第9話 奈菜姉さんのスキルをください!!
どうしたらいいんだぁぁ!!
ダンジョンへの道を歩きながら、俺は心の中で叫んでいた。
見栄を張って「数年も要りません」とか言っちゃったものの、今のペースではレベルが315になるまで1、2年はかかる。
Bランクダンジョンに挑戦出来るレベル100まではそれなりに早く上がるものの、そこから一気にレベルが上がりにくくなり、Sランクダンジョンに挑戦出来るレベル300ともなれば全探索者のほんの数%に満たないと言われているからだ。
いくら【進化】があるとはいっても、確定で数年は要るのである。
「どうしたものかな。」
ふと呟いて、俺は奇妙なことに気が付いた。
奈菜姉さんは、俺たちより2、3歳だけ上のはずだ。
つまり、18歳ですぐに探索者になったとして探索者歴は2、3年。
それでレベル315とは、あまりに成長速度が速すぎる。
考えられることはいくつかある。
その1。
奈菜姉さんは実はもっと年上。
まあ、これはないな。
というか、頭の中に出てきた奈菜姉さんに思いっきり怒られた。
はい、すいません。
その2
めちゃくちゃレベル上げの効率がいい隠しダンジョンを知ってる。
これも可能性は低いだろう。
新たなダンジョンが発見されれば、すぐに噂となって探索者が押し寄せる時代だ。
一つのダンジョンを、何年も隠しておけるはずがない。
となると、その3の考えが有力だな。
その3.
奈菜姉さんは、【進化】に似たスキルを持っている。
これが、一番現実的かな。
もちろん、「獲得経験値が2倍になる」なんてノーマルスキルは存在しないから、オリジナルスキルだろうけど。
「もし奈菜姉さんが【進化】みたいなスキルを持っているとしたら、それをコピペさせてもらうことは出来るかな。」
モンスターはともかく、他の探索者のスキルを勝手にコピペするのが良くないことは分かる。
それがオリジナルスキルとなればなおさらだ。
だから、コピペするなら許可を取るべきだろう。
ただ、あの怖い奈菜姉さんが素直に許可してくれるだろうか。
でも、出来るだけ早くレベル315に達するには他に方法が見当たらない。
「頼んで…みるか。」
俺は一つ深呼吸すると、ボロアパートへと引き返した。
帰ってきた俺を見て、奈菜姉さんが怪訝な顔をする。
静月はコンビニに行ってるらしい。
「何か、忘れ物ですか。」
「あ、いえ、えっと…」
思いつきのままに来てしまったが、なんて言ったらいいんだろう。
「あの、奈菜姉さんは…」
「奈菜姉さん?」
「あ、あの早倉さんは…」
しまった。
つい心の中で奈菜姉さんって呼んでたから口に出してしまった。
「早倉さんは、どうしてそんなに早くレベルが上がったんですか?」
まずは素直に聞いてみる。
「なるほど、素直に教えを請おうという訳ですか。その姿勢には感心しました。謙虚な人は、信頼出来ます。」
奈菜姉さん…じゃなかった。
早倉さんの表情が、少し優しくなった。
「ただ、全てを人に問おうとするのは間違っている気がします。あなたなりの考えはありますか?」
「ええ、いくつか。」
俺は、さっき歩きながら考えていたことを話した。
それを聞いて、早倉さんが質問する。
「それで、あなたはどの可能性が一番高いと?」
「オリジナルスキルだと思います。」
俺の答えに、早倉さんは頷いた。
そして、優しく微笑んで言う。
「ただうるさいだけかと思っていましたが、なかなかに洞察力もあるようですね。少し、見直しました。」
褒められてる。
褒められてるけど、やっぱりトゲがあるなぁ。
まあ、怒っている時とはまた雰囲気が違うけど。
「あなたの推測通りです。これを見てください。」
早倉さんが、スマホから自分のステータスを見せてくれる。
そのスキルの欄に、確かにオリジナルスキルが表記されていた。
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【成長爆発】Lv.4
効果:ダンジョン攻略報酬の獲得経験値が5倍になる。
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5倍だと!?
そりゃ、レベル315にもなるわ…。
「す、すごいですね。」
「初めは、3.5倍でしたがね。レベルアップして、5倍まで来ました。」
3.5倍でも十分えぐい。
オリジナルスキルがLv.4ということは、やっぱりそれだけダンジョンに潜ったということだ。
早倉さんのレベルが高いのは、オリジナルスキルだけのおかげではない。
さて、本題はここからだ。
「早倉さん。そのスキル、俺にくれませんか!?」
俺は、必死に頭を下げた。
顔を上げると、早倉さんが「何言ってんだこいつ」という目で俺を見ている。
「あ、いや違うんです。実はですね。」
俺は慌てて、自分のスキルを説明した。
戦闘相手のスキルを複製し、転写出来ること。
そのスキルのおかげで、モンスターのいろいろなスキルを持っていることなどだ。
早倉さんはその話を興味深げに聞くと、腕を組んで目を閉じ、何やら考え始めた。
そして、目を開けて言う。
「いいでしょう。ただし、条件があります。」
条件。
何だろうか。
「私と勝負しましょう。もちろん、あなたに勝てとは言いません。ですが、あなたが【成長爆発】、そして静月を任せていい器か見定めさせてもらいます。」
戦闘相手でなければ【複製転写】は使えない。
もとより、早倉さんには勝負を挑むつもりだった。
探索者同士が訓練のために模擬戦的なものを行うシステムとして、「2DS」というものがある。
…いや、冗談抜きで。
某ゲーム機と同じ名前だとしても、これは本当だ。
DSは「Dungeon Searcher」の頭文字。
2は2人用のバトルだから2DS。
名前がナントカ天堂に訴えられそうな名前でも、とにかくそういうシステムがあるのだ。
この近くだと、電車で一駅のところに専用のバトルフィールドがある。
「私があなたを認めれば、戦闘の最後に【成長爆発】を複製していただいて構いません。どうですか?」
「やりましょう。」
俺は、力強く答えた。
ちょうどそこに、静月が帰ってくる。
「あれ、麻央もう帰ってきたの。」
手には、コンビニの袋をぶら下げていた。
「静月、ちょうどよかった。少し出かける用意をしてくれるかしら。探索者の戦いを見せてあげるから。」
「分かったよ~。」
静月が部屋に戻ると、早倉さんは言った。
「さあ、私たちのデ…じゃなくて戦いを始めましょう。」
…ん?
この人、意外とオタクか?
3人で電車に乗り、一駅先に向かう。
幸い、バトルフィールドに先客はいなかった。
中央にある円形のフィールドに、俺と早倉さんが向かい合って戦闘の構えを取る。
静月は観客席に腰を下ろした。
「準備はいいですか?」
「はい!!」
レベル差が2倍以上あるため、【鑑定眼】は使えない。
早倉さんの使う武器は弓矢で貫通攻撃だから、【粘膜シールド】の効果も半減だ。
正直言って、今の俺では勝ち目がない。
でも大事なのは、俺の本気度を見せて信頼を勝ち取ること。
ここで【成長爆発】が手に入れば、俺はさらに強くなれるんだ!!
「いきますよ!!【分身】!!」
俺の体が2つに分かれた。
それを見て、静月が目を見開く。
ふっ、これくらいで驚かれちゃ困るな。
お前も探索者になるなら、これぐらいのことには慣れてもらわないと。
「「【ラビットファイヤー】!!」」
そのまま俺は早倉さんに向けて、うさちゃん火の玉を発射する。
俺たちのデ…じゃなかった戦いが始まった。
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氏名:柏森麻央
年齢:18
《STATUSES》
レベル:45
攻撃力:570
防御力:570
速 度:570
幸 運:570
体 力:570
《SKILLS》
〈オリジナルスキル〉
【複製転写】Lv.1
【体当たり】Lv.2
【粘膜シールド】Lv.2
【分身】Lv.2
【跳躍】Lv.1
【ジグザグジャンプ】Lv.2
【ラビットファイヤー】Lv.3
【催涙花粉】Lv.1
【ステムバレット】Lv.1
【進化】Lv.1
〈ノーマルスキル〉
【鑑定眼】Lv.1
【ウィンドアロー】Lv.1
スキル習得ポイント:2650
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