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孤児院の食事風景

中盤以降、逆飯テロ話です。食事前後の方はお気をつけください。

※筆者の胃腸の都合により、ふつうの食材に切り替わることがありますので、あらかじめご了承ください。

 いまにも崩れおちそうで、ところどころにはヒビが入っている。粗末で朽ちはててしまいそうな、そんな木でできた小さな小屋……うん、どこだ、ここは?

 俺の意識は少しずつ目覚めていく、あれは……。


 マルシィさん! それと調査官のモミンさん!?

 なんで2人が……そう思う間もなく、マルシィさんがさっと胸元にかざした短剣に刻まれた紋様が、薄暗い小屋にわずかに差し込む窓からの光を浴びて、どんどんとその輝きを増していった。


「くっ」


 なんだ、これは……これは短剣の紋章の力だけじゃない。マルシィさんの気品と威厳があるからこそ初めて感じられる空気。

 そう、ボロボロに崩れおちそうなこの小さな小屋は今はまるでマルシィさんを中心として煌々と輝く、まるで黄金の宮殿のようだ。

 だけど、そんな大きな大きな、ただそこにいるだけで気品と気高さを体現するかのようなマルシィさんに向かって、俺の横にいたモミンさんの足は、一歩また一歩と、前に進んでいく。


 すごい。俺はあまりの高貴さを前にして、思わず後ろに足を下がてしまいそうなのに……そんなモミンさんの尋常ではない様子を俺は思わず直視せずにはいられない。


 モミンさんの足が、また一歩前に進んだ。


 ズシリ

 ハァハァハァハァ


 うん? このハァハァは大丈夫なのか?


 そんな中年の男性を前にしても、マルシィさんも一歩も引くことはない。


「お引きなさいっ! この紋章が見えないのですかっ!」


 神々しい、いや、もうそんな言葉じゃこの気高さを俺にはとうてい言い表すことができない。

 だけど、モミンさんの目にはもうそんなものはまるで目に入らなかのようで、ただただ、マルシィさんに向かって一歩ずつ着実に足を前に進めていく。


 ズシリ

 ハァハァハァハァ


 モミンさん……?


 ズシリ

 ハァハァハァハァ


 モミンさん…………?


 マルシィさんはそんなちょっと怪しすぎる雰囲気のモミンさんを前にしても、その誇り高さゆえだろうか、その足は一歩もうしろに下がることはない。

 やがて、モミンさんの右腕がマルシィさんの左の小さな小さな膨らみに触れようとして……。

 それでも、なお少しも逃げようとしないマルシィさんがいて……。


 そんなマルシィさんの高貴な魂の波動を目の前で見て、まして俺は実際に感じることになってしまって……。

 1つだけ俺の中で覚悟が決まった。

 そう、俺は命に懸けてもマルシィさんを守りたいと、このとき確かに思ったんだ。

 お願いだ、願う力よ! この瞬間だけでもいい。俺に誰にも負けないだけの力をくれ!!


 マルシィさんへの俺の強い想いはやがて願いとなって力になった。

 その瞬間、俺の右手の甲は眩いばかりに光り輝く!

 目も眩むばかりのその光は、一瞬、死んだ直後のあの不思議な世界を思い起こさせた。 

 手の甲には象形文字だろうか、不思議な文様が浮かび上がってくる。

 俺は力強く叫んだ。


「マルシィさんの慎ましい胸に触ろうとするなああ。このハァハァ騎士男ガアアアアア!!」


 紋章の輝く俺の右手がどんどんと熱を帯びていき、やがて光となって、しかし形を成さない!?

 そう、それはとてつもなく輝く俺の拳、そう、俺に拳に宿った光、光の拳だ!


 くっ。だがもう間に合わない……。

 モミンさんの右手はあと数センチもないまでにマルシィさんの胸元に迫っている。


「マルシィさん、お願いだ! 俺の近くに来てくれ!」

「どうされました? 真斗さん?」


 マルシィさんは、戸惑ったふうな声で、はじめてその身をゆっくりとうしろに下げると、俺の側にゆっくり保ちつつ歩みよってきてくれる。

 どうされましたって……目の前のモミンさんはもう小太りの体を左右にゆさゆさと揺らしながら、一歩一歩着実にマルシィさんに近づいていて、それはもう明らかにマルシィさんの胸元を見つめたまま、少しも視線を外していない。まさしくガン見をされている。


「マルシィさん、もっとだ、もっと俺の近くに!」


 ただただ、マルシィさんを守りたい、そんな俺の気持ちが、結果としては叫ぶような大声を俺に出させることになる。

 マルシィさんは少しずつ俺のそばに来てくれて、もうすぐそこまできてくれている。


 その巨体に似合わぬモミンさんの右手は、まるでためらうことのないままに、マルシィさんの右胸に直撃しようとして、俺はとっさに光る拳をモミンさんの右手から守るべく、マルシィさんの胸元の前に置いて、モミンさんからの攻撃を防ぐ構えだ。

 しかし、それにしてもすごい、マルシィさんの胸元に向かった俺の光る拳のスピードは、もはや俺自身にすら認識することができない。それはもう高速といってもいいスピード感だった。


 そして、一瞬後、モミンさんの手が俺の光る拳を直撃した。


 バシーン

 フニャッフニャ


「キャアアアア」


 マルシィさんの生まれ持った気品が一瞬霧散すると、あたりをつんざくような悲鳴が響き渡る。  

 くそっ。予想外の衝撃だった。モミンさんの胸元に向かう手の勢いのあまりの強さに俺の手がマルシィさんの胸に押し当てられてしまった。


 間髪をおかずに、さらにモミンさんはもう片方の手を素早く動かすと、今度はマルシィさんの左胸を狙ってくる。その狙いは異常なまでに正確に胸元を目指している。


 俺の右手はモミンさんの右手を防御するので精一杯だ。かてて加えて、俺の左手はただの拳にすぎない、決して高速のスピードで防御をすることはできないだろう。


 どうすればいい……。

 そんな俺の思いが叫びとなって、ついつい小さな小屋全体に響きわたるほどの裂帛の気合をともなった咆哮を上げさせることになった。


「マルシィさんの貧乳に手を出すなあああ」


 もはや気合の領域の話だろう。俺の左手はどうにかモミンさんの一撃を防ぐと、わずかにマルシィさんの胸元に、またも当たって止まることになる。


 フニャリ


 くそっ。意図せずにマルシィさんの両胸を俺の両手がクロスする形でお触りする形になってしまっている。

 これは……まさか……クロスカウンターか!?


 まぁ、そんな現実逃避をしている場合ではなかった。


「キャアアッ、真斗さんっ! 真斗さーん!」


 俺の左手は……それに右手も……なんだ、この感覚は……。


 フニャフニャフニャリ


 俺は両の手でなにか柔らく慎ましいそんな弾力のある食パンのようなうっすらとしたなにかを揉みしだきながら、この日の朝を迎えることになった。


 ん、この声は……。

 まさか、夢か……。 

 目の前にはマルシィさんがいた、俺の両手はどうやらクロスする形でマルシィさんの胸を揉みしだいてしまっているようだ。

 ひどく固まってしまったマルシィさんの俺を見る目はいわゆるジト目だ。 


「いつまで触っているんですか?」


 マルシィさんのジト目は何度でも繰り返して言える、それは別格だと。


「あ……すいません!」


 急いで胸から手を離す俺。

 どうにか許してくれるだろうか?


「あの、いつからそちらに……?」

「それは真斗さんが、

 『マルシィさん、お願いだ! 俺の近くに来てくれ! 』

 って叫ばれましたので、下の階から急いで来たんですよ!」


「それで、私の貧乳がどういたしました?」

「……いえ、その……」


 さらなる追撃のジト目だ。うん、迫力が段違いだ。


 それにしても、なんで俺の右手にはかすかに紋章が光ってるんだ?

 それに、このおかしな状況はなんだろうか、異世界ならではの幻惑魔法にでも俺はかけられてしまっているのか?

 俺は自身に鑑定をかけて状態の確認をする。 

 鑑定!


 北条真斗

  説明

  起きても寝ててもマルシィさんの胸を揉んでばかりの真斗には、ほとほと困ったものなのじゃ。

  特殊

   願力

    発現

    パッシブスキル

    翻訳、未来視、探し物探知、剣術


    アクティブスキル

    鑑定、大聴力、疾風、怪力、生活魔法、火魔法、アイテムボックス化

    靜足、透明化、夜目、回復魔法


    クロススキル

    高速演算、制御力向上、千里眼、名探偵


 状態異常にかかっているかどうかを知りたいんだけど……いや、困ったことにはまったく同意できるんだけど、やっぱり俺の鑑定さんはあんまり役に立たないようだ。

 それと、わざと触ったわけじゃないからな?

 それにしても、スキルの増減もない様子だし、一見すると鑑定の説明だってちょっとおかしいだけで、状態異常であることを示してはいない。


 まぁ、1つ言えることはすべては夢の中の出来事で、でも必ずしもそうとはいえなかった。

 そんな俺の右手には、まだうっすらと紋章が光り輝いている。

 紋章さん、お願いだから静まっておくれ。



 まぁ、そんなわけで、どうにも朝、早くに起きすぎてしまった。

 孤児院は街のスラム街からも少し離れた小高い丘に立っていて、

 あたりは野草や、孤児院で運営している畑、それにちょっとした林に囲まれている。

 野鳥の声に少しずつ正気を取り戻していった俺は、まずは、自己反省も兼ねて、外を散歩でもしようかと思っていたんだけど、マルシィさんはもう、箒で床を履いて掃除をしていたんだ。


「マルシィさん、こんな時間からもう掃除ですか、大変ですね。それと、さっきは本当に失礼しました」


 意図してやったかどうかはこの際問題ではない。マルィさんは女性で、夢の中とはいえ俺のしてしまったことは決して良いことだとはいえないだろう。


「真斗さんが、わざとそんなことをされたりしないことはわかってるんですよ……ただ、その……」


 よく聴こえない。

 思わずスキル大聴力を使ってしまったことをほんの少しだけ後悔する。


「……私の胸ってやっぱりそんなに小さいのかしら? ……それに真斗さんはそんな慎ましい胸は……おきらい……なのか……」


 最後はかすかにも聴こえてこなかった。俺がなにを嫌いだって? だけど、うん、やっぱり本人も胸の小ささを気にしているんだよね、だから、まったく聴こえなかったことにしました。


 マルシィさんは、掃いていた箒を止めると、両手を腰に添えると俺に向かってぐいっと胸を張った。

 慎ましい胸だな、マルシィさん。

 そんなことを俺は思っているわけだけど、当然胸には視線を向けることはない。

 女性は結構視線に敏感だからな。


「早起きしている私が言うのもなんですけど、たまにはゆっくり休むのも体のためですよ。それに、真斗さん、ウェアウルフから助けてくれたも、私のギルドの調査の依頼も片づけていただいて。少しはゆっくり休んでくださいね!」

「お気遣いありがとうございます」  


 現代日本でも、ここまで心配されたのって、子どものころの両親くらいではないだろうか。

 そういう気持ちは普通にありがたいので、素でお礼を返すことができる。


「真斗さんがしっかりなさっているのは存じておりますから、あまりくどくは申しませんけれど」


 マルシィさんからは心配してるんですよって視線がたえまなく送られてくる。

 これが孤児院を切り盛りしているお姉さんスキルとでもいうんだろうか。

 なんとなく逆らいがたいものを感じる。

 休んだほうがいいのか……。


 いや、ダメだ。

 まだまだこの異世界は俺の知らないことだらけで、正直、多少の疲れぐらいで日中から休んではいられない。

 まぁ、いろいろ見て回りたいなというのも、俺の本音なんだよね。


「そうですね。ゆっくりしていたいって思いがないわけではないんですけどね。ただ、今日はギルドに顔を出してクエストをいろいろ探して見たり、ほかにも街を見て回りたいなと思ってるんですよ」

「もちろん、きっちり休みも取りますから!」

「そこまでおっしゃるなら、ただ、疲れたなって思ったら遠慮なく私に行ってくださいね。疲労快復にとてもよく効く飲み物があるんですよ」


 なんだ、その飲み物は。

 正直、異世界での食事は、たまにとんでもないものが出てくるので、これはある意味で異世界に来てからの俺の最大の戦いじゃないかと思ってる。

 そこで、よく効く飲み物とか言われてしまうと、正直ちょっと怖い。


 まぁ、俺が内心で、そんなことを考えているなんて毛ほども思っていないんだろう。

 マルシィさんは持ち前の気品があるから初めてできるんだろうな。

 そう、それは優雅に俺を朝食に誘ってくれたんだ。


「それで、今日の朝食なんですが、よかったらうちで食べていかれませんか? アイルも喜びますし」

「そうですね。それではお言葉に甘えちゃいますね」


 俺はもちろん即答だ。


「はい。今日は焼きたてのパンと、お肉もつけちゃいますからね。腕によりをかけますから。期待してもいいですよ?」


 そんな風にマルシィさんに覗き込まれて、見つめられる。

 やばい、まじかわいい。


「すごく楽しみですね。ただ、1人だと大変じゃありませんか? よろしければ、朝食の準備、お手伝いしましょうか?」


「真斗さんには、昨日もお料理をしてもらいましたし。それに、朝食の準備は、朝当番の子の仕事ですから。今日は、ゆっくりなさってくださいね」

「わかりました。お言葉に甘えさせてもらいますね」


 うーん。時間を持て余してしまいそうで、外を軽く散歩でもしてこようかな、なんて思ってたんだけど。


「うわーん。お兄ちゃんがいなーい」

「うわーん」


 アイルちゃんだ。

 俺を起こしに来てくれたんだろうね。

 アイルちゃんは、ベッドに寝ている俺にダイブして飛び込んで来る。

 正直、結構な衝撃で起こされるんだけど、そうはいっても、朝起きて最初に目にするのが元気いっぱいな女の子っていうのは、なかなか良くないか?

 いや、ロリコンってわけじゃないよ。

 なんといえばいいだろう、アイルちゃんは本当に元気いっぱいなんだ。


「こら、アイルっ、そんな大きな声を出さないの! 真斗お兄ちゃんはこちらにいますよ!」


 躾には厳しいのだろう。

 マルシィさんがしっかりと注意する。

 アイルちゃんに負けない大声だけどね、マルシィさん。


 ダダダダダ

 すごい勢いでアイルちゃんが飛びこんで来て、腰にしがみついて来る。


「おにーちゃんだー、おはよう、真斗おにーちゃ-ん!」


「おはよう。アイルちゃん」


 朝から元気に可愛いなぁ、なんて思いながらつい頭をナデナデしてしまう。


「アイル、お兄ちゃんと遊ぶのも構わないけれど、もうすぐ朝の朝食の準備が始まりますからね」


 マルシィさんはさすがだ。

 俺はついつい甘やかしてしまうんだけど。


 マルシィさんは、ジーとアイルちゃんを見て。

 うん、アイルちゃんは昨日の夜からちょっと大人になったのかな。


「はーい。アイルは良い子だからしっかりやるんだから!」


 なんてことをしっかり宣言した。

 そんな風に決意を新たにするアイルちゃんは、傍目にも可愛いさ花丸で間違いないんじゃないか?

 だから、俺は決して悪くないぞ。

 つい、また頭を撫でてしまった。  

 ナデナデ


 アイルちゃんはさっきの宣言は何処へやら、俺を上目遣いに見上げると、ガシッと俺にしがみついて来て、離れなくなった。

 しまった。これはさすがに俺が悪いだろう……。


 なんてことを思っていると、やっぱりだ。


「真斗さん!」


 うあ、マルシィさんがご立腹だ。


「すみません! アイルちゃん、朝の準備頑張ろう!」


 俺も必死だ。

 アイルちゃん朝だよ! 朝の準備だよ! アイルちゃん!

 俺の心中を察してくれたのなら、これはもうスーパー幼女ってことになるんだろうか。

 アイルちゃんは元気よくお返事を返してくれた。


「はーい!」


 良い子だね、アイルちゃん!



 食堂には子どもたちが集まって、テーブルを拭いたり、お皿を出したり、出来上がった料理を運んだりと、みんながバタバタと朝食の準備に忙しそうだ。

 俺も手伝おうとしたんだけど、お客様扱いっていうのかな。


「お兄ちゃんは、お客様だから、こっちに座ってて!」と言われるままに、今日は特に何もさせてくれないんだよね。

 本当に、しっかりした子どもだちだから、あっという間に朝食が出来上がっていく。


 そんなマルシィさんは朝食の準備が終わり全員が席についたことを確認すると、大きく掲げた手の平を上にして、そのままゆっくりと胸に手を当てる。

 明るい声が朗々と響く。


「今日も無事に過ごせることを、光の女神アーシア様に感謝いたします。いただきます!」

「「「いただきます!!!」」」


 子どもたちも同様の所作のあとで、大きな声で唱和する。

 俺もほんの少し遅れて。


「いただきます!」


 マルシィさん会心の朝食だからな。

 俺もいつになく食事が楽しみだ。


 パンとスープ。そして今日はお肉だ。

 スープはよく温められていて、中に黒い棒状のこれは、イカソーメンか何かだろうか。

 黒いこの長いものなんだろう。


 そう思ってしげしげと眺めて、フォークですくい取り口に運ぼうとした、まさしくそのときだった。


「わーい。今日は朝からお肉だ! 黒ミミズは、プリプリしていて美味しいねっ!」


 子どもはいつでも無邪気だ。


「そうね。今日はお肉ですからね。その代わり、みんな今日もお勉強とお仕事、頑張るんですよ!」


 マルシィさんも子どもに葉っぱをかける姿なんか、本当、教育者の鏡だな。

 まぁ、結論なんだが、ミミズかよ!

 俺はフォークですくい取って、よくよく見て、納得した。


 うん、これミミズだわ。色黒いけどな。

 みんな美味しそうに食べていく。

 いや、俺だけ食べないなんて出来ないだろう。

 だけど、もうこれは無理だろう。胃酸が逆流しそうだ。


 マルシィさんを見ると、俺を見てにっこりと微笑んだ。

 う……食べないとダメか。


 食べる、そう食べる!

 これはミミズじゃない。これは、イカソーメンだ!

 そう思い、そして俺の中の何かが変わったのだろうか。

 スッと、本当にスッとなんのためらいもなく、お肉を口に運ぶことが出来た。


 うん、孤児院の食事は最初は戸惑うことも多いんだけど、食べて見ると美味しい。

 スープの味と相まってプリプリの食感で、噛めば噛むほど、口内に味が拡がっていく。

 まるでスルメイカみたいに。まぁ、イカソーメンだったか。


 あっという間に子どもたちも俺も皿をからにして、みんなでいっせいに。


「「「ごちそうさまでした!!!」」」


 うん、恒例だね。

 食事の片付けも見事にみんな手馴れたもので、俺も自分の食器を下げた後で、出発の準備を整える。


「お世話になりました。アイルちゃんもまた今度来るからね」


 アイルちゃんは泣きそうで。


「う、やだー。今日もお泊まりにきてくれないとやだー!」


 なんてぐずってしまっている。


「こら、アイル。真斗さんにもご都合があるんですよ。我儘を言ったらいけません」


 マルシィさんは、もうお母さんみたいだよな、ほんと。


「だってー。真斗おにーちゃんとはたまにしか会えないんだもん。お姉ちゃんだって、ワイバーンのお肉、美味しくなかったの? 熊太郎ちゃんでもふもふしたくないの??」


 アイルちゃん、マジすごいな。

 マルシィさんの弱点を的確についている。


「う……」

「それはまぁ、熊ちゃんはもふもふしたいですよ。でもね、もう1度いいますけど、真斗さんにだって色々予定があるんです。 だから、あまりご迷惑をおかけしたらいけませんよ」

「ね、真斗さん?」


 食べたい、もふりたい。

 そんなマルシィさんのまっすぐな気持ちが、俺に伝わって来る。

 気のせいだろうか。いや、本気だな、これは。


 もちろん、俺だって孤児院での生活は嫌いじゃない。

 だから、ここは俺からお願いする形にした方がいいだろうか。


「俺はもう1泊、ご迷惑でないのならお邪魔したいのですが。もちろん、まだワイバーンのお肉たくさんありますからね、今夜も焼肉にしましょうか?」

「全然、迷惑なんかじゃありませんよ。では、今日もお待ちしておりますね!」


 うん。即答だった。


「お兄ちゃんがお泊まりだ! やったー!」


 アイルちゃんも元気いっぱいに喜んでくれたみたいで、良かったよ。

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