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坂本さんが、あんなに泣いてたわけを思い出させてしまうから。
全然、関係のない話をして、気をまぎらわせてあげる方法もあったと思うわ。
でも、私は興味が湧いたの。
大の大人がお酒を飲んでも気が晴れず、夜の繁華街をさ迷い歩き、果ては転倒までして、それでも家に帰らず、名前も見ずに入った店で「何でもいいから酒をくれ」でしょ?
いったい彼に何が起こったのかしら?
そう思わない?
坂本さんはまた、自分の両手に視線を向けた。
私が手を触れた左手の下にある右手を抜いて、ジントニックのグラスを掴んだ彼は、それを一口飲んだ。
「あなたの美しさが分からないほど酔ってはいませんが、それでも酔っているのは確かです」
「ええ」
「酔っている勢いで言いますが…僕が何故、泣いていたのか聞いてもらえますか?」
「もちろんよ」
私は、そっと坂本さんの左手を握った。
「僕は」
そして、彼は話し始めたの。
坂本さんは、とある商社に勤めてる。