーを直訳すると銃槍って感じかな。
確かに、見た目は細長い銃のようだ。
静月が、よろけるパワーキッカーに狙いを定めて引き金を引いた。
発砲の音はしない。
しかし、パワーキッカーの体は見事に撃ち抜かれていた。
「もう一丁!!」
静月がとどめにもう一発。
まずは1体、パワーキッカーが倒れた。
「すごい!!槍が銃になったよ!!」
「残りは1体です!!」
ララとロロが、興奮して声を上げる。
俺は早倉さんに言った。
「まさか銃になるとは思いませんでしたよ。何なんです?あの槍は。」
「素晴らしいでしょう?」
自慢気に言うと、早倉さんは「アモルファス」について説明してくれた。
「あれは元々とある探索者が使っていた武器で、彼が引退を決めて武器屋に保管してもらいに来たところを、頼み込んで買わせていただいたものです。その探索者は【器技付与】というオリジナルスキルを持っていました。【器技付与】は武器に様々なスキルを付与できるスキルで、彼は探索者としても武器職人としても大いに活躍しました。」
【器技付与】って、聞いたことがあるな。
一流の探索者を取り上げる番組で紹介されていたのを見た記憶がある。
結構年いったおじいちゃんが取り上げられていて、「これでも現役じゃけぇ!!」って叫んでたっけ。
そうか、引退なさったのか。
さすがに年齢には勝てなかったということだろう。
まあ、哀愁を感じるのは後でいい。
今は早倉さんの話だ。
「その彼が、誰に頼まれても譲らなかったのがあの槍です。誰が何と言おうと、彼はあの槍を自ら使い続けました。彼曰く、【器技付与】の全てを詰め込んだ最高傑作だそうです。」
最高クラス武器職人の最高傑作である槍。
それ、お高いんでしょう?
「いくらぐらい払ったんですか?というか、そんなにあっさり譲ってもらえるものなんですか?」
「もちろん、ただ金を払えば売ってもらえるという訳ではありません。」
早倉さんの顔が、一層自慢気になる。
何やら、裏がありそうだな。
「譲ってほしいと言うと、彼は私を試してきました。試験の内容としては、主に武器の知識を問うもの。槍や私の使う弓矢だけでなく、剣や盾など彼の質問は多岐に及びました。」
なるほど。
武器の知識がちゃんとある人に譲りたかったということだろう。
「ちなみに、難易度の程は?」
「そうですね。ダンジョンのランクで例えればSSSSぐらいでしょうか。」
あ、察し…。
俺がやったら、第1問で即死するやつだ。
「まあ、私は全問正解しましたが。」
すごいなこの人。
今までただの武器オタかと思っていたが、どうやらそんな次元じゃないらしい。
「彼も驚いたようです。だいぶ値引きして譲ってくれました。」
「ちなみに、おいくらほどで?」
「キリよく100万です。」
「「「100万!?」」」
俺とララとロロが同時に驚きの声を上げた。
そうですか、だいぶ値引きしてその額ですか。
さすがは、名工の逸品というだけある。
「そう驚くことではありません。100万でも安すぎるくらいです。それも、静月のためになっていますから。」
シスコンタイプなのは変わらないんだな。
実際にはいとこなんだけど、いとコンって糸こんにゃくみたいだからシスコンってことにしておこう。
いや、いとこって英語で言えない訳じゃないよ?本当だよ?
「まあ、その他細かい話は後にしましょう。いよいよ、静月が最後の締めに入りますよ。」
早倉さんが、再び静月の方を指差した。
静月と残り1体のパワーキッカーがにらみ合っている。
パワーキッカーはもうズダボロで、後1発食らわせれば倒れそうだ。
静月が、最後の仕上げにスキルを発動した。
「【ブラック・キャノン】!!」
「アモルファス」が再び変形する。
ん?「キャノン」って言ったか?
「アモルファス」が、槍からごっつい武器に変形した。
キャノン、まさに…
「大砲…。」
俺の呟きに、早倉さんが頷いた。
「その通り、あの槍は大砲にもなれるんです。」




