第17話 やりすぎ魔王伝説
「それで、魔王がどうしたって?」
《CD-111ダンジョン》を攻略し終え、俺たちは昼食を取りにハンバーガーショップに来た。
ハンバーガーをほおばりながら、ララが答える。
「ほへほへ、へっほへふぁふぁいほふぁふ。」
「一言も分からん。取りあえず飲み込めよ。」
口の中のものをメロンソーダで流し込むと、ララはスマホを見せながら言った。
開かれているのは「やりすぎダンジョン伝説」というちょっとアレな名前のまとめサイトだ。
「えっとね、この記事かな。」
ララが画面を操作すると、「魔王と噂!!Cランクダンジョンに謎のモンスター出現」という記事が表示される。
「ちょっと見せてくれ。」
ララのスマホを借り、記事ざっと読んでみる。
内容としては、その「魔王」と噂のモンスターを見たという証言を集めたものだ。
「何々。毛むくじゃらの男で、手足がそれぞれ4本あって、奇妙な叫び声をあげていて、いろんなスキルを使う、か。いや、ありえないだろ。」
「まあ、私もそう思うんだけどね。」
ララは一度スマホを受け取ると、また別のサイトを開いて言った。
「『やりすぎダンジョン伝説』は、ほとんどがガセネタだと思うよ。でも、最初に『魔王』のことを言い始めたこのサイトは、何気に信ぴょう性があるんだよね。」
ララからもう一度スマホを受け取って、サイトを閲覧してみる。
さっきまでの明らかに嘘っぽい情報とは違い、かなり現実味のある話が書かれていた。
目撃した場所や時間も細かく記されていて、これが創作ならなかなかの出来だ。
どうやら、このサイトの管理人が直接「魔王」を目撃したらしい。
管理人によると、「魔王」を目撃したのは《CD-133ダンジョン》。
身長180㎝くらいの男が、いろいろなモンスターのスキルを駆使してアイアンスコーピオンを倒すのを、探索者仲間と目撃したと書いている。
使っていたスキルは【帯電】に【放電】、【ラビットファイヤー】か。
ふむふむ。
身長180cmくらいの男でモンスターのスキルを使う、ね。
…心当たりがありありのありだ。
「こうしてみると、まるでお兄ちゃんみたいだね。」
ララが改めて記事を読み返しながら言う。
「『みたいだね』じゃないよ…。これ、明らかに俺のことだよ。」
攻略したダンジョンまで完全に一致しているとなれば、もう疑いようがない。
まあ確かにスキルが異常なことは異常なんだけど、それでも「魔王」はなあ。
超上級の探索者になると、いわゆる二つ名的なものを持つ人もいる。
どれも「剣聖」だとか「不貫の盾」だとか正義の味方っぽい名前で、「魔王」なんて完全にモンスターサイドの二つ名が付けられた人はない。
「というか、記事読んだ時に俺だと思わなかったのか?」
「う~ん。今気づいたかな。だって、お兄ちゃん優しいから『魔王』って感じしないもん。」
まあ、俺としても「魔王」は不本意だが。
「でも、この『魔王』が麻央さんだと分かれば一躍有名人ですね。」
ロロがポテトをかじりながら言った。
「有名になるのは嫌じゃないけど、毛むくじゃらだの手足4本だの尾ひれがつきすぎてるしな。嘘はダメだろ、嘘は。」
「お兄ちゃん、毛むくじゃらになれたりしないの?スキルとかで。」
「そんな気持ち悪いスキルは取らないよ…。手に入ったとしても、使わんわ。」
おそらく、即【スキル収納】行きだろう。
こんなに噂が広まっては火消しも大変だな。
あんまり気にせず、今まで通りにダンジョンを攻略するしかないか。
「お兄ちゃんは、午後どうするの?」
「そうだな。午後は家でこれからの計画を立てるよ。夜は夕食の約束がある。」
明日からのBランクダンジョン攻略に当たって、習得するスキルをピックアップしておきたい。
それを参考に、どのダンジョンをどの順番で攻略するか決めるのだ。
「夜ご飯って、彼女?」
「ちげぇよ。」
ララが、ニヤニヤしながらで問い詰めてくる。
「彼女か?彼女なのかぁぁ!?」
「だから違うって。」
「お、お姉ちゃん。声大きいよ。」
俺の呆れた視線とロロのたしなめの前に、ララは口をとんがらせて黙った。
「お前らは、午後何するんだ?」
「私たちは、ちょっと遠い道具屋さんに行きます。注文した道具が届いたらしいので。」
ロロが目を輝かせながら教えてくれた。
その表情からして、とても楽しみなのだろう。
気付けば、3人とも昼食を食べ終えている。
ジンジャーエールをストローで吸うと、「ズゴゴゴ」という間抜けな音がした。
その音を合図に、昼食が終わりを告げる。
「出るか。」
「そだね。」
「そうですね。」
俺たちは、会計を済ませてハンバーガーショップを後にした。
…3人分の代金を俺が支払わされたのは何でなんだろう。
家に帰り、D-GUIDEを開いて付近のBランクダンジョンをリストアップ。
そこから、使えそうなスキルを持つモンスターが住むダンジョンをピックアップした。
しかし、思っていたよりも近くに良いダンジョンが少ない。
「ちょっと範囲を広げるか。」
俺はダンジョンの検索範囲を広げ、新たにリストを作り直した。
リストの中には電車で1時間くらいのダンジョンもあるが、Bランクダンジョンで貰えるお金を考えれば、交通費を含めても黒字だろう。
武器を買わなくて済むためお金も順調に貯まり、ボロアパート脱出も近づいてきた。
今のところは、順風満帆な探索者生活を送れている。
そういえば、早倉さんはSランクダンジョンを攻略しているはずだ。
それならかなりのお金が手に入るはずなのに、何でこんなボロアパートに住んでいるんだろう。
今夜聞いてみるか。
夜まではまだまだ時間がある。
俺は、しばしの睡眠タイムを取ることにした。
静月と早倉さんと夕食に一緒に来たのは、近くにあるイタリアンレストラン。
レストランとはいっても、ドレスコードやらテーブルマナーやらがぎちぎちの堅苦しいところではなく、家族連れが気楽に来られるような店だ。
それぞれ思い思いの料理を注文し、出てくるのを待つ。
最初に話を切り出したのは、早倉さんだ。
「ところで、柏森さんはどのくらいまでレベルが上がりましたか?」
「今日、139になりました。まだまだ、半分もいってませんね。」
俺は苦笑する。
十分異常な成長速度ではあるが、レベル315はまだまだ遠い。
「ですが、そのスピードなら本当に数年は必要ないようですね。」
「まあ、そうですね。静月はどれくらいまでいった?」
静月は、ちょっと恥ずかしそうに答える。
「えっと…今日13になった。」
一週間でレベル13。
十分な数字だろう。
もともとステータスの数値も高いし、これからどんどん強くなるに違いない。
そこからは、出てきた料理を食べながらいろいろと話をした。
あのモンスターはこんな癖があるだとか、どこのダンジョンは朝方が空いているだとか、早倉さんの経験からの話も聞けて、なかなか勉強になった。
「そういえば、早倉さんってどうしてあんなボロアパートに住んでるんですか?Sランクダンジョンを攻略すれば、結構お金貰えるでしょう?」
話の切れ目を見て、俺は気になっていたことを早倉さんに質問した。
すると早倉さんは、あっけからんと言い放つ。
「私、お金はほとんど持ってませんよ。」
「え?でも…。」
俺がきょとんとすると、静月がため息をつきながら説明してくれた。
「奈菜姉ね、お金は貰ってるんだけど、すぐ弓矢に使っちゃうの。だからお金が全然貯まらなくて。」
な、なるほど。
まあ、探索者としては正しい…いや、正しいのか?
「あの、買った武器はちゃんと使ってるんですよね?」
俺の脳裏に、早倉さんの部屋に入った時の光景が浮かぶ。
いくつかの弓矢は、ガラスケースに入れられて飾られていた。
「使ってませんよ。使うのは使い慣れている1つだけで、残りはコレクション用です。」
やっぱりコレクション用かぁ~。
まさかの武器オタかぁ~。
「ね?それで財布がすっからかんとか、もったいないでしょ?」
「お、おう。」
俺も小さい頃はレプリカの剣とか盾とか弓矢とか集めまくってたから、早倉さんの気持ちも分からないではない。
ただ、快適な住処とどちらが大事かと言われれば、文句なしで快適な住処だ。
ん?財布がすっからかん?
「あの早倉さん、まさか今も財布が空なんてことは…。」
「それは大丈夫です。今日のために、取っておきましたから。」
そう言うと、早倉さんはバッグから茶封筒を取り出して見せてくれる。
良かった。
もともと、今日は早倉さんがおごってくれるという話だった。
昼になぜか3人分のハンバーガー代を払ったので、夕飯代もとなると懐に響く。
俺は安心すると、マルゲリータにかぶりついた。
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氏名:柏森麻央
年齢:18
《STATUSES》
レベル:139
攻撃力:1530
防御力:1530
速 度:1530
幸 運:1530
体 力:1530
《SKILLS》
〈オリジナルスキル〉
【複製転写】Lv.1
【粘膜シールド】Lv.3
【分身】Lv.3
【跳躍】Lv.3
【ジグザグジャンプ】Lv.3
【ラビットファイヤー】Lv.5
【催涙花粉】Lv.1
【進化】Lv.2
【成長爆発】Lv.4
【帯電】Lv.2
【放電】Lv.2
【ポイズンジェット】Lv.1
【ポイズンミスト】Lv.1
【ロックキューブ】Lv.1
【ウォーターカッター】Lv.1
【アンチポイズン】Lv.1
〈ノーマルスキル〉
【鑑定眼】Lv.1
【ウィンドアロー】Lv.1
【スキル収納】Lv.1
【スキル収納】Lv.1
【スキル収納】Lv.1
スキル習得ポイント:3000
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