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そしてカウンターに額をつけて「何でもいいから酒をくれ」
疲れきった声。
バーテンのカズちゃんは何も言わなかった。
さすが客商売よね。
顔を上げないままの彼の前にジントニックを出して「どうぞ」って。
彼は額をカウンターから離して、首を横にひねった。
グラスを横から、じっと見てるの。
視線の先には私が居るけれど、彼はまったく気づいてないみたい。
しばらく経ってから、彼の手がグラスを掴んだわ。
彼は、やっと頭を上げてグラスのジントニックを半分ほど飲むと。
「ううう…」
泣きだしたの。
涙が彼の頬を伝い落ちるのが、照明で光って見えた。
きれいな涙。
これにはカズちゃんも一瞬、顔が曇ったわ。
「お客様」
カズちゃんが言った。
私は自分でも意外だったけど、気がついたら席を立って、泣いてる彼の隣の席に身体を滑り込ませてた。
カズちゃんが私を見る。
私は頷いた。
カズちゃんも頷いて、少し奥に退がってくれた。