男子高校生の暇潰し
この世のありとあらゆる場所に共通する現象がある。それは万物の思考力を停止させ動きを封じてくる恐ろしい現象だ。とある学者がこの現象を防ぐべくありとあらゆる対抗策を思案したが最終的に学者もその現象に侵されてしまった。内閣総理大臣も与党も野党も、大統領でさえもその現象に陥る。その現象の名前は、
『暇』
である。
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北斎農林高校2年4組。このクラスに在籍している田中と空はいつも暇である。
s「なぁ田中、暇だな」
t「だなぁ、空」
s「なんかする?」
永遠につづく授業。そして永遠につづく暇な時間。その中で最も必要になるのは、その暇を潰すためのゲームである。
t「なんかってなに?しりとり?」
s「しりとりもいいけどやり過ぎて飽きてきたしなぁ。なんか、こう胸熱くなるゲームがしたい!って感じかな」
だが現存する暇潰しのゲームというのはもう飽きた。
t「じゃあ俺が考えたゲームでもするか?こんな事もあろうかと授業中考えてたんだ」
だからこそ己で考えるしか無いのだ。
s「おお、流石だな。流石親友」
t「じゃあゲーム説明するぞ」
『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『
1、箱の中に好きな能力名と能力の発動条件、能力の詳細を記した紙を10個作り入れる。
2、箱の中から2枚の紙を引いて、紙に書いてある能力を使う事が出来る。但し紙を引くタイミングなどは己の自由である。紙を引く際の妨害はあり。
3、能力の設定は紙に書いてある事を守らなれければならないが、その場の流れが最優先である。
4、戦闘はどちらかが負けを認めるまで行う。
』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』
t「こんな感じのゲームなんだけど良いかな?」
s「血が滾るぜぇ…今話しかけると俺の隠された異能がお前を襲うぜぇ」
t「良いみたいだな。じゃあ今から暇潰しがてら準備するか。次の昼放課の時間までにまでに能力考えておけよな。空き教室で死闘を繰り広げようぜ」
s「右腕が暴れてやがる…早く、血が欲しいと…」
t「あ、うん」
弁当の時間が終わり掃除の時間も終わった。5限目までの20分間、田中と空の壮絶な戦闘が始まる。
t「箱設置完了」
s「能力紙投函!」
t「今から1分後にアラームを設定した。アラームが鳴ったらバトルスタートだ」
s「あぁ、かかって来い」
ピリリリリ…
ダッ!ガッ!
先に紙を引いたのは
s「我が身に宿れ灼熱の魂」
空だった。
紙を引いた刹那空の体は炎に覆われた。紅く黒いその炎は見る者を愕然とさせるには充分過ぎるほどに圧倒的な力が感じられる。
t「灼熱の魂 体全体が燃え盛る激情の炎に包まれ触れる全ての物を無に帰す神級能力。一発目に引くとは流石だな」
s「悪いな田中。お前が俺に勝つ事がなくなってしまったようだ」
炎が空と田中を囲む。四方を囲まれ田中は逃げ場が無くなり唖然としている。だが、その表情に絶望の色はなく、むしろ喜々としてその状況を楽しんでいるようにも思える。
t「空もまだまだだなぁ。俺の能力がどんなのかも詮索せずに「俺に勝った」なんて戯れ言を…」
s「この能力に勝てる能力なんてそう無いと思うが…」
t「その能力を考えたのは誰だと思ってるんだ、俺だぞ。全ての能力に対処法やら対になる能力やらを考えていたんだぞ。そして俺が引いた能力はまさしくお前の灼熱の魂と対になる能力極寒の魂 」
田中が高らかにそう吠えると空は笑みを浮かべ空に向かった。
s「ブリザードって…。炎に勝てるわけ無かろうが。くらえ必殺!地獄の業火 !!!!!!」
右手を田中に向け空はどす黒い禍々しい炎を撃ち放った。
t「だぁかぁらぁ、お前は詰めが甘いって言うんだよぉ!!!氷の壁!!!」
どす黒い炎が氷の壁を溶かし田中に当たる!!
s「たかが氷の壁ごときで地獄の業火が防げるとでも…っなんだと!」
そう思われたが氷の壁はいとも簡単に防いで見せた。
t「俺の氷は溶けねぇ。それが極寒の魂のチカラだ。」
絶対的防御力の前に空は膝が崩れ落ちる。そして、その目の前の絶望から溜息まじりに弱音を吐いた。
s「俺は負けるのか…」
t「やっと分かったか。俺もお前を殺したくは無い、降参してくれ。」
s「あれ、何だこれ。俺の頭の中に何かが…。この灼熱の魂の記憶か!」
t「何を世迷言を…ってあれ?俺の頭にも何か。極寒の魂の記憶か…」
突如2人の脳裏に痛みと共に何者かの記憶が流れ込んできた。それは能力灼熱の魂と極寒の魂に宿る記憶、勇者と魔王の記憶だった。
s「お前は、魔王カエンか!」
t「貴様は、勇者レイ!まさかこんな所で再会するとはな。運命というのは中々に粋な事をしてくれる…結局貴様とは決着をつける事が出来なかったからな」
s「あぁ今度こそけりをつけようじゃないか、カエン!」
ここではない何処かで因縁の関係だった勇者レイと、魔王カエン。男子高校生の只の暇つぶしで始まったバトルに勇者と魔王が降臨しこの戦いは熾烈をきわめる…と思ったその時だった。何者かによって教室のドアが開かれた。
誰にも戦いを邪魔されることなく謳歌するため誰にも使われていない旧校舎を戦場にしていた2人。故に扉が第三者によって開かれたことに驚きを隠せない。
st「えっ、あ、えっ…k…」
k「私は神ゼウスなり!その因縁の対決私にも混ぜさせてもらうぞ。」
突如目の前に現れた白髪の老人が神を名乗った。
st「えっ、あ、えっ…k…」
k「実を言うと魔王カエンと勇者レイ、2人は私が転生させた地球人だったんだ。異世界では生まれた頃から憎しみ合う設定にし、あまつさえ殺し合いもさせた。だから今のこの関係は私の責任だ。この責任は私が2人を殺す事で償うとしよう…」
st「あっはい…」
k「能力の紙を引く中々面白い戦い方をしているようだな…。普通に戦うと只の虐殺になってしまうから私も君たちのルールに乗っとて殺ってあげますよ。」
ガサガサ
s「レイ、一先ず神から倒すため手を貸してくれないか…おそらくお前でも1人では神に勝つことはできな…」
t「はぁ、何を俺1人で勝てるに決まってるだろ!地獄の炎!!!!!」
k「万物を喰らい尽くす者。能力を喰らい、我が糧とする能力。私に相応しいな…。ではこの技をお返ししようか。地獄の炎」
t「俺の技を!?相手の能力を喰らい自分の力に出来ることができる万物を喰らい尽くす者を引くなんてな…。まぁいい、その能力は欠陥だらけのオンボロ能力だ。これで貴様に構う必要がなくなった。」
k「えっ、あ、えっ…。これ強くないの?」
t「お前に技を出さなければいいだけだからな。一見強そうだけど只の暴力には何にも対策できない屑能力、ドンマイ」
k「全てを喰らい尽くす者!!!」
効果が無いようだ
k「全てを喰らい尽くす者」
効果が無いようだ
k「全てを喰らい尽くす者」
効果が無いようだ
k「全てを喰らいつk」
うぇんんぇん…
t「レイ、コイツどうする?」
s「無視…?」
t「灼熱の魂 覚醒!!!!温度上昇!!!!!今俺の炎は極寒の魂を溶かす力を得た!!!!!くらえ、深淵極滅永久業火!!!!!!」
s「ぐぁぁぁああああぁあぁ!!!!熱いっ!凍れっ!凍れぇぇえええっぇえっぇ!!!」
だがその炎は凍ることはなかった。
s「俺はこんなとこで死ぬのか…。嫌だ、死にたく無い。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…」
t「深淵の中で眠るがいい。儚き勇者よ」
頭に手を乗せ田中は空に最後に別れを告げる
s「まだだ。まだ俺は死ぬわけにはいかない。だがもう駄目そうだな、はははっこうなったらお前も死ぬがいい…。0距離なら溶かすも何も無いからな。」
グサっ
s「氷のナイフだ。お前も俺と一緒に来い、哀れな魔王よ」
キーンコーンカーンコーン
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田中
獲得能力 灼熱の魂
憑依 魔王カエン
結果 極寒の魂による氷のナイフによって敗北
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空
獲得能力 極寒の魂
憑依 勇者レイ
結果 灼熱の魂による深淵極滅永久業火によって敗北
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校長先生
獲得能力 全てを喰らい尽くす者
憑依 神
結果 生徒に泣かされなんか敗北
勝者なし
※これは只の男子高校生の暇つぶし。勇者の魂も存在しなければ魔王の魂も存在しない。当然校長先生は神でもない。只の『暇つぶし』だ