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私は彼の左肩に、そっと触れた。
そして出来るだけ優しい声で、こう言ったの。
「ようこそ、新世界へ」
「え?」
彼は泣き顔のまま、私を見たわ。
「何だって?」
彼が私に訊いた。
「あら?」
私は、とびきりの笑顔。
「あなた、店の名前も見ずに入ったの?バー『新世界』へ、ようこそ」
「あ…ああ…」
彼は戸惑ってる。
そして、しげしげと私を見つめた。
涙は、もう止まってる。
「キレイだ…」
彼が呟いた。
「まあ」
私は彼にウィンクした。
「嬉しい。あなたが、そんなに酔ってなければ良いけど」
私の笑みに彼は首を横に振ったわ。
「大丈夫。あなたの美しさが分からないほどは酔ってませんよ。本当にスラッとして」
「スラッとして?」
「とてもキレイな女性です」
「フフフフ」
私はカウンターの奥のカズちゃんの顔を見た。
「聞いた、カズちゃん?」
「はい」とカズちゃん。
「凜さんは、お若くてお美しいです」