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第3話〈魔狼〉だ。

 梯子を降ろし、お城の猫と人とが総がかりで瓦礫を取り除く。

 綺麗にしてから改めて見れば、横穴は演壇の少し後ろ、礼拝堂のもっとも奥まったところの下から奥に向かって開いていたみたいだ。

 演壇の下あたりから続くのだろう、階段の残骸が残っていた。


「もうちょっと調べれば意外と楽に見つかったんじゃ……」


 梯子で降りた穴の底から階段の残骸を見ながらあたしは言った。


「それこそ結果論だろ。覆い隠した床にどれくらいの厚みがあったのか、わからなかったわけだし」

「そっか」

「それに、これでちっとはユズハの魔力の大きさも示せたからな」


 すこし自慢げにレモンが言った。

 五十メートル四方はある部屋の床ぜんぶを一撃で崩落させたってのは、結構なインパクトがあったらしく、大臣猫たちはあたしが近づくと、少しばかりびびっていた。

 尻尾が自然に丸まって、ヒゲがへたれてるのだ。


 もっとも、その結果として、あたしたちは地下道を調べる探索隊の先頭を切ることになってしまったのだけど。

 あたしとレモン、ブランシュとシィだ。その後ろに、お城の兵士たち。猫の兵と人の兵と。総勢で十名くらいと少数なのは通路が狭いから。

 真っ暗で細い穴が前へと伸びている。

 洞穴に入った。

 空気はすこし湿っていて、重く淀んでいた。この地下通路トンネルを誰かが通るのは百年ぶりだからだろう。

 あたしや人間の兵士たちの手には杖が一本握られている。

 杖の先端がぼうっと光っていた。魔法使い猫が灯してくれた魔法の明かりだ。

 ゆっくりとあたりを窺いながらあたしたちは歩きだす。

 この先にいるはず。黒猫たちの幽霊が……。うう、あたし、根本的には幽霊とか怖い人なのに。よりによって一番前を歩かされるなんて。


「ユズハ、もうちっと自信もってろ。おまえがここじゃ一番強い。戦いに向いた魔法を使える魔法使い猫なんて滅多にいないし、キャイネ出身の人間は子どもがなかなか生まれてこないから、おまえほどの使い魔はいない。最強だ」


 キャイネも少子化問題があるのか……。

 にしても、


「最強は言い過ぎじゃ……」

「嘘じゃねーよ。魔力の大きさは桁外れだ。ま、でも、安心していい。おまえにあぶねーことはさせない。無理やり引き込んだのは俺だからな。責任もって守ってやる」


 お、おお。なんか、ちょっと男の子っぽい。かっこいいぞ。


「にやにやしてんなよ。気持ちわりー」

「えへへー」


 それにしても、とあたしは思う。あたしと同い年の子をキャイネ国で見ないのは、お城の中だけじゃなかったわけだ。キャイネの子ども不足も深刻そうだ。


「それって、キャッティーネ全体がそうなの?」

「さあね。ただ、この地方に限っていえば、日本のほうがマシなくらいだな」


 あたしの気を紛らわすためだろう、レモンは会話に付き合ってくれていた。もちろん周囲への警戒も怠らない。とはいえ何か気配があったとき、真っ先に気づくのは、あたしたちよりも、すぐ後ろを歩くブランシュとシィの超感覚コンビのはず。


「なにかいる」


 シィが言って、あたしたちは歩みを止めた。

 位置的には、たぶんお城の本棟のちょうど半分あたりまで歩いたと思う。

 そこからは天井も高くなり、幅も少し広がっていた。

 そして──。

 一瞬前まで確かに何の気配もなかったのに……。

 通路の奥で、ぼうっと青い光が二つ、点った。

 ゆっくりとその光は近づいてくる。

 

 オォォォォォン!


 咆哮が地下の空気を震わせた。

 近づく二つの光が目玉なのだとわかってしまう。

 あたしが掲げる明かりの輪の中にのそりとそいつが姿を見せた。


「……っ」


 喉の奥から、あたしはくぐもった悲鳴をあげていた。ナ、ナニコレナニコレ! 

 犬、みたいな……怪物?

 あ、こいつ……どこかで見た。


「ちっくしょう! 俺たちだって『観た』のに、なんで気づかなかったんだ!」

「隠されていた登場人物はまだいたということですね……」


 レモンとブランシュには正体がわかったようだった。


「人じゃない」


 シィの場違いに冷静な指摘に、あたしは笑い出してしまいそう。恐ろしさで。

 あたしもようやくコイツをどこで見たか思い出した。宝物庫。チリとヤヨイの『読解リーディング』で「観た」んだ。


 数え歌の二匹目の黒猫を殺した怪物。


「狼」


 シィが言った。

 明かりの輪の中に姿を現したのは、犬に似た、一匹の獣だった。

〈魔狼〉だ。

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