第23話 現実世界4
現実世界に戻っていて三回目のデート、美亜は大人だけど大切にしたいから、一線は越えていない。
「綺麗に保ってるね・・・大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「チュ」
「あん、あのさあ」
「夕方まで時間があるなら遊園地に行こうか、あまり遊んだりしないだろ?」
「うう~カラオケぐらいかな」
「妹を呼ぶから」
「え~~」
「いじめられてるって、目に余るようだったらオレが守る。友達が欲しいんだ」
「・・・わかった、あたしもいじめられたからわかる」
「優位に立とうとして獣人族を貶める人族も居る、互いに尊重して生きなくてはまっとうではないと思うんだ」
「獣人族?」
「わ、あ、いや、電話するね」
「橫浜の遊園地って日本丸じゃん」
「コスモワールドの近くだしいいだろ、な、瑠奈」
「うん、楽しい」
「メリーズ号と同じ四本マストだけど細長いな、いいかい、三角帆と四角帆は風向きによって張り方が違うんだよ」
「わあ、お兄ちゃん博学~」
「なんかな~」
「お姉ちゃん、手を繫いで」
「うん、瑠奈ちゃん可愛い」
「わあい」
コスモワールドの遊具でも遊んだ。
「やっぱ、観覧車もいいね」
「高いね~」
「よく見えるな・・・うん、あれれ」
「なに?」
「あれは、美亜の妹の真美ちゃんじゃない?」
「どこどこ?」
「あの建物のバルコニーみたいなレストランかな、奥から二つ目のテーブルで男と・・・なんか泣いてるぞ」
「点にしか見えないよ」
「写真見せて貰っただろ」
「どんだけ~」
「電話してみたら?」
「いいけど・・・モシモシ」
「う、う、お姉ちゃん?」
「あんた泣いてるの?」
「う、う」
「前にいるのはだれ?」
「え、え、あの・・・」
「泣かされたの?」
「だって・・・別れるならお金だって言うの・・・」
「そこに居て!」
「金?許せんな、どうしてそんな?」
「どうして?」
「SNSで拡散させるって・・・裸」
「とにかく引き延ばせ・・・オレがなんとかする」
「そこにいて」
「う、う、お姉ちゃん・・・」
「おい!何電話してんだよ、マナー悪いぞ」
「だって・・・」
「三十万ぐらい貯金あるだろ」
「将来のためだもん」
「なんだよ、お前みたいなカス看護婦と付き合ってやったんだぞ、貢げよな」
「やめて!」
「こいつでハメ撮りして、顔もばっちりわかるんだ、スケベ女ですって」
「うう、気持ちよくなかったもん」
「なんだと!」
「お願い、消して」
「だから、三十万よこせ、そしたら消してやる」
「酷い・・・酔わせて・・・」
「バーカ」
「おい!」
「ん?」
「それだな」
「な、何をする」
「ええと・・・面倒だ!」
「わ!」
憤怒にかられてスマホを奪いばきばき、メモリカードを粉々にした。
ライアースのオレは強くなっているんだぞ!
「ま、まじか!」
「おまえ、女を泣かすのは悪い男だぞ、謝れ」
「ひいい~~」
片手で胸ぐらをつかんで持ち上げると、廻りの客がサーと引いていく。
「た、た、たすけて~~」
「マサ君、やめて、ハア、ハア、ハア、速い~」
「お姉ちゃん!」
「お兄ちゃん、かっこいい、ハア、ハア、ハア、フ~」
「おい、土下座して真美に謝れ、バカモノ!」
「は、はい・・・ううう、すみませんでした!」
男は脱兎のごとく逃げていった。
「ったく」
「・・・お客様、なにか」
「いや、すみません、汚してしまった・・・掃除します」
「い、いえ、こちらで」
「あの男が恐喝しこの娘を泣かせていた現場を押さえました。警察を呼んでいただけますか」
「え、え、いや、あの、その・・・」
面倒を避けたい店側が穏便にと、廻りの客が拍手するなか堂々と出て行った。
「あ、伝票・・・」
「いいわよ、早く出ていって貰いたかったんでしょ」
「ありがとう、マサ君」
「いや、まだ怒りが納まらないな」
「でも、どこから見ていたの?」
「観覧車に乗ってたの」
「・・・マジ?」
「男は選べよ」
「酔わされて・・・連れ込まれたの」
「・・・」
「顔コワイ、気をつけて」
「しかし・・・」
「どうどう・・・相手は?」
「インターンの板家栄一」
「証拠もないが、上司や親に釘を刺そうか」
「あたしが悪者にされるわ」
「すまない・・・」
「いいの、お姉ちゃんのマサ君が本当にいい人だってわかった」
「なにかあったらオレに言え、なんとかする」
「もう、キューンとしちゃう」
「あたしも~」
「ええと、妹の瑠奈と友達になって欲しい」
「わかった、遊ぼうね」
「やった~」
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母が妊娠と聞いて素直に喜んだ。瑠奈も同じ思い、良い子だ。和也さんも泣いて喜んだ。
「母さん、不安かも知れないけどオレが守る」
「おいおい、オレの妻はオレが守る!」
「やん、あなた・・・ありがとう、マサちゃんもありがとう・・・嬉しい」
「うんうん」
「あたし、お兄ちゃんに守って貰いたい」
「対決するか?」
「うん、勇気を出す」
「いじめっ子かい」
「いじめる子なりの暗い理由がある、オレは人を信じたい、わかるかな瑠璃」
「よくわからないけど・・・漊瑠華ちゃんはいつもつまらなそうにしている」
「今のうちに治してやろうか、瑠奈」
「うん、そうか・・・お医者さんみたいね、お兄ちゃん」
「よしよし」
「マサちゃんのほうがお父さんみたいね」
「え~」
「あなた、やだ、すねちゃった」
「アハハハ、好きですよ、お父さん」
「え、今・・・」
「あ、そうか、お父さんか・・・お祝いにビールでも飲みますか?」
「うん、うん」
瑠華ちゃんは対決で詫び、瑠奈が許したことで親友になった。
理由は名前が似ていて気にくわないことだった。
それだけではないこともわかるが、子どもはそんな些細なことで関係性を良くも悪くもしてしまう。
看護婦姉妹との交流だって。
女を慈しむのは何処の世界でも男の役目だと思う。
あの男については憐れなヤツだと思うだけだ。暗い理由があるのだろうか。
現実世界とライアース、恋しく思うと翌朝はそっちの世界に戻っていくようだ。
ちょっと混乱するけど・・・どっちも大切に思う。