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マリーナの魔法薬草店

 シュレイン街に戻った俺はギルドカードを提示して門をくぐる。

 門番さんは、可愛い女の子といっしょの俺を見て業務中なのに、サムズアップをかましてくる。

 いい街だね。


 街に入ると、だいぶ日も陰っていてあたりはもう暗くなりそうだった。

 俺はマリーナさんに魔法薬草店までお送りすることを申し出る。

 マリーナさんも最初は遠慮したふうではあったんだけど。


「すいません。マリーナ、お言葉に甘えちゃいますねっ」 

「は……はい!」


 思わず声がうわずる俺。

 自分のことを名前呼びされるとどうしてもね……。

 

 やがて、大通りを少し外れて小道に入った先に小さな煉瓦造りの建屋が見えてきて、大きく『マリーナの魔法薬草店』と書かれた看板が掲げられているのが確認できた。

 マリーナさんは閉店中のプレートがかかっている表戸はそのままにして通りすぎると、裏にある出入り口の扉の鍵を開けて中に入る。

 

「どうぞ。お入りください」

「お邪魔します」

 

 マリーナさんのあとに続いて部屋に入ると、すぐに草花の香りに身をつつまれた。

 木の器が棚には丁寧に並べられていて、籠の中は乾燥した薬草類でいっぱいだった。


 店内の奥にある来客用のテーブルと椅子だろうか、俺はそこまで案内されると椅子に腰をかけた。

 一方でマリーナさんは、火鉢の上に鉄瓶を乗せると、つまみをとってごく自然に手から出した水で器を満たしている。

 少しして、逆の手から出てきた火がチロチロと燃えて鉄瓶を温めだした。

  

 おおう。もしかしてもしかしなくても、これって魔法かな?

 よし。聞いてみよう。


「マリーナさん、その手から出てきた水と火って魔法なんですか?」


 俺の質問に、マリーナさんは怪訝な面持ちでこちらを見つめてくる。

 そうだよね。この世界の常識なんだろうしな。

 

「俺のいた国って魔法がなくって!」


 事実だよね。魔法ないしな、日本。


「真斗さんは、もしかしてカムシンのご出身ですか?」


 カムシンさまさまだな。とりあえず、話を合わせておくかな。


「はい。冒険者になりたくって! カムシンから出てきたばかりなんですよ」


 そんな俺の答えに、マリーナさんも納得してくれたみたいで。

 いつのまにか鉄瓶は温っていて、湯気がゆらゆらとゆらめいている。

 取っ手を手に取って注がれる淀みなく木の器を満たし、乾燥した薄茶色の葉を少しだけ器に入れると、軽く振ったあとで俺の前にコトリと置かれる。


「ありがとうございます。いただきます」

 

 俺はお礼を言ってから、軽く器に口をつけて少しだけ飲み口内で味を楽しんでみる。

 それは、なかなか好みの味だった。

 ハープティーのようなといえばわかりやすいだろうか。

 そうそう、魔法について聞いてみたいんだった。


「魔法ってどう使うんですか?」


 そこが本当に疑問なんだよね。

 

「うーん。そうですねー。魔法に適性があれば、ごく自然に使えるんですよ!」


 別の木の器を手に取ると、マリーナさんは水をチョロチョロと入れてみせる。

 

「マリーナは生活魔法と水魔法に適性があるので、こんなふうに」


 今度は左手から、種火がチロチロと燃え出した。

 

 すごいな。俺にもできるんだろうか。

 右手に力を込めてみる。

 火、出ろっ。

 心の中で念じてみる。

 

 ボボボボボッ!

 

 ガスバーナーみたいな青白い火が勢いよく放出される。

 

「「はうわわわわわわ!!!」」


 俺とマリーナさんの声が思わず、ハモった。

 

「と、と、と、止まれっ!」


 大きく声をあげる。

 よかった、止まった。

 

「マリーナさん、すいません」

「いえいえ。でも真斗さん……。魔法が始めてなのに、それだけできるなんて」

 

 そうなのかな。

 見てみよっか。鑑定!

 

  北条真斗

  説明

  人族の青年。22歳。薬草採取が得意なんだぜ!

  ちなみに今はマリーナさんの可憐さにちょっとやられ中?

  特殊

   願力

    発現

    パッシブスキル

    翻訳、未来視、探し物探知

    

    アクティブスキル

    鑑定、大聴力、疾風、怪力、生活魔法、火魔法

 

 はい! ありました!

 生活魔法はまぁわかるとして、火魔法もついてきているね。

 ちなみに説明は無視無視。


「マリーナさん、ありがとうございます」

「んー。真斗さんの才能だと思いますよっ」


 正確には願う力なんだけどね。

  

「そういえば、真斗さんはこのあとどちらに?」

「これから宿屋を探そうかなと」

「それなら良い場所がありますよ。

 よろしければ、宿屋さんご紹介しましょうか?」


 正直ありがたい。もう日も暮れかかっているしね。


「助かります」

「すぐそこにあるんですよ。『緑葉亭』って名前です。ごいっしょしますね」


 俺はマリーナさんの好意に甘えることにする。

 宿屋は本当に近場だった。

 マリーナさんの魔法薬草店から歩いて30メートルくらいだろうか。

 店内に顔を出すと、威勢のよいおばちゃんがさっそく声をかけてきた。


「あら。いらっしゃい、マリー」


 マリーナさんは軽くお辞儀すると、俺を紹介してくれた。

 おばちゃんは宿のおかみさんみたいだ。


「こちらは北条真斗さん。カムシンから来られたばかりで泊まる宿を探しているんですけど、空いている部屋ってありますか?」

「マリーの紹介なら、大歓迎だよ。

 ただ、うちも商売だからね。1泊5大銅貨、食事は朝と晩は作ってるよ。1食あたり5銅貨になるからね。

 これから晩飯を作って、明日の朝飯も含めると、合計で6大銅貨になるけど、それでもいいかい?」

「はい。お願いします」


 俺は間髪入れずに答える。

 うん、マリーネさんの紹介でってのもあるんだけど。

 おかみさんも人が良さそうだし。

 なにより信頼できるって重要なことだよね。

 俺がシュレイン街での拠点をこの宿屋に決めた瞬間だった。 

 

「それで、さっそく食べていくのかい?」

「はい、お願いします」

「あいよ。マリーもいっしょに食べていくのかい?」

「はい。マリーナも今日はここで食べていきますっ」


「あんたー、夕飯2人前追加だよー!」

「あいよー」


 おかみさんは威勢よくそう言って、厨房のおっちゃんに声をかける。

 厨房からは良い匂いが漂ってきて。

 そうして、俺の前に大きな木の皿の中で、まだちょっと煮立ったシチューが置かれた。

 マリーナさんは、ちょっと小ぶりのお皿だ。

 

 マリーナさんも、少しだけあげた手の平を上にして、そのまますっと自分に胸に手を当てる。


「アーシア様に感謝を。いただきます」


 略式のお祈りかな? 


「いただきます」


 俺もスプーンを手に取ると、さっそく食事開始だ。

 鶏肉かな? それに木ノ実と野菜が溶け合って、トロトロだ。

 うん、美味しい。

 食事は進んで、あっという間に大きな皿は空になってしまう。


「ごちそうさまでした」 


 マリーナさんも俺に少し遅れて食事が終わったみたいだ。


「マリーナさん、良い宿を紹介してくれて本当にありがとうございました」

「いえ、気にしないでください。マリーナこそ、今日は本当に助かっちゃいましたし!」


 ぺこりとお辞儀するマリーナさん。

 それからおもむろに席から立ち上がる。


「よろしかったら、ぜひうちにもいらしてくださいね。

 魔法薬草ならなんでも作っちゃいますっ!」


 そう言うと、マリーナさんはニッコリ微笑んで、お店から出ていった。

 さて、俺もどうしようかなと、バタバタする店内を見渡す。

 店内はちょうど夕飯時で、飲食店を兼ねているんだろう。

 新たなお客さんが入って来たり、出て行ったりと、慌ただしい。

 おかみさんは、そんな中でも俺に気づいてくれた。


「ソニアー。真斗さんを部屋まで案内してあげてー」

 

 店内でバタバタしていた赤毛の女の子だ。


「お兄ちゃん、泊まるところに案内するねー。こっちこっちー」


 ソニアちゃんは、2階に案内してくれて廊下の右手奥のドアを開ける。


「ここに泊まってね。お兄ちゃん。朝飯は起きたら、下の食堂でね。遅くなっちゃう場合は、お弁当にしておくからね」

「わからないことがあったら言ってね、おにーちゃん!」


 ソニアちゃんはそう言うと、俺に部屋の鍵を手渡してバタバタと出ていった。

 まだ小さいだろうに。ずいぶんしっかりしている。

 

 1人になると、昨日からのバタバタが思い出される。

 薬草が納品しないままにポシェットに入れたまんまなのが気になるけれど。

 正直、納品に行くにはもう過ぎた眠気が襲ってきている。

 薬草しなびちゃうかな……。


 そんなことを思いながらも。

 一方で自然と思い浮んでくるのは、マリーナさんとマリーナさんの友だちの冒険者さんのことで。

 助かるといいんだけど……。きっと大丈夫だよね……。

 意識は少しずつ薄れていって。

 


 階下では、飲みすぎて寝てしまったのだろうか、すんごいいびきが響いてくる。


「グガーーーーーーー。ッフゴッ。グガアアアア」

「まったく、シゲさん! あんた飲みすぎだよ! ちょっとシゲさんったら聞こえてるのかい!?」


 そんなおかみさんの声とシゲさんのいびきがかすかに響いてきて。

 聞くともなしに聞こえてくるそんな声も含めて、きっとそれは『緑葉亭』だからこそ奏でることのできる、デュオの旋律で。

 俺はそんな日常の喧騒につつまれながらも、体はほどよく疲れていて、すっと眠りについていった……。




「もうこりゃあダメだねぇ。ソニアーーー。ちょっとフローラちゃん呼んどきてくれよー」

「えーーー。シゲさんまたなのー。もう仕方ないなー」

 

 いや、ソニアちゃんも加わってトリオの旋律で。


「フンゴオオオオ。ウゴフゴ」


 シゲさん、うるさくって寝れねーんだよ!

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