第11話 さらばDランクダンジョン、さらば焼きうさぎ
降参だという風に、俺はゆっくりと両手を上げた。
粉塵爆発を起こして矢を回避し、早倉さんにぶつかっていく。
そこまでは良かった。
ただ、最後にものを言ったのは250以上あるレベル差と探索者としての経験だった。
俺の【体当たり】は見事に回避され、バランスを崩したところで弓矢を突き付けられてしまう。
これ以上、動くことは出来ない。
「その両手は、負けを認めたということで良いですか?」
早倉さんの言葉に、俺は黙って頷いた。
そもそも、この勝負の目的は勝利ではない。
全力で頭と体を使ったから、これ以上の悪あがきは必要無かった。
「分かりました。」
俺に反撃の意思が無いことを読み取った早倉さんは、ゆっくりと弓矢を下ろす。
「面白かったですよ。」
早倉さんの言葉に、俺は顔を上げた。
「【催涙花粉】。スニーズフラワーのスキルでしたかね。久しぶりに見たと思えば、まさかあれで粉塵爆発を起こすとは。あれでは確かに、正確な【奇術・コントロール】は使えませんね。」
俺の思惑は、それなりに上手くいっていたのだろう。
実際、寸前まで迫った矢を回避できた訳だし。
「全体的に見ても、あなたは非常に上手く戦っていました。最初は、ただただ攻撃スキルを乱射してくるだけのうるさい脳筋かとも思いましたが、それぞれのスキルも巧みに使えていましたし、状況に応じた柔軟な発想も出来ています。」
「うるさい脳筋」は余計だが、良い評価をもらえたらしい。
「決して自分のスキルをおごることなく、そしてレベルの高い相手にも臆することなく戦えていた。レベル上げの秘訣について素直に聞きに来た謙虚さも含めて、私はあなたが信頼できる人間だと判断しました。」
おお。
めちゃくちゃ高評価だ。
「信頼出来る」と言ってもらえた。
ということは。
「ということは、スキルをコピペさせてもらっても?」
「ええ。構いません。ぜひ【成長爆発】を使って、さらに強くなってください。」
よし!!
俺は右手で小さくガッツポーズした。
「じゃあ早速…」
「ですが」
【複製転写】を使おうとした俺を、早倉さんが静止する。
「いくつか守ってもらいたい点があります。」
そう言うと、早倉さんは右手を伸ばし、人差し指から薬指まで3本の指を立てた。
「1つ。私から【成長爆発】をコピペしたことを、むやみに他言しないでください。中には、快く思わない人たちもいるかもしれないので。」
俺としても、誰かに自慢しようなどとは考えていない。
自分が強くなりたい。
目的はそこだ。
俺は、力強く頷いた。
「2つ目。【成長爆発】を手に入れたことで慢心せず、今の私のレベルまできちんと上がってきてください。静月とダンジョンに行けるのは、それからです。」
これにも、俺は力強く頷いた。
きちんとレベルを上げなければ、スキルをコピペさせてもらう意味がない。
当たり前のことだ。
「そして最後に3つ目。」
早倉さんの顔が、より真剣になる。
最後に取っておかれていたことだし、一番大切なことなのだろう。
「隣の部屋で騒ぐのは、本当にやめてください。」
そ、そこですか…。
スキルをコピペさせてもらう、もらわない以前に気を付けるべきではあるんだけどさ。
俺は申し訳なさそうに、小さく頷いた。
「分かっていただけたようですね。では、ご自由に【成長爆発】を習得なさってください。」
「ありがとうございます。」
そして俺は、早倉さんから少し距離を取った。
いや、別にね?距離取ったり、大声で叫んだりしなくたっていいんですよ?
一応、雰囲気ってことで。
「【複製転写《コピ-アンドペースト》】ぉぉ!!」
俺は、早倉さんに向かって右手をかざす。
早倉さんと静月の視線が、俺にじっと注がれた。
すまんな。そんなに、派手なスキルじゃないんだ。
「【成長爆発】!!」
[スキル【成長爆発】を複製しました。転写しますか?]
「Yes!!」
[スキル【成長爆発】を転写しました。]
[スキル【成長爆発】を習得しました。]
俺は、スマホを取り出してD-GUIDEの自身のステータスからスキル欄を確認した。
確かに、【成長爆発】が追加されている。
その文字をタップすると、詳細が表示された。
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【成長爆発】Lv.4
効果:ダンジョン攻略報酬の獲得経験値が5倍になる。
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Lv.4のスキルが、Lv.4のままコピペ出来ている。
Lv.1に戻ったりしないかという不安もあったが、そこは大丈夫だったようだ。
「もう、終わったのですか?」
不思議そうな顔をしながら、早倉さんが近づいてきた。
俺はスマホから顔を上げ、お礼を言う。
「はい。ちゃんと習得できたみたいです。ありがとうございました。」
「そうですか。良かったです。では、終わりにしましょう。」
そういえば、まだ「2DS」は続いていたんだった。
「2DS」では、どちらかがシステムから戦闘不能と判断されるか、どちらかが自主的に降参するかで勝敗が決まる。
今日のところは、俺の完敗だろう。
「柏森麻央、降参します。」
初めての「2DS」が終わった。
目的は果たせただろう。
【成長爆発】の経験値5倍に【進化】の経験値2倍を掛け合わせれば、経験値は何とびっくり10倍になる。
「これからも、よろしくお願いしますね。」
「はい。」
いつの間にか、苦手だった早倉さんと笑顔で話せている俺だった。
早倉さん、そして静月にご飯を食べないかと誘われたが、一刻も早くレベル上げに向かいたかった俺は来週一緒に食べる約束をして、今日はダンジョンに向かった。
挑戦するのは、毎度お馴染み《DD-187ダンジョン》。
ただ、経験値10倍の効果があるためこの攻略でレベル50に達すると思われる。
そうなれば、《DD-187ダンジョン》は卒業だ。
「思いっきり暴れるか。」
俺は両手の拳をぎゅっと握り、ダンジョン内に入る。
少し歩けば、すぐにアミュンラビットが出てきた。
「お前のスキル、結構使わせてもらってるぜ。【ラビットファイヤー】!!」
お礼がてらに火の玉を放つなんてヤクザみたいなことをしながら、ダンジョン内をずんずん進む。
あっという間に、ボス部屋まで到達した。
ボスも毎回変わらずのファイヤーアミュンラビット。
【ラビットファイヤー】が今の俺のメインの攻撃スキルになっているため、何だかんだ一番お世話になっているのはこのモンスターかもしれない。
「【ラビットファイヤー】!!」
初めは時間のかかったファイヤーアミュンラビットも、今や一瞬で焼きうさぎに出来るようになった。
成長を実感する。
ご遺体をBOXに放り込むと、いつものようにダンジョン攻略成功を告げる声が響いた。
[ボスモンスター討伐を確認しました。ダンジョン攻略成功です。]
くどいようだが、今回からは経験値10倍。
さあ、Dランクダンジョン卒業のカウントダウンだ。
[攻略報酬として経験値を獲得しました。]
[攻略報酬としてスキル習得ポイントを獲得しました。]
[攻略報酬として670円を獲得しました。]
[攻略報酬としてアイテム《アミュンラビットの毛皮》を獲得しました。]
ここまでは、いつも通り。
普段と変わらない。
[レベルが11上昇しました。レベルが56になりました。各ステータスの数値が上昇しました。]
一気に11もアップ!!
さすがは、経験値10倍というところだ。
この分なら、レベル315まで本当に「数年も要らない」だろう。
ただ、恐るべきはここからだった。
[スキル【ラビットファイヤー】のレベルが1上昇しました。スキル【ラビットファイヤー】がLv.4になりました。]
[スキル【粘膜シールド】のレベルが1上昇しました。スキル【粘膜シールド】がLv.3になりました。]
時々起きるスキルのレベルアップ。
しかし今日は、一気に“3個”ものスキルがレベルアップしたのだ。
[スキル【進化】のレベルが1上昇しました。スキル【進化】がLv.2になりました。]
【進化】のレベルアップ。
それすなわち、獲得経験値がさらに増えることを意味する。
俺は、おそるおそるD-GUIDEから【進化】の文字をタップした。
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【進化】Lv.2
効果:ダンジョン攻略報酬の獲得経験値が2.5倍となる。
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「マジか!!」
俺は喜びのあまり、スマホを落としそうになった。
【進化】のレベルアップで、獲得経験値は12.5倍。
さらにさらに、レベル315が近づいたのだ。
「よし。これで、Dランクダンジョンは卒業だな。」
もちろん、レベル50以上の人がDランクダンジョンに潜ってはいけないという決まりは無い。
ただCランクダンジョンの方がもらえる報酬は多いので、ほとんどの人がDランクダンジョンに潜ったりはしないのだ。
俺自身としても、強いモンスターのいるダンジョンの方が強いスキルが手に入って成長しやすい。
当分、Dランクダンジョンを攻略することはないだろう。
「試しに今から行ってみるかな。」
そして俺は何回も挑戦した《DD-187ダンジョン》に別れを告げ、手ごろなCランクダンジョンを調べ始めたのだった。
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氏名:柏森麻央
年齢:18
《STATUSES》
レベル:56
攻撃力:680
防御力:680
速 度:680
幸 運:680
体 力:680
《SKILLS》
〈オリジナルスキル〉
【複製転写】Lv.1
【体当たり】Lv.2
【粘膜シールド】Lv.3
【分身】Lv.2
【跳躍】Lv.1
【ジグザグジャンプ】Lv.2
【ラビットファイヤー】Lv.4
【催涙花粉】Lv.1
【ステムバレット】Lv.1
【進化】Lv.2
【成長爆発】Lv.4
〈ノーマルスキル〉
【鑑定眼】Lv.1
【ウィンドアロー】Lv.1
スキル習得ポイント:2650
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