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私はカズちゃんにお辞儀した。
「これはこれは、ありがとう」
「本当ですよ」
カズちゃんが真顔で言う。
「お若いですよね?」
彼が訊いた。
そして、すぐに「しまった」という表情になった。
「失礼じゃないですよ。そう…」
私は間近で彼の顔を、まじまじと見つめた。
お酒で赤かった顔が、さらに赤くなる。
「あなたよりは年下だと思います」
「すみません」
彼が視線を落とす。
カウンターの上で組んだ自分の両手を見つめる。
私は、その両手の上に自分の右手を置いた。
私に触れられた彼はピクッとしたわ。
「私は凜といいます」
彼が私に視線を向ける。
「凜さん」
彼は噛みしめるように私の名前を呼んだ。
そして。
「僕は坂本です」
「坂本さん」
私は坂本さんの両手に触れた手を少しだけ動かした。
彼の手は大きく、ごつごつしてる。
「何か悲しいことが?」
坂本さんの顔が歪んだ。
この質問は賭けだった。