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第23話 魔王様は友達が少ない

「《AD-100ダンジョン》に酸素ボンベ未所持で挑み生還!!噂の『魔王』か!?」


 まとめサイトに掲載された記事を見て、俺は満足気に頷いた。

 一昨日俺は、【ガスコントロール】を駆使し、全くの手ぶらで《AD-100ダンジョン》を攻略したのだ。

 そのことが、早速記事になっている。


 ちなみにこの記事が掲載されているのは、最初に「魔王」関連の話題を取り上げ始めたサイトだ。

 よって、比較的まともな記事の内容になっている。

 あらぬことは書かれていないし、まあまあ正確な内容だ。


「やりすぎダンジョン伝説」の方はエンターテインメント要素が強すぎて、相変わらず「魔王」は伝説級のモンスターという扱いになっている。

 対してこのサイトでは、「『魔王』は探索者だと思われる」としっかり明記されていた。

 管理人がいい仕事をしている。


 俺は記事を一通り読み終え、スマホの画面を下へスクロールした。

 このサイトでは、記事に対して匿名でコメントを付けられるようになっている。

 コメントの内容としては、「『魔王』?いる訳ないって。」という否定的な意見から、「ふむ。恐らくは特殊なオリジナルスキルなのでしょうな。」という分析した意見まで様々だ。

 中には「やりすぎダンジョン伝説」から流れてきた人もいるようで、「え?『魔王』って探索者なの?」的なコメントも散見された。


 ただ相変わらず、その中に「柏森麻央」の名前は登場しない。

 どこぞの週刊誌よろしく無許可で写真が掲載されることもないため、この記事の内容だけで俺にたどり着くのはほぼ不可能だろう。

 うん。本当に管理人がいい仕事をしている。


 さてと、今日は【ガスコントロール】を活かして「魔王」っぽくなれるもう一つのダンジョンに…

 う、電話か。


 出かける支度をしようとした俺の携帯に、電話がかかってきた。

 着信相手はララだ。


「お、どうした?」

「くぁwせdrftgyふじこlp!!」

「うん、またな。」


 俺が電話を切ると、ララが再びかけてくる。

 何だか最近は、この流れがお約束になってきていた。


「何だよ…。」

「にゃははは。お約束を守ってくれるお兄ちゃん好きだな~。」

「てか、『くぁだぶりゅーせでぃーあーるえふてぃーじーわいふじこえるぴー』って口で発音してる奴を俺は初めて見たんだが。」

「ほら、いつもみたく『お兄ちゃんおっはっよー!!』って大声出すだけじゃつまんないじゃん。何だっけ、マンネリ化だっけ?」

「付き合って数カ月の高校生カップルか!!」

「え?お兄ちゃん、何言ってんの?」


 俺渾身のツッコミは「何言ってんの」の一言で片づけられてしまった。

 くそっ、正解は「結婚2年目の若夫婦か!!」だったか…。

 いやいや、違う、そうじゃない。


 俺は一つ咳払いをすると、真面目な雰囲気に戻って言った。


「で、今日は何の用だ?」


 これまでララから電話が来る時は大体、「ダンジョン探索を手伝って~」か、「お兄ちゃん買い物行こ~」のどっちかだった。

「買い物」といっても、年頃の女の子らしくかわいい服を買いに行こうというものじゃない。

 物騒な武器屋に行って、剣やら盾やらその他の便利な道具やらダンジョン攻略用のものを買うのである。


「今日は、われらが魔王様にちょっとお願いがあってね。」

「魔王様って…。お願いってのは、どこかのダンジョン攻略か?」

「う~ん。ちょっと違うんだよね。お兄ちゃん、今からハンバーガーショップに来れる?」


「ハンバーガーショップ」といえば、《CD-111ダンジョン》攻略の後に行ったところだろう。

 そう、なぜか3人分の代金を俺が払わされた店である。


 まあ、ハンバーガーショップならそんなに時間かからないだろう。

 ダンジョン攻略はハンバーガー食べてからでもいいか。


「行けるぞ。」

「良かった。じゃあ、待ってるね。」

「おう。」


 電話を切った俺は、財布に3人分のハンバーガー代が入っていることを確認して家を出た。


 ハンバーガーショップに着くと、ララとロロが並んで席に座っていた。

 2人の前にはすでにハンバーガーとポテト、ナゲットなんかがある。

 俺も適当に注文して2人の前に座った。


「おはよ~。」

「おはようございます。」

「おはよう。」


 朝の挨拶が済むと、ララが話を始める。


「今日はね、お兄ちゃんに相談があるの。」


 珍しくといっては失礼だが、ララが真面目な表情をしている。

 これは、ガチの相談事らしい。


「お兄ちゃんって、どこかのギルドに入ってたりする?」

「いや、入ってないな。」


 普通なら、Bランクダンジョンに挑むようになるまでにはどこかしらのギルドに入る。

 ただ俺は、モンスターのスキルをコピペすることと、経験値を稼ぎまくることに必死になっていたため、どこのギルドにも所属していなかった。

 そもそも、探索者の知り合いが静月に早倉さん、ララにロロしかいない。

 スマホの連絡先には一応瀬藤さんもいるか。


「確か、ララとロロはどっかのギルドに入ってたよな?」


 初めて会った時は、ギルドのメンバーにドタキャンされたと言っていた気がする。


「そうなんだけど、お兄ちゃんはギルド入る気ないの?」

「う~ん。今はないかな。」


 自慢じゃないが、俺と他の探索者では成長の速度が圧倒的に違う。

 ギルドに入ってしまうと、どんどん他のメンバーを置いていってしまうだろう。

 Sランクダンジョンに挑めるようになってからなら、また話は別だが。


「じゃあさ、ギルドを作る予定は?」

「作る?」

「そう。お兄ちゃんがギルドマスターのギルド。」

「俺がギルマス…。」


 少し考えるが、やっぱり答えはNoだ。

 まず探索者の友達が少ない上に、その知り合いもレベル300超えの上級者からレベル100いくかいかないかくらいの双子まで強さがまちまち。

 これでは、まともなギルドは作れない。

 ギルドとは、全員が同じくらいのレベルでないと成立しにくいのだ。


「今は、作る気ないかな。」

「そっかぁ。」


 ララが、残念そうに言った。


「ところで、何で唐突にギルドの話をし始めたんだ?」

「あ、それはね。お兄ちゃんにその気があったらこの企画を通したいな、と。」


 そう言って、ララはロロに合図した。

 するとロロが、バッグから何やらA4サイズのコピー用紙を取り出す。

 それを俺に渡してくれた。


 俺はその紙に書かれていることを読んで、ララとロロを白い目で見る。


「何だ、これ。」

「ねえ、ギルド作らない?」

「作りましょうよ、麻央さんのギルド!!」


 コピー用紙には、ララかロロの手書きだと思われる丸っこい文字でこう書かれていた。


「『魔王』のギルド創設(案)。ギルド名は《魔王様と使い魔たち》だ!!」

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