第27話 空飛ぶ帆船
トルキアから戻って工房に入り浸り、嫁達も水遊びを楽しんでいる。
「ほとんど形が出来てるね」
「オリハルコンは加工性が良くて作業が速いです。継ぎ目もわからないでしょ」
「うん」
「船室はいかがですか」
「最高だよ、操舵室も良くできている」
「オーマ様の知識は不思議ですね・・・違う世界の知識なのですか?」
「あ、ま、そういうこと」
現実世界でWEB検索の範囲でも飛行機の構造とか船の構造動力伝達のチェーンやギヤなど調べていたことが設計に活かされている。
概念と簡単なスケッチで作ってしまう魔法鍛冶士の実力も凄い。
全長10m最大幅2.5m、中央左右2m翼の先端にリガーという浮き、舵としても働く垂直尾翼と水平尾翼が船尾にある。一本マストの帆船は風を後ろに送る魔法をかければ自力航行、魔法が無くても風を受けて航行する。
胴内はほとんど船室、操舵輪のある操舵室は甲板中央マストの後ろ、中空のマスト・翼・舵、船体の構造は全オリハルコン製で軽く強度が高い。木外板にもオリハルコン薄板張り、内装は軽量木材なので、全重量は3トンと軽く、魔法次第で人員荷物10トンでも飛べる。
出入りは操舵室の上に取り付けたハッチのみ、嵐で水を被っても浸水しない密閉式にした。
「リガーが必要なんだね」
「嵐で転覆しないためです。狭い場所では跳ね上げられますから大丈夫」
「素晴らしい設計だ。さすが評判の高いジャイラ親方だなあ」
「それほどでも~えへえへ、明日はマストを立てて最後の仕上げです」
「進水式パーティをしましょう。ミサキ亭の女将に仕出しを頼みます」
「そいつは豪勢だ」
ーーーーーーーーーー
翌々日に完工進水式を大々的に開催、職人達をねぎらった。
しばらくマルセ湖で操船の訓練、なにしろ作ったジャイラ親方も初めての船なので一緒に乗り込んで改良個所も確認した。
「予想通りの動き、マストの帆のあげおろしや回転も操舵室で動かせるなんて考えたね~~」
「ギアとは便利なものです。小さな力で重いものも動かせる魔法ですね」
「魔導師じゃなくても使えるからね、カルカル魔法よりも応用が利くだろ?」
「ええ、さっそく使ってますよ、アハハハ」
テコの原理は知っていても魔法に依存している社会では、現実世界のような便利な道具は産まれにくい。航海は魔法航海士頼りだ。
鉄の磁力を確認したら真北を示したので現代に帰ったときに大航海時代の船のコンパスの設計図を頭にたたきこみ魔法工芸士に依頼して操舵室に設置してある。
「アルナ、時間よ、交代して」
「やん、もうちょっとやらせてよ」
「決めたじゃん、交代」
「ちぇ~ミリアのケチ」
「む~」
「はいはい、ケンカしないの、全員に覚えて欲しいから」
「飛ぶのはいつなんですか、オーマ様」
「船として間違いなく動かせるようになったらね、基礎が重要だよ」
「わかりました。でも船の艪はルキルにしかできなかったよ」
「確かにそうだな、オレもやってみたけど難しい。力だけではないよ」
「えへへ、腰の動きが大切なんだよ、こういうふうに」
「エッチな腰使い?」
「そうそう、あ!こら!」
「キャハハハ」
夜は船着き場に泊めて生活している。
外見は変わっているがそれほど突飛な物ではなく、見物人はすぐに飽きて居なくなった。船室には船用のコンパクトなキッチントイレも水洗い場もある。もちろん夜は大きなベッド。