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ふわもこ縛り

「真斗殿、準備はよろしいですかな?」

「ポカンドさん、その……ふわもこ縛りとは?」

「ふむ。そうですな。黒狼族が異種族の異性の友人を持ったときに初めて行う儀式ですな」


 友人を持ったときの儀式?


「ククルハもクーモモもこの国に来てから友人を持つのはこれが初めてじゃったの……」

「あなた、ククルハとクーモモ、それに真斗さんにも一回どんなのかお手本で見せてあげませんか?」

「ふむ。それも道理だな。真斗殿よう見ておいてくれ」


「モスモル、おいで?」

「はい、あなたっ♪」


 モスモルさんの頭を右にしてポカンドさんがお姫様抱っこをしはじめた。 

 モスモルさんがリズミを刻みながら歌い出すと、黒い尻尾が少しずつポカンドさんの首に巻きついていく。


「ふわふわもこもこふわもこ縛りっ♪」


 歌い終わると同時に尻尾マフラーみたいになった。

 歌は続いていく。


「もこふわふわもこもこもこ縛りっ♪」


 モスモルさんの歌い声に合わせて、ポカンドさんは今度はモスモルさんの頭を左に持ち替えてお姫様抱っこをする。

 なおも歌は続いていく。


「ふわふわもこもこふわもこ縛りっ♪」


 再びモスモルさんがリズムを刻みながら歌い出すと、尻尾が少しずつポカンドさんに巻きついていった。


「ふわもこ縛りっ♪ ふわもこ縛りっ♪」


 ポカンドさんの首に巻きついた立派な尻尾マフラーの完成だ。


「真斗殿、ここまでは良いかな?」

「…………」

「……はい……」


 なんだろうか、これは。

 これを俺がやるのか?


「あなた、久しぶりのふわもこ縛りね?」

「そうだな、お前さんや」

「続き、いくぞ」

「はいっ♪」


 ポカンドさんは首に巻きついた尻尾を口で甘噛みしていった。

 モスモルさんの甘い声が響いた。

 

「ふわもこ……しばりっ♪ ふわ……もこ……しば……りっ♪」


 これで終了だ。


「真斗殿、これがな黒狼の娘が異種族の異性の男子とお友だちとなるとき、または、婚約のときなど重要なときに行う儀式じゃな」

「えぇ、その……これをやるんですか……?」

「真斗さんっ、私ふわもこ縛りをしたいっ!」


 横を見るとククルハさんが目をキラキラとさせている。さっきまで死にかけていたのが嘘みたいだ。

 少し前の様子を思い浮かべるて、今こんなにも楽しみにしているククルハさんの楽しそうな姿を目の前で見て……そんなの俺に断れるわけがなかった。いいじゃないか。やってやろうじゃないか、ふわもこ縛りを!


 俺はククルハさんの頭を右にしてお姫様抱っこをすると、少しうっとりとしたような彼女と俺の目があった。

 クリアブラッドの効果だろう、ククルハさんからは彼女本来の持つほのかに甘い香りが漂ってくる。

 ククルハさんは小さく頷くと、最初は恥ずかしそうに、そしてじょじょにリズムを刻むように歌い上げる。


「ふわふわもこもこふわもこ縛りっ♪」


 尻尾がじょじょに俺の首に巻きついて来た。温かい尻尾はフサフサだ。

 俺とククルハさんの目がまたあった。生き生きとしている。

 ククルハさんは楽しそうに歌を続ける。


「もこふわふわもこもこもこ縛りっ♪」


 ククルハさんの歌い声に合わせて、俺はククルハさんの頭を左に持ち替えてお姫様抱っこを継続する。

 歌い声はどんどん明るくなっていって、少し前まで見えていた死の影も不幸に食い破られそうな雰囲気は少しも伝わってこない。

 耳もピンと元気に立っていて、尻尾も生き生きと動き出す。

 そんなククルハさんを見ていると、俺も彼女たのためにふわもこ縛りを盛り上げていって元気よく歌ってもらいたい気持ちになってくるから不思議だ。ふとククルハさんに目を向けると、俺に身をゆだねて幸せそうな彼女の視線と目があって、ククルハさんは真っ赤になりながらも楽しげに歌い出していく。


「ふわふわもこもこふわもこ縛りっ♪」

「ふわもこ縛りっ♪ ふわもこ縛りっ♪」


 ククルハさんの尻尾がまるで別の生き物みたいに元気いっぱいに俺の首に巻きついて来た。

 ククルハさんの黒い尻尾マフラーの完成だ。


 俺とククルハさんの目が再び合うと、少し恥ずかしそうに完全に目を伏せてしまった。

 そうだ、ここから尻尾を甘噛みするんだった。


 フサフサの尻尾を甘噛みすると、尻尾の芯は意外に小さくてククルハさんの体がビクッと震えた。


「ふわ……もこ縛りっ♪ ……あっ……ふわあぁ……もこっ……縛りっ♪」


 ククルハさんの尻尾のフサフサ部分が甘噛みのせいで少しだけへたってしまう。

 少し息が荒いククルハさんを床に降ろすと、すごく満足そうに尻尾をフリフリしている。

 ただまだ目の焦点があっていない。少し息も荒いようだ。


 ふぅ。ミッションクリアか。

 そんなふうに安心した俺に、ただポカンドさんの言葉は止まらない。


「真斗殿、次はクーモモにも頼みますぞ」

「はい? クーモモちゃんは子どもですよね?」

「うむ。子どもだからこそですな。真斗殿、クーモモを見てあげてください」

「そうよっ。真斗さん、クーモモ楽しみにしていますよ?」


 先ほどまで別世界にいっていたようにも見えたモスモルさんまでポカンドさんの援護射撃だ。

 俺はふとクーモモちゃんをのぞいて見ると、それはもうワクワクしたような遊んでもらえるのを楽しみにしているキラキラした目で俺を見つめていた。

 

「クーモモちゃんも、ふわもこ縛りで遊びたいの……?」

「クーモモもやいたい! ふあもこしばりをやいたいの!」


 小さいケモミミがピクピクと楽しげに揺れていて、小さい尻尾も左右にフリフリと振られている。

 これはもうクーモモちゃんの期待に応えざるをえないだろうな。


「おいで、クーモモちゃん?」

「あーい」


 俺はクーモモちゃんの頭を右にしてお姫抱っこで抱えあげると、さっそく小さなけれどしっかりした幼い声で歌い出した。


「ふあふあもこもこふあもこしばりっ♪」


 クーモモちゃんはまだ尻尾を自由に動かせないのだろう。

 けれど彼女の小さな小さな尻尾が精一杯にピクピクとしながら俺の首に巻きついてくる。


「クーモモちゃん、まだ大丈夫?」

「ふあもこしばりたのしーの!」


 大丈夫そうだな。

 俺はクーモモちゃんの頭を今度はソッと優しく左に持ち替えると、クーモモちゃんの拙い歌い声が楽しげに続いた。


「もこふあふあもこもこもこしばりっ♪」


 元気いっぱいな歌い声だ。

 楽しさいっぱいなクーモモちゃんの歌い声は聴いている方も楽しい気持ちにさせてくれる。

 俺の手にお姫様抱っこされながら、全身を使ってのクーモモちゃんの歌い声が続いていく。


「ふあふあもこもこふあもこしばりっ♪」

「ふあもこしばりっ♪ ふあもこしばりっ♪」


 歌い終わると彼女の小さい尻尾が俺の首に巻きつけようと頑張っていて、でもそれでも巻きつけなくて元に戻ってしまいそうだった。

 ケモミミがヘナってしまって、小さい尻尾をフルフルと震わせるクーモモちゃんは俺の両腕に抱えられながらちょっと泣きそうになっている。

 あともうちょっとでふわもこ縛りも完成だ。

 うん、クーモモちゃんはまだ幼いんだ。俺が手助けしたって悪くはないだろう。


 俺は左手だけでクーモモちゃんを抱えあげると、右手を後ろに回して尻尾を支えてあげるとうまく俺の首に巻きつけることができた。

 クーモモちゃんがニコニコとしていて本当にうれしそうだ。

 いや、ほんと謎の儀式だったけど、こんなに喜んでくれたのならそれはそれでいいのかもしれない。

 

 クーモモちゃんはジッと俺を楽しげに見つめてくる。

 そうだ、儀式はこれで終わりじゃなかった。尻尾の甘噛みが残っている。

 いや……しかしそれはさすがにまずいだろう。

 ふとクーモモちゃんの尻尾の先っぽを見ると、黒い尻尾の先っぽだけが金色だった。

 ならば先っぽの金色のところだけ軽く甘噛みして終わらせよう、その判断で間違いはないはずだろう。


 俺がクーモモちゃんの尻尾の先っぽを甘噛みすると、クーモモちゃんが歌を続けた。


「んっ……ふあもこしばり♪ んん……ふあもこ……しばりっ♪」


 ふわもこ縛りが終わって、クーモモちゃんを床に降ろしてあげると、体力を使いはたしたのかクタクタになっちゃったみたいでケモミミと尻尾もヘナっとしてしまっている。そのままゴロンと力なく床に寝っ転がってしまったんだけど、満足してくれたのならいいんだけど……。

 なにはともあれ、これで本当にミッションクリアだろうか。


 ふとポカンドさんが俺に尋ねてきた。


「真斗殿、尻尾の先はのぉ。黒狼族の急所の1つ。幼い娘にはちょっと早いのでは?」


 尻尾の先が急所とか知らんし。でもこれは俺が悪いよな……。


「すいませんでしたああああ」

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