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鍛治のお仕事その2

 それから俺は付与する属性について、メイアさんにいろいろと聞いてみたんだけど。

 基本的には、人のイメージすることができる火、水、風、土は代表的な属性で、それ以外にも、雷、光、闇、身体などなどいろいろあって、中には過去に禁忌とされている属性もあるんだそうだ。


 武器や防具に付与することができるほか、俺自身が火魔法を覚えることができたように、魔法として使用することもできる。ただ、魔法については適性があって、人によって得手不得手がある。2属性を使用することができればたいしたものらしいんだけど、なかには属性魔法にまったく適性がない人もいる。ただ、そんな人は算術が得意だったり、もしくは植物を育成するのが得意だったりと、不思議な特性を持っていることが多いようだ。

 

 まぁ、少し話が逸れてしまったけれど、武器、防具に付与する属性についてメイアさんにいろいろ聞いた結果、俺は付与する効果を決めることができた。うん。これしかないだろうな。


「メイアさん、付与する属性決めました」

「お、早いね。どうするんだい?」

「まず長剣に付与する属性は、火属性と硬質化、短剣は硬質化と硬質化でお願いします」

「あいよ。説明をし忘れていたけどね、1度属性を付与すると後から変えることはできないからね。それでも、決意は変わらないかい?」

「はい。問題ありません」

「うん、わかったよ」


 俺はこれからも火炎剣を使っていきたい。なので、長剣には火属性のさらなる強化、それと素材自体の破損を防ぐための硬質化だ。

 逆に短剣は、調理用として使いたいのと、ワイバーンの剣でも貫けない野獣が万が一にも出た場合のことも考えて2重の硬質化で硬度を補強する考えだ。

 メイアさんは、俺から聞いた話を忘れないうちにだろう、小さな机に置いてあるメモに書き込んでいく。

 

「次に鎧一式に付与する属性は、風属性と硬質化を。盾に付与する属性は、水属性と硬質化でお願いします」

「なるほどね。水属性の攻撃に弱いワイバーンの素材の弱点は盾で対処するってことだね。ちなみに、鎧に風属性を付与するってのは問題ないんだけどね、さっきも言ったけど風がうっすらと流れているだけだから、弓矢での攻撃にはやっぱり気をつけないといけないよ」

「そのことを理解した上でだよ。本当に風属性の付与でいいんだね?」

「はい。まぁ、正直悩んだんですけど涼しそうだなと思いまして」

「ふふ。面白い発想だね。だけど、それはその通りだ、暑いとそれだけで体力を奪われるからね」

「えぇ、あっついとほんと倒れそうになりますからね」

「まぁ、それはそうだねぇ」


 メイアさんも暑いのは嫌いなのだろう、苦笑いだ。しかしそんなふうに話しながらも俺から聞いたことをきちんとメモしていく。プロさんですね。

 

「では、これからさっそく仕事に取り掛かるんだけどね、さっきも説明したけど3週間ほど時間をもらうよ。それと、2週間経ったらね、細かい部分を調整をしていくから、一度店に顔を出しとくれね!」

「はい、わかりました」

「うん、じゃあ今日のところは、さっそくサイズ取りをさせてもらうよ」

「サイズ取りですか?」


 巻尺みたいなものでも使うのだろうか?


「そうだよ、ちょっと手間だとは思うんだけどね、このグルミン粘土を身体中に塗りたくっていくからね」


 ぐるみん。食べるだけではないのか……。

 もう本当に色々大活躍だな、ぐるみん。

 しかし、ネチョネチョしているから正直ちょっと引く。

 なので、ついつい、再確認をしてしまった。


「えと。これをですか……?」

「そうだよ。オーダーメイドだしね、きっちりサイズを合わせたいのさ。ぐるみん粘土はね、体の型を取るのに使えるのさ」

「なるほど」

「分かったら、早く裸になっとくれ」


 さすが29歳だな、いやプロだからか。

 裸になれと言っておいて、恥ずかしさは微塵も感じさせこともない。メイアさんを中心にして職人の凄みがほとばしっている気がする……。

 この人を見ていると、そのあまりにも仕事に対する真摯な姿勢に本当、憧れてしまいそうになるよ。  

 ただ、一応念のため……ほらよく服飾店でも、着替えたりするスペースがあったりするからね、最終確認だけはしておくべきだ。


「はい。あの、ここで全部脱ぐんですか?」

「それはそうだよ。脱がないとわからないじゃないか」

「全部ですよ?」

「もちろんだよ」


 うん、もうグダグダ言うのはよそう。

 俺も男だし、いちいち恥ずかしがってもいられないだろう。  


「はい。じゃあ脱ぎますね」


 俺は上のチュニックとしたのズボン、そしてパンツを脱いで全裸になった。

 そうして、ぐるみん粘土を塗りやすいように両手を上にあげて、下半身も塗りやすいように、少しまたを開いてメイアさんの前で直立した。


「準備できました!」  

 

 俺がそう告げると、固まって俺を見ていたメイアさんをひどく慌てさせてしまったようで。


「ちょっとあんた! なんで下まで全部脱いでるんだい!?」


 メイアさんは手で目を隠しながら顔を赤らめている。

 指の隙間から覗く目が俺の急所をとらえて離さない。

 実は興味津々なのだろうか。

 メイアさんは慌てたように、木棚からゴムでできたようなパンツを取り出して俺にほおって投げた。


「あ、あ、あ、あたいがいけなかったね。真斗は初めてだったもんね。下はね、このぐるみんパンツを履くんだよ……?」

  

 なるほど。よく見ると、俺の脇には草カゴの入れ物にぐるみんパンツが何着が置いてある。そのすぐ横には急所を隠せるぐらいの木棚も置いてあった。

 きっとオーダーメイドでサイズをとる場合の当たり前すぎる常識的な手順なのだろう。

 だから、何も言われなかったんだね。

    

 ただ、いつまでもクヨクヨしていたってなにも始まらないだろう、ぐるみんパンツを履いてみせると、メイアさんは最初は恥ずかしそうにそそくさと、じょじょにしっかりと俺の体にぐるみん粘土を満遍なく塗りつけていった。

 小さく声が聴こえてくる。

「あたい……なんで仕事なのにこんなに照れちまってるんだろ……しっかりおし、あたい!」


 少しして、全身くまなくネチョネチョに覆われると、ようやくメイアさんから一言。


「うん、上出来だね」


 心なしか顔が赤くないか?

 

 まぁ、どうやら全身くまなく塗り終わったようで、俺の体に塗り漏れがないかを確認するためだろう、

 俺を中心に円を描くように移動しながら、俺の体に張りついたぐるみん粘土を確認する。

 そうして、塗り漏れがないのを見てとると、これは生活魔法だろうか。


「乾燥! 乾いて! はい完走!」


 異世界の呪文をメイアさんが唱えると、日本で言うところのドライヤーとでもいえばいいだろうか。

 暖かい風が吹いてくると、俺の全身に付着したぐるみん粘土を少しずつ乾かしていく。


 そして、ここからが本番だった。


「よし、はがすからね。我慢しとくれよ」


 我慢とはなんぞ?

 ベリリリ

 痛いわ!そんなに体に毛が生えているわけでもないけれどさ、それだって俺は無毛じゃないんだぜ。

 粘土といっしょに毛を引っ張り取られる。  

 ちょっと痛すぎて声が出る。


「っつ」


 メイアさんは慣れたもので、剥がしたぐるみん粘土を見て満足したふうだ。


「よし、いいのが取れたよ。これなら大丈夫さ!」


 もう何度目かの俺のセリフだけど繰り返させてほしい。

 さすがプロですね……。


 これでとりあえずは大丈夫だろうか?

 そうそう、俺はメイアさんに代わりとなる剣を1本頼みたかったんだよね。

 いくらなんでも、3週間も武器なしというわけにはいかないしね。


「メイアさん、実はその新しい剣が完成するまでの間に使える剣を探しているのですが」

「うん、真斗はあたいの特別だからね。よし、サービスするよ。そこの剣から1本、好きなの持ってくといいよ!」

「え、お借りするのではなくてですか?」

「あぁ、もちろんだよ!」


 これは素直にうれしかった。

 もちろん、前回と違ってお金にはまだまだ余裕があるけれど。

 ただ、そうではなくって、メイアさんの気持ちが俺にはうれしかったんだよね。


 俺は数十本は置かれている剣の中から1本の剣を引き抜いた。

 これは、その鑑定結果だ。


  鉄の剣

  説明

  メイアさんがお店を開いて最初に鍛治した処女作の剣。

  ただし、剣としてはごく普通の鉄の剣のはず。

  付与スキル

  伝心


 なんだ、はずって。それでいいのか鑑定。

 それとスキル伝心が付与されていたりする。

  

  伝心

  説明

  メイアちゃんの想いが伝わってくる。真心を込めて造った処女作だからだろう。


 鑑定の説明ではよくわからないけれど、おそらくは初めて作った剣だから、メイアさんの気持ちがこもっている。

 そうゆうことじゃないのかな。

 まぁ、29歳だから、一見ロリロリには見えるけれど処女じゃないんだろうな。うん、いいじゃないか処女作でも。

  

「では、これで!」


 俺が手に取って剣を見せると、メイアさんはちょっとうれしそうだった。

 まぁ、なにしろ初めて作った剣なのだから、思い入れもひとしおだろう。


「いいよ。まぁ、普通の剣なんだけどね、あんたに使ってもらえるなら剣も本望だろうさ」

「ありがとうございます」


「あ、そうだ! 首飾り出来上がってるからね、ちょいと待っとくれね」


 メイアさんは奥の鍛冶場まで取りに行くと、いそいそと首飾りを両手に抱えて戻ってくる。

 首飾りは熊太郎の首にかけても少し余裕が取れるような長さに紐を調整してくれている。

 それに牙も尖っている部分を、体を傷つけないよう丸みをもたせるように削られている。

 正直驚いた。

 ピカピカな光沢まで放っている牙は、きっと丁寧にメイアさんに磨き上げられたのだろう。

 それを1日でって、徹夜に近い作業をしてくれていたんじゃないだろうか。


「あぁ、大した作業じゃなかったからね。これもサービスしとくよ」 


 メイアさんは俺に首飾りを手渡しながら、そんなことを言う。

 さすがにメイアさんの嘘に、そこまで甘えるわけにもいかないだろう。明らかに大した作業だったはずだからだ。


「いえ、さすがにそういうわけにもいきませんよ、なにかお礼をさせてください!」

「うーん、そうかい? それなら、そうだね、今度なんでもいいからお酒をもってきとくれよ」

「お酒ならなんでもですか? ……ちなみにどんなお酒が好みなんでしょうか?」


 日本では、日本酒、焼酎、ウィスキー、ワイン、ビール等々いろいろあったしね。  


「お酒はなんでもうまいからね、好き嫌いはないよ。でも、そうだねぇ、珍しそうなお酒があったら飲んでみたい気もするけど、探すのも手間だろ、だからなんでもいいよ!」

「では、とりあえずお酒と、あとは珍しいお酒があったらそれは俺からのプレゼントしますから、その際はぜひ受け取ってももらえるとうれしいです」

「ふふ、そうかい。真斗っ、楽しみにしてるよ!」


 そう言ってニコニコと笑っているメイアさんは、なるほど、ドワーフなんだなと思ってしまうほどには、お酒好きで陽気な人に見える。

 これはぜひ、美味しいお酒見つけてプレゼントしてあげたいものだよね。

  

「はい。それではこれで」

「真斗っ、またおいでね!」

「はい!」


 俺は軽くメイアさんに会釈をして、万屋万兵衛を出ると、とりあえず街に向かって歩いていくことにした。

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