この涙は海の味
どうして涙はしょっぱいのだろうか?
嬉しい涙も、悲しい涙も、悔しい涙も、みな同じ。
不思議に思ってママに尋ねると、ママは微笑んで答えた。
「涙はね、海と同じなの。ママは海で生まれたのよ。
深い深い海の底で育った。
そしてパパに出会ったのよ」
一瞬で恋に落ちたわ、とママは微笑む。
「だから貴女にもママと同じ海の血が流れているの。だからその瞳から出る涙はしょっぱいのよ」
その説明になるほど、と納得した。
だから涙はしょっぱいのだ。
「じゃあ、パパは?」
「ふふ、パパに聞いてみたら?」
夜、仕事から帰ってきたら、聞いてみよう。
帰ってきたパパを捕まえて聞いてみる。
「パパの涙はしょっぱいの?」
「涙?しょっぱくないよ。パパは人間だからね」
そうなんだ!しょっぱくないんだ!
その言葉に驚く。
やはり、海の血が入ってないとダメらしい。
初めて知る事実に興奮する。
「いきなりどうしたんだい?」
パパは私を抱き上げながら聞いてくる。
「あのね、私とママの涙はしょっぱいんだよ!それは海の味なんだって!」
「そうか、そうか。それはすごいな」
パパが頬を寄せてきたので、くすぐったくて笑う。
そうして私は大好きなパパの首にしがみつく。
「可愛い可愛い俺の娘。お前もママも愛しているよ。絶対に海へなど返すものか」
そう言ってパパは私をぎゅっと抱きしめた。