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ワイバーンの納品

 自分でも慣れてきたもので、意識しなくても冒険者ギルドへの道を間違えることはなくなった。

 今日は、ワイバーンの解体が終了する検品完了の日だ。正直情けない話だけど、お金に余裕もなくなってきているので非常に助かる話だ。 


 冒険者ギルドに到着すると、納品窓口にはハンスさんの姿が見当たらかった。ギルド倉庫でまだ解体作業中だろうか?

 俺は受付嬢さんに元に向かうと、さっそく要件を切り出すことにした。


「おはようございます。すみません、ワイバーン解体の件なのですが、ハンスさんはいらっしゃいますか?」

「はい、お話は伺っておりますよ。こちらからどうぞお入りください」


 事前に話が通っていたみたいだ。

 それにしても、受付嬢さんは朝の気だるげな雰囲気が微塵もつたわってこない。

 表裏のない健康的な笑顔からは、真っ正直なその人柄が感じられる。

 ギルドの裏口の扉の鍵を開けてもらった俺は受付嬢さんといっしょにギルド倉庫の扉をくぐった。


「ハンスさーん、お待ちかねの真斗さんですよ! ワイバーンの素材のお受け取りにいらっしゃいましたよー」


 ハンスさんは解体道具をそれぞれの木箱に収めて、後片付けをしている最中だった。


「お、真斗か。朝早いな。ちょうどいま終わったところだぞ」

「それでは、私はこれで……」


 受付嬢さんはこちらをチラチラと見ながら、名残惜しそうに戻っていった。

 何か気になることでもあるのかな?


「おはようございます。連日の解体作業、ありがとうございました」

「ん? お礼をする必要なんかないぞ? ワイバーンなんて解体できる機会なんて正直めったにないからな、俺も楽しんでやらせてもらってるのさ!」

「そうおっしゃっていただけると、気が休まりますよ」

「謙虚な奴だなぁ、真斗は!」 

「はは」


 しかし、ハンスさんには本当に朝から晩まで解体作業でお世話になってしまったな。

 どうにかお返しをしたいんだけれど。

 まぁ、当然俺のそんな心中を察するのも無理な話で、ハンスさんはあくまでも淡々と説明を開始した。


「では、ギルド規則に則ってまずは金額から説明するぞ。ワイバーンを丸々ギルドで引き取る場合は、1白金貨と5大金貨になる」


 俺はひどく驚いた。

 だってそうだろう。それって日本円だと1500万円にもなる。

 どんだけ稼ぐの大変だよって話だ。


「すごいな……そんなになりますか……」


 問いかける俺の声色は多少震えてしまう。


「あぁ、普通は細かい傷とか、魔法による燃焼だとか裂傷などで、素材に傷がついてることが多いからな。その点、真斗の倒したワイバーンには首の切断箇所以外に、特に大きな傷跡が見当たらない。それにワイバーン自体が結構なレアものだからな、正直よそで売ればもっと高い値だってつくぞ」

「そうなんですか」

「あぁ、それでな、うちで引き取る場合の各部位ごとの値の細かい内訳については、これを参考にしてくれ」


 そうして手渡されたのは、部位ごとの鱗の枚数だとか、牙だとか、肉だとか、事細かに記載されている一覧表でそれぞれに値段も記載されていた。


「なるほど、細かいですね」

「まぁ、ギルドとの取引は公正さがなにより大切だからな。それくらいの明細なんて当たり前だぞ」

「それで、まぁ納品って話だが、あとは素材をどうするかって話だな。真斗が全部引き取るってんならそれはそれで構わないが、ただ、解体にかかった費用が別に発生しているから、そこは承知してくれな」

「一部の素材のみ引き取って、あとはギルドに降ろす場合はどうなりますか?」

「さっき渡したその明細票通りで構わないぞ、解体費用にかかった費用はリストに下に記載されているな」


 正直、ギルド外で売れば高くなるとはいっても、それには伝手も必要だろうし、時間だって使うだろう。

 信頼できるお店なのかどうかをこの異世界で調べるのはちょっとした手間のはずだ。

 さらには、実際に売る場合にも、アイテムポシェットを所持していることをあまり知られたくはない事情もある。 

 

 よって、俺の中ではギルドにおろしてしまうことは既に既定事項になっている。

 ただし、当然それは必要な素材を除いての話だ。

 俺は、スキルに助けられてどうにかこうにかここ最近の濃密な時間を生き残ってくることができたと思っている。

 この異世界での怖さは肌身で感じている。

 まして、マグナスさんや、帝国の7聖将などという化け物から始まって、一歩街から出て街道を外れて歩いていくだけで、野獣がわんさかいるっぽいし。

 この異世界で、俺は所持する現金の量より、命を守るための武器と防具をなにより優先したい。

  

「ワイバーンの肉はすべて引き取りたいです。それと、ワイバーンの素材から剣と鎧と盾を一式作るぶんだけは確保したいんですが……」

「なるほど、そうするとだな……」


 ハンスさんは手慣れた手つきで必要な素材をより分けてくれる。頼りになる人だな。


「こんなもんでどうだ? 一応短剣も1本用意しといたほうがいい、この小さな牙あたり作っておくとあとあとなにかと便利だぞ?」

「はい、ではそれでお願いします」

「了解だ」


 俺の了解するとハンスさんは、俺の手元にワイバーンの大きな牙と小さな牙を1本ずつ。これは長剣と短剣用だ。

 それに、鱗とワイバーンの皮を防具に必要となる分だけ選り分けてくれた。


「剣と鎧一式、それに盾ならこんなもんだな。一応予備として少し多めに素材をより分けておいたからな。それと肉はそこの塊を丸ごと持っていくってことになるが、まぁ、真斗はアイテムボックスがあるから、大丈夫だな」

「もう持っていくのかい?」

「はい。今日はこの後、鍛治のお店にそのまま素材を持っていきますので、このまま収納していきます」

「では、あとは精算だな、全部で1白金貨になるが念のため最終確認だ。問題ないか?」

「はい、それでお願いします」

「了解だ」


 俺は、ワイバーンの素材と、ワイバーンの肉をアイテムポシェットに格納する。

  

「白金貨はどうする? そのままじゃ不便だろう。崩しておくかい?」

  

「そうですね。差し支えなければ、5大金貨と、30金貨、200銀貨に分けてもらえるとありがたいのですが」

  

「おう、構わないぞ」

  

 ハンスさんは、小さな金属板に何やら魔法を使っているのか、両手を添えたまま微動だにしない。

 少しして、俺にその金属板を手渡すといった。

  

「では、決済の手続きをするからなら、すまないが表の納品窓口までこの交換札を持って行ってくれ」


 何だろう、手渡された交換札には、5大金貨、30金貨、200銀貨と刻み込まれて、光を放っている。

 こすってみるが、何も変わらない。

 現代日本でいうところのLEDみたいだな。


「こら。こすっても落ちないぞ。それけっこう高くつく魔法のアイテムだからな。まぁないとは思うが、毀損させた場合は今回の報酬金額より高くつくからな。気をつけろよ」

「それと外に用事がある場合には、悪いがその交換札を持ったまま外には出れないから、気をつけてくれな」

  

 さすがの魔法アイテムというべきなのか、めっちゃ高いし、いろいろと多機能だな。

 うん。丁寧に扱おう。


「はい、わかりました。あ、そうだ、ハンスさん、良かったらこのワイバーンの肉おすそ分けしますが」

「うーん。少しもらう分には全然構わないんだけどな。本来は冒険者から直接納品物をもらうってのは良くないことでな。前回はありたく頂戴させてもらってるからな、だから今回は気持ちだけもらっとくよ。ありがとな!」


 そう言ったハンスさんはどこか申し訳なさそうな顔をしている。

 よく考えれば、日本でも公僕に対する贈与って、犯罪だったしな。

 そこに気づかなかった自分がちょっと恥ずかしい。

  

「なるほど。逆に気を遣わせてしまったみたいで、ハンスさんすみません」

「なーに。それはお互い様だろ」


 そういって俺にニヤッと笑いかけてくれるのは、年上として俺に気を使ってくれているからだろう。

 本当、ハンスさんと比べてしまうと、自分はまだまだ子供なのかもしれないな。

  


 ギルド倉庫を出た俺は、いつもの納品窓口で交換札を提示した。

「すみません。これなんですが?」


 対応してくれたのは、俺と同じ歳くらいのイケメンの青年で、交換札に記載されている金額を確認すると、かなり驚いように固まってしまった。


「はい。承りました。少々お待ちくださいね」


 ただ、意識をすぐに切り替えたのだろう。

 そう言うと、奥にある部屋まで交換札を手にして入っていった。

 今のイケメンが、前にハンスさんから、真面目なやつだから信頼できるぞと紹介されたギースさんだろう。

  

 少しすると、金属箱を手に窓口に戻ってきた。


「お待たせいたしました。納品の報酬はこちらになります。ご確認の上、金額に謝りがなければ、こちらにサインをお願いします」


 そういって、携帯用の金庫から5大金貨、30金貨、200銀貨を取り出すとトレイに区分けして置いてくれた。

 最後にサインする用紙には、端的にワイバーンの納品に関する金額を受け取った旨が記載されている。

 俺はサインをして用紙を手渡すと、最後にイケメンが俺に自己紹介をしてくれた。


「あの、先日ハンスさんから伺っていたんですが、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。あのワイバーンを倒された真斗さんですよね。私はギースと申します。今後とも、どうぞよろしくお願いします」


 そういって、俺に爽やかに微笑みかけてくる。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 いや、この笑顔は……冒険者女子にも同じことしてしまっているんだろうか?

 そういえば、ギースさんの納品窓口には、妙に女冒険者が多く並んでいたような気もする。

 あれって偶然じゃなかったのかもな。

  

 まぁ、事実は不明だが、ハンスさんから高評価を得ているだけあって、ギースさんはあくまでも好青年だった。

 あんまり歳も変わらないようだし、まぁ、だからといって、むやみやたらに馴れ合うつもりもなかったんだけど。

 ギースさんとは仲良くなれそうな気がした。


 俺は金額を確認して、アイテムポシェットに順々に収納していく。

 しかし、今回の納品で俺は一気にお金持ちになったといってしまってもいいのではないだろうか。

 もちろん、億万長者ってわけではないんだけれど、お金を所持していることからくる安心感はありがたい。

  

 というわけで、少しだけ異世界での生活に少し気持ちの余裕ができたわけなんだけど。

 まぁ、ただ、これからどんどんお金を使っていくんだけどね!

   

 メイアさんの鍛冶屋。

 だいぶ寂れた看板とひっそりとした場所に建っているこの立地とあいまって、この場所に凄腕の武器防具職人がいることを知っている人は、今ではだいぶ少ないのではないだろうか。

 ひっそりした店内に入ると、特にお客もいなかったけれど、元気なロリ声が俺を出迎えてくれた。


「あっ、真斗っ!」


 ピンクのミニツインテ幼女ふう姉御のメイアさんは満遍の笑顔だった。

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