業火の旋風
ちょっとした一悶着はあったものの、賑やかな孤児院のみんなに見送られて大通りに入ると、街ももう起きているのだとよくわかる。
俺も忙しそうに行き交う人の流れに乗って、冒険者ギルドに向かっていく。
冒険者ギルドでは、クエストに向かう冒険者だろうか、ギルドの扉から出ては街の門の方に向かっていく男女でひしめいている。
逆にギルドの扉くを潜る冒険者の男女もそこかしこに見え、クエストボード前はけっこうな人だかりだ。
俺は冒険者ギルドに入ると、さっそくEランクのクエストボードからいろいろとクエストを見て回ってはみたんだけど、基本、Fランクの内容とそうは変わっていない。なので、街の掃除から始まって、木こりの仕事なんてものまであったりする。中には、生活魔法のクリアブラッドを使った清掃作業なんてものまであるのだから、さすが剣と魔法の世界ならではといったところか。
うーん、どうしようかな。
今日のおすすめみたいなクエストがあったりはしないのだろうか。
こうゆう時、現代日本だと案内窓口なんかがあったりしていろいろと教えてくれたものだけど、さすがに冒険者ギルドではそれも無理があるんだろうな。まぁ、聞いてみるだけならタダの話なので、俺は人の波を避けるように受付嬢さんのところに向かって行くことにした。
「おはようございます。あの、お聞きしたいことが……」
「あっ、真斗さーん。少しそちらでお待ちしていてくださいね!」
受付嬢さんはそう言ってドタドタと2階に駆け上がっていってしまう。
えっ。なんだ?
うーん。待たないといけないのかな。
なんてことを思っていると、そんなに間をおかずに、2階からギルドマスターがドスドスと足音をたてながら降りてきた。
うん、マグナスさんだ。
今までは片目の大傷のせいで、威圧感を感じてしまうのかなんて思っていたわけなんだけど、両眼のマグナスさんは普通に威圧感が2倍になってないか? 身体中を覆う筋肉と巨木のような腕と足腰、その精悍さがギルドマスターのギルドマスターであることの由縁だろうか。
「おう、真斗。待たせちまって悪かったな」
「いえ。それはいいんですが……」
ギルドマスター直々のお出ましって、一体なんの用だろうか。
まぁ、思い当たるふしは、まぁワイバーンから始まって戦鬼熊、近々予定されている公爵家の訪問までいろいろありすぎて、もはや自分でもわからないけれども。
「あぁ、そのな、大した用事じゃないんだわ。まぁ、真斗次第なんだけどな、よかったら地下訓練場で1戦交えないか?」
マグナスさんと1戦? この筋肉と?
うん、それは十分大した用事なんじゃないだろうか。
俺は、そう心の中でツッコミを入れざるを得ない。
うーん、マグナスさんと1戦交えると俺、死んでしまわないか。
それぐらいの迫力みたいんものが感じられるんだよね。
「1戦って、もちろん訓練ってことでいいんですよね?」
「おうよ!」
威勢良く了承していただいたんだが、本当にわかっているよね。
少し心配なんだけど。
でも、前向きに考えれば、ギルドマスターになるほどの戦士がマグナスさんだ。
俺は冒険者として、やがては1流になってみたい。
だから、逆にこれはめったにはないチャンスだとも考えられる。
「ご指導いただければ、助かります!」
「行くか!」
「はい!」
突然のギルドマスター、マグナスさんの登場と対人訓練を行うという話でギルド内はさざ波のようにざわめいている。
そして、その波はあっというまに、ギルドのフロア全体に拡がっていく。
「おい、ギルドマスターと、誰だあれ、若いにいちゃんが1戦やるみたいだぞ!」
ある禿げたおっさんの冒険者が声をあげた。
「おいおい。命知らずな坊主だな」
こわもての髭面のおっさんが即座に叫び返す。
「賭けよーぜ。俺はあれだ、あの坊主が骨折して吹っ飛ばされるのに3銀貨だ!」
「おいおい、骨折じゃすまねーだろ。俺は坊主の半殺しに1金貨賭けるぜ!」
いつの間にやら、冒険者たちの間で掛けが始まっいる。
賭けの内容は俺がどこまで怪我するかって話になっていて、五体満足で無事のままにいられるという結果はそもそも用意されていないようだ。
俺の正直ドン引きだ。どんどんと体の震えが大きくなってきてしまう。
いや……これは訓練だろ!
なになに……違うの?
そんな俺の内心を知ることもないマグナスさんはづかづかと、地下訓練場に向かって堂々と歩を進めていく。
地下訓練場には俺も初めて入ったんだけど、外壁はレンガで丁寧に積み重ねられていて随分と丁寧でしっかりとした作りだ。
それに訓練場の4つの隅には、なにか大きな蒼くうっすらと光を放つ球体が配置されていたりもする。
もしかしなくてもなにか魔法のアイテムなんじゃないだろうか。
訓練場には、精悍そうな冒険者の男女が素振りをしていたり、組み打ちでの訓練や、中には遠くの的に向かって火の魔法球をぶっ放している冒険者さんもいたりするのだからなかなかの活気だった。
俺はマグナスさんに続いて入ったのはそんな場所、だけど、訓練中の冒険者たちはマグナスさんに気づくなり、訓練を急に止めると、じっとマグナスさんを見て、さっとその通る道を開けていく。まさしく、マグナスさんを中心としてその歩みを進める場所には自然と道を開いていき、その歩く先には、闘技場のような戦うためのスペースが別に用意されていた。
そう、それは決して大きくはないが、まるで円形闘技場のようになっていて、多くはないが客席のようなものまで用意されている。
そして、そんな円形闘技場の4隅にはやはり蒼球が配置してあった。
マグナスさんは闘技場に入ると、立てかけてある武器類の前でようやっと立ち止まった。
「獲物はここから自由に使っていいぜ。まぁ、どの武器でも扱えるってのが理想だけどな。なんなら、その腰に差してる鉄の剣でもいいぜ!」
ギルドに設置されていた武器はどれも丁寧に整備されているのがわかる。
剣も槍も特にサビもなく、定期的に整備されているのだろうと思われた。
ただ、俺の中では、どの武器を使うのかはもう決まっている。
まずはメイアさん特製のこの剣を手に馴染ませておきたい。
それができて初めてほかの槍やメイスなどにも手を出せるんじゃないだろうか。
だから、俺はためらなく腰に差したメイアさん特製の鉄の剣を手に取った。
構えは、上段だ。
「では、お言葉に甘えてこの剣で!」
マグナスさんは俺の剣を見て、同じサイズの鉄の剣を取り出すと、無造作に剣を構える。
正直、俺が剣を取ったのは、異世界に来てからが初めてだ。
小さい頃におじいちゃんに軽い手習いをしたことはあったけれども、そんなことも俺が幼かったときの思い出の領分の話だ。
いわば、素人同然の俺の剣。
ただ、今の俺にはスキル剣術が確かに息づいている。
だけど、だからこそ初めてわかる、いやわかってしまう。
そう、ギルドマスターには隙がまったくなかった。
ただ、無造作に構えているだけの剣のはずなのに……。
どこをどう打ち込んだとしても、必ず打ち返されるか、吹っ飛ばされるか。
そんな未来しか浮かんでこない。
ただ、俺のスキル剣術の効果なのだろうか?
俺はこのひどい緊迫感の中でも、心は静まり冷静でいることができる。
そしてそれ故に、防御より攻撃を優先する、そんな余裕が心に生まれた。
隙が見えないのなら、自ら作っていくしかない。
もちろん自分が先に動くことで、そのことから逆に隙を生んでしまい逆撃を被る結果も考えられる。
ただ、そんな考えは、あくまでも同レベルの者と撃ちあう場合の話だろう。
俺とマグナスさんの差は、そんな小さなものではまったくなかった。
俺の目の前にいる、それは巨大な山脈のように堅固であり、その感じられる強大な気迫は、自身の体をさらに強大なものに仕立て上げているのか、まるで鋼鉄の巨人を見上げるかのようなのだから。
「どうした? 全力でかかってこい!」
マグナスさんの一言だ、言われるまでもない、いくしかないだろ!
俺はスキル怪力と疾風を発動すると、ギルドマスターの前まで一瞬で足を踏み込み上段に構えた剣を一気に振り下ろす。
マグナスさんはそれをいともたやすく受け止める。
いや、ただ受けとめるだけではなかった。
瞬間にマグナスさんの力がピークに達したのだろう、巨体から発せられた衝撃で俺は後方に大きく弾き飛ばされた。
くっ、まだだ。
俺は再度、スキル疾風により一瞬で踏み込むと、今度はそのまま円を描くようにマグナスさんの後方に回り込むとそのまま背中に向かって剣をなぎ払った。
最初に感じたものに間違いはなかった。
その山は一歩も動くことなく、そして、うしろを見ることもなかった。ただ、剣を後方に持っていくと、振り返ることもなく無造作に振るった剣で俺の剣を受け止める。金属が激しくぶつかり合う音が鳴り響いて、俺の斬撃は再び防がれた。
後ろに目でもついてるんですか!
思わず突っ込まざるを得ない。
ならば、後方からさらにこのままもう一撃……。
その時だった。
一瞬、ゾッとして感覚に襲われると、俺は無造作な一撃により両断されていた。
いや、まだだ。
ただ、剣はもうすぐそこまでその切っ先が向けられていて、今にも俺を両断しそうだ。
俺はむやみやたらに後方に飛びすさって、ギリギリでその剣先を躱わした。
「ほぉ。よく躱わしたな?」
マグナスさんはカラカラと笑う。
俺の未来視が発動している!?
「殺す気ですか!」
「ふむ。真斗は剣筋がいい。基礎がしっかりとできているな、だがもっと底があるんじゃないのか? あのワイバーンを斬りさいた斬撃を俺にも見せてみろよ!」
ブワッ
急にさらに威圧感が増していくマグナスさんは、急に凶悪に笑った。
そこにいたのはもう鬼だった。
マグナスさんは、俺の剣術をある程度は評価してくれたみたいなんだけど、これは素直に喜んでいいものなんだろうか。
マグナスさんからの圧がさらに増していく。
「これならどうだ? 本気をだせるか? 真斗おおおっ!」
その瞬間、暴風のような一撃が俺の鉄の剣に直撃すると、俺は訓練場の端まで弾き飛ばされて壁にぶつかりようやく止まる。
「ぐはっ」
これはやばい。
足を地につけてしまったら、もう2度と立つことはできないかもしれない。
俺はギリギリで足に力を入れてふんばると、どうにかこうにか立ったままの姿勢を維持する。
「俺の一撃を食らってまだ折れないとはな。真斗、お前もたいしたもんだが、その鉄の剣、そいつもなかなかの業物だな」
メイアさん特製の剣だしな!
それにしても、とんでもないな、このおっさん。
もう訓練もクソもないだろ、これ。
だけど、だからこそ負けたくないっていうか。
俺は鉄をあらためて構え直す。
もう立つのがやっとで、マグナスさんから常時発する圧力と、先ほどからのダメージが蓄積して俺の足腰はガタガタと震えている。
繰り出せても、あと一撃がやっとか。
俺はふと日本でのことを思い出す。
ピンチの時こそ、決して諦めない。
そんな生き方を俺は日本ではしてこなかったけどね。
だけど、現代日本のアニメの主人公は違っただろ!
思い出せ! 格好よく戦っていたヒーロー。今の俺に足りないのは必殺技、そう、こんな時だからこそだ、今の俺にできる最高の必殺技……そう、魔法剣の出番じゃないのか!?
剣に纏え! 炎よ纏え!
俺はスキル火魔法を発動すると燃え盛る火炎は鉄の剣を中心に一気に燃え上がっていく。
「これなら……どうだっ!」
マグナスさんに向かって震える足で走りだして、だけど、これだけじゃ……足りない!
持てよ、俺の足!
スキル 疾風! 怪力!
そして燃え上がれ、スキル 火魔法!
一瞬で、マグナスさんの前まで移動した俺は、燃え上がる剣を一気にマグナスさんの脳天めがけて振り下ろした!
だけど、それでもまだ全然届かなかった……。
いや、少しは届いたのか?
瞬間で受け止められて弾き返されると、後方にまでふっとばれた俺は訓練場をゴロゴロと転がっていく。
「フフ、フハハハハ。面白い、面白いぞ、坊主!」
マグナスさんは、なんでだろう、本当に愉快そうに大笑いを始めると、背中に背負っていた大剣を引っ張り出して大上段に大剣を構えた。
「真斗っ! その剣のな、先にあるのがこれだよ!」
大剣が燃え上がって、その炎は業火となって訓練場の天井に打ちつける。いや……なおもその勢いは治らずに、旋風とかした業火は観客席にまで飛び火していく。それはまさしく業火の旋風だった。
「やばい、ギルマスが本気だぞ、避けろぉ!!」
周りで見守っていた冒険者たちが一目散に駆け出して逃げていく。
そんなことはお構いなしに、構えた大剣を一気に振り下ろされた。
それは炎の斬撃と衝撃と熱風とでごっちゃだった。
俺のすぐ横の地面がえぐり取られると、後方の壁ごと全てを薙ぎ払っていった。
そして一言。
「やべぇ、やりすぎた、これどうすんだ」
そんなの知らんがな。
俺の感想はその一言だった。
「まぁ、どうにかなるか。で、どうだった、真斗?」
お、俺のことを少しは認めれてくれたのかな?
これだけの人に名前で呼んでもらえるのはやっぱり素直にうれしいものだ。
ただ、感想ってことなら、もうこの一言だろ。
「死ぬわっ!」
「なんだ、まだまだ元気だな!」
マグナスさんは大剣をブンッと大きく振ると背中に背負い直したんだけど、頼むから、また構え直さないでくれよ。
俺は元気じゃない!
「真斗はな、筋がいい。それにそうだな、発想がすごいな。その剣術、誰かに教えてもらったのか? よほど良い師についてたんだろうな」
いえ、日本のアニメや漫画からです。すいません。
俺は心の中で謝らざるをえない。
「カムシンの剣術と申しますか……」
「ふむ、ワイバーンの首を断ち切ったあれもか?」
少し空気がヒヤリとした。
まぁ、恒例のカムシンで押し切るしかないだろうか……。
「うん? まぁ言いたくないこともあるだろうしな……」
俺のクタクタな様子を見て、マグナスさんからの発せられていた気がじょじょにおさまっていく。
うん、あまり深く突っ込まれたくもないので、正直ありがたい。
「あのお兄ちゃん、すげーな」
「あぁ、掛けには負けちまったけどな、正直すげーよ」
「頑張ったなー。にいちゃーん」
「あたい、なんかあの子のファンになっちゃいそう」
「お名前なんて言うのかしら、、かっこいい」
うん、冒険者の皆さんに褒められるのって素直にうれしく思えるよな。
ただ、俺はちょっともう限界で、大の字で寝っ転がる。
この訓練で何か成長したのだろうか。
ちょっと見てみようか。
鑑定!
北条真斗
説明
あの筋肉相手によう頑張ったのぉ。新スキルの力のみならず、真斗の頑張りでもあるんじゃぞ!
特殊
願力
発現
パッシブスキル
翻訳、未来視、探し物探知、剣術、鉄心
アクティブスキル
鑑定、大聴力、疾風、怪力、生活魔法、火魔法、アイテムボックス化
靜足、透明化、夜目、回復魔法
クロススキル
高速演算、制御力向上、千里眼、名探偵
鑑定さんに褒められた。
それしても新スキルって……。
うん、新しいスキルがパッシブスキルに増えている。
鉄心とは一体なんぞ。
鑑定!
鉄心
説明
命の危機を感じたときに、鉄の心で冷静に対処することができる。
イカソーメンのおかげで覚えた新スキルじゃな!
確かに圧倒的なマグナスさんを前にしても俺は揺るがぬ心で対処できた。
良いスキルだよね。
だけどさ、覚え方が問題だろう、これは。
なんだよ、イカソーメンのおかげって。
確かに今朝は吐くかと思って、死ぬかと思った。
けど、急に違和感なく食えたんだよな。
しかし、命の危機って、俺どんだけ必死だったんだろうな。
まぁ、結果良ければなんとやら、なんだろうか。
全力でぶつかって見て、まぁ、まったく歯がたたなかったんだけどさ。
なんていうか楽しかった。
「真斗、また闘ろうや!」
だからだろうか、マグナスさんのそんな言葉に俺ははっきり返すことができたんだ。
「はい、お願いします!」
まぁとは言ってもだ、これはしばらくはピクリとも動けなそうだ。
身体中が軋むように痛いんだけれども。
回復魔法でこの痛みって治癒できるんだろうか。
試してみようか。
「回復! 回復! 絶対回復ー!」
俺は対象を自分にイメージして、回復魔法を唱えてみる。
何かに体をいっぱいに満たされたような感じで、一瞬でものすごく気持ちがリラックスできる。
そして、俺を満たしていた痛みのすべてはものはどこかに霧散し、そして消えていった。
身体中を襲っていた痛みの全てがなかった。
俺はぐっと足に力を入れて一気に立ち上がる。
「あれ、にいちゃん、もう大丈夫なのか?」
「やっぱすげーな、にいちゃんは!」
「あたいファンになっちゃう!」
「俺もにいちゃんみたいなやつは好きだぜ!」
おっさんはいらない。
「ってか、まさか今のは回復魔法なのか!?」
「いや、嘘だろ」
冒険者さんたちがさらにざわめいて治りがつかなくなって来ている。
「真斗、さすがだな!」
マグナスさんからしたら、俺の回復魔法のヤバさはよく知っているからか、
それとも、元々のあっけらかんとしていそうな性格だからだろうか、
俺が一瞬で回復するのを見ても動じることはない。
むしろ、マグナスさんが気になるのはまったく別のことで。
俺の剣を手に取って、眉をひそめた。
「真斗、剣見せてみろ。やっぱ火炎剣のせいだろうな、剣が芯から溶けかかっちまってるな。いい鍛冶師がいるからな、なんなら紹介するから、剣はそこで揃えるといいぞ」
「ありがとうございます」
これは素直に俺を言いたい。
マグナスさんは続ける。
それはどこかで聞いた名前だった。
「バグスル・スチュアート、ひと昔前にそんな名匠がいてな。まぁ、もう亡くなってしまったんだけどな。その技を注いでいる一人娘がいるんだよ」
「あ、もしかして……」
もしかしなくても、あのロリッ娘もといメイアさんのことじゃねーか!
「うん?」
マグナスさんは少し怪訝な面持ちだ。
ただ、俺がすでにメイアさんにお世話になっているとはかけらも思ってはいないのだろう。
「それでな、女だってんで、今は店にも閑古鳥が泣いているわけだが、嬢ちゃんの腕は確かだぜ。行ってみるといい」
「はい。その……」
その店知ってるんですが、と言おうとけども、まったく意に介さないのがマグナスさんだ。
「それとな、さっきみたいな魔法剣を使うなら、剣の素材も鉄じゃダメだ。どんな名匠が鍛えたって溶けちまうよ。そうだな、ワイバーンの牙なら、耐えられるだろうからな。金に余裕があるなら、倉庫の牙は売らないで剣にするのをおすすめするぞ」
「まぁ、長々と話しちまったが、真斗次第だ。自分で決めてくれ」
「じゃあな!」
スタスタと1階に上がって行った。
まったく人の話を聞いてくれない。
ある意味格好いいぜ、マグナスさん!
一息ついたところで、俺も1階に戻り、そして鍛冶屋に顔を出そうかと思い外に出ようとして、
そして呼び止められた。
「あ、真斗さん、お疲れ様でした」
俺は軽く会釈をしてそのまま扉を開ける。
「あ、あのっ! お待ちください!ギルドカードの更新の話、あれ、ご存知ではありませんか?」
「えぇ?」
何のことだろう。
まったく心当たりがない。
「真斗さんは、ワイバーンを退治されましたよね? 次にモモトの森の調査依頼のクエストを達成されています。さらには、ギルドマスターの右目を治療されています。特に治療の件は、ギルドの調査依頼の確認のための治療でしたので、特に金銭が支払われておりませんでしたが、その代わりにというわけではないんですが、真斗さんのクエストのランクポイントに加算されているんです」
「なるほど」
「それと最後が、今の地下訓練場でのギルドマスターとの訓練ですね。ギルドマスター自身で腕前を試すんだってことで、いわゆる昇格試験みたいな意味合いがあったんですが。聞いておりませんでしたか?」
「まったく聞いておりません!」
それは言っとこうよ、マグナスさん!
受付嬢は、ちょっと苦笑いしながらだったけど、でも、ちょっとだけいつもよりテンションが高いっていうのかな。
「ギルドマスターがおっしゃっていました。真斗さんの力はDランクたるにふさわしいって! ギルド始まって以来の最短での昇格かもしれませんよ。おめでとうございます。Dランクに昇格ですよ、真斗さん!」
そう言ってにっこり微笑んでくれた。
「ありがとうございます」
Dランクか。
ちょっとしたプレッシャーを感じるのは、まだ冒険者になって日も浅いからだろうか。
まぁ、ただ、これからも1つ1つクエストをこなしていくってことに変わりはないのだし、
これからもそうしていくだけだ。
「それでは、真斗さんギルドカードを更新しますので、お貸しください」
「はい」
「少々お待ちくださいね」
受付嬢はそういうと奥の部屋に入っていって、少しすると、パタパタと戻ってきた。
「はい、できましたよ。どうぞお受け取りください。 真斗さんっ、内緒ですけど、これからも応援してますよ?」
そういって微笑みながらの受付嬢さんから手渡された俺の新カードにはDの文字がカードに記載されている。
カードも今までの胴のような茶色なカードではなくって、銀色に輝いているカードだ。
うん、なんか持ってるだけでうれしいカードで、俺はギルドの窓から差し込んでくる光についつい照らして光らせてしまう。
新しいカードは眩しくて、ちょっとだけ目を閉じてしまった俺がいた。