飛べない龍
ある小さな湖に、一匹の龍が住んでいた。
生まれてからまだ千年ほどの、子どもの龍だ。だから他の龍ほどの力もなければ、知識もない。自分がどうして、どこから生まれたのかすら、その龍は知らなかった。
何年もかけて徐々に濁っていく水の中で、その小さな龍は考えていた。
鳥のように翼があれば、雲のように軽ければ、嵐の時に自分を呼ぶ声の主に会いにいけるのに、と。
百年前と比べると、湖に遊ぶ魚たちはずいぶんと減り、親友だった河童もいつの間にかどこかへ行ってしまった。
今では不快なにおいのする、寝心地の悪い泥だけがそこにある。
今年もまた、大きな轟きと稲光が、小さな龍を呼びに来た。
しかし、龍はその呼びかけに答えられない。自分が鳥や雲でないことを知っていたから。
そして龍は、今日も天を夢見る。
(了)
昔、とても上手な小説を書く友人がいたんです。
当時の僕は、彼に大きな才能を感じてましたが、彼は自分の才能を信じず、自分の部屋に引きこもってしまいました。
僕にはどうすることもできず、モヤモヤムズムズした思いをショートショートにぶつけたのが本作です。
今、彼がどうしているのか僕は知りませんが、天に昇ってる事を切に願っています。