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魔法薬作りはいつだって大変

 なにはともあれ、これでひとまずは一件落着と考えて良いだろう。

 次は、石化解除のためのガロン草の採取だ。


 それにしても、空からその大地の深くまでをも斬りさいた俺の光の剣は、数多の生き物をも巻き添えにして斬り裂いたかのようにもみえたんだが。

 絶刀飛燕村正に斬られたかに見えた小さな緑のバッタのような生き物は、以前と変わりない様子で元気に跳ね回っていた……。


 そんなことをとりとめもなく考えていたわけなんだけど、ふと、いつものマリーナさんの元気な声が聞こえてきた。



「マリーナ、綺麗にしちゃいますね!」


 マリーナさんはそういうと生活魔法を唱え始める。


「クリア♪ クリア♪ クリアブラッドー♪」


 俺の体をなにが通り過ぎる、身体中を妙な清涼感が駆け抜けていって。

 うん、すごくさっぱりした気分だ。

 それに、俺の身体中についていた血も汚れも綺麗さっぱりなくなっている。


 マリーナさんの詠唱は続く。


「続くよ♪ クリアにー♪ クリアブラッドー♪」


 マリーナさんは今度をクルッと体を一回転させると、両手を上にあげて万歳のポースだ。

 体が一瞬輝いて、今度はみんなが綺麗さっぱりだ。


 ってか、あれだな。

 クルッと一回転するところなんて、本当に魔法の詠唱に必要なものなのか?

 いや疑うべきではないよね。本当に異世界魔法には驚かされてばかりだ。

 

 ワイバーンの死体をあとにして、俺は鑑定を使うと、あらためてガロン草の方に向かった。

 少し歩くとくぼみがあって、鑑定によればこの下に群生しているはずだ。


 俺は、転ばないよう、4人に注意しながらガロン草の下まで先導する。

 あった。あの赤茶けた風情は明らかにガロン草だろう。

 かなりの数も確認できるし、これで大丈夫だろうか。


「みなさん、ありましたよー」


 みんなは、群生するガロン草を見てびっくりしている。

 マリーナさんの目はまん丸だ。

 ミアさんもぐっと両手に力を込めると、うれしそうに軽いジャンプを繰り返している。ポニーテールも心なしか、ふだんよりも元気よく上下に跳ね回ってフリフリだ。 

 シルさんは、涙ぐみなら呟いている。


「これでお姉さまたちが助かりますわ。うぅぅ」

 

 感極まったのか、泣いているね。

 メイさんは、アーシア様に感謝申し上げますと、お祈りを捧げていたんだけど。

 一息つくと、急に俺に向かって走りよってきて、大胆にも俺の両手を手にとってニッコリ微笑んだ。


「ありがとうございました! 真斗さん!」


 えぇぇ。清楚系女子。こんなに表情もできたんだね。

 いつものようにアーシア様に感謝をする方が確かにメイさんらしいんだけど、俺にも直接お礼を言いにきてくれて。

 そんなメイさんの気持ちは、素直にうれしかった。


 マリーナさんたちはガロン草を採取し終わると、俺に改めて俺を言ってきた。


「本当にありがとうございました。15本も手に入りました。ただ、その……冒険者さんのために薬を作らなくてはならなくって」


 手に込めた力が強すぎるんだろうか。マリーナさんの手に爪が食い込んでいる。


「あの、お礼はお金でいくらでも払います。だから、ガロン草はすべて私たちにいただけませんか?」


 俺の答えは決まっているさ。


「最初にも言ったけど、俺はマリーナさんと同じ気持ちなんだ。ミアさん、シルさん、メイさんを助けてくれたその冒険者さんを俺も助けたい。だから、お金なんていらないからさ。石化解除薬を作って渡そう!」


 感極まったのか、女の子4人が泣き出してしまう。

 少し待って、皆が落ち着いてから、さて帰ろうかって話になったんだけど。


「真斗さん、ワイバーンの死体はどうしましょう? 真斗さんがせっかく倒したんですから。せっかくの素材ですしっ、ギルドに戻ってから回収の依頼をかけますかっ?」


 マリーナさんの問いかけは、しごくもっともだ。

 どうしようか、街に戻って、また、回収依頼をかけた上でここにに戻ってくるとなると……。

 まして、これだけ血の匂いが充満している中では、ワイバーンの死体も野の獣にある程度は食い荒らされてしまうのではないだろうか。


 俺の持っているアイテムポシェットは、鑑定さん曰くなんでも入るらしい。もしかしなくてもワイバーンもまるっと入ってしまうんじゃないだろうか。

 あまり公にしたくはなかったが、いずれはバレる話だろうし、俺はなにより彼女たちを信頼している。

 それに、アイテムボックスを作れることさえ秘密にしておけば、そうは大騒ぎにならないのではないだろうか。

 

 そう楽観的に考えた俺はワイバーンのところに一息に向かうと、ワイバーンをそのままポシェットにしまい込んだ。

 胴体と、あとは、頭だ。

 不思議なもので、しまいこむ対象に手を触れて意識するだけで、スッと消えるようにポシェットに入っていくようだ。

 まぁ、そんな感じでワイバーンの死体を入れてあとで、ふと目に付いたのが、大きな卵だった。

 シマシマ模様の大きな卵が3つ、巣の中に並んでいる。

 おそらくはワイバーンのものなんだろうけど、このまま孵ったとしても親ワイバーンのいない子どもたちはきっとすぐに死んじゃうよね。

 かといって、卵焼きにして食べてしまうのも、なにか違う気がする。

 俺はとりあえず、3つの卵も丸ごとしまい込むことにしてポシェットに収納した。



 だけど、ある程度、覚悟はしていたんだけど、そんな俺を見ていたみんなをやっぱりびっくりさせちゃったみたいで。

 マリーナさんも、ミアさん、シルさん、メイさんも、みーんな、ずっとだんまりなんだ。

 

 シルさんがそんな静寂を破り、大声で叫んだ。


「それって。それって。もしかしてアイテムボックスではありませんの?」

「えーと、そうですね」


 でっかいワイバーンを収納したんだから一目見ればそれはまるわかりだよね。


「そんなの国宝級じゃありませんこと? 王族の方や、公爵殿下がお持ちだとは噂に聞いたことがありますけれど」


 うわぁ。これは思ったよりも大ごとなのかな?

 だけど、今後のことも考えると、アイテムボックスを保有していることを、ある程度はみんなにオープンにしておきたいのでここまでは想定の範囲内だろう。

 やっぱりここは、いつもの東方の国カムシンに頼るのが一番かもしれない。


「実は俺の国のカムシンで、我が家に先祖代々伝わってきたものなんですよ」

「真斗さんは、カムシンのご出身でしたの? 先祖代々とのことであれば、もしかして貴族のご出身でいらしたかしら?」


 俺は平民中の平民。ど平民だ。ってか日本には平民しかいないしな。


「いえ、平民です。まぁ、縁があって保有しているんですよ」

「そうでしたか。宝物ですわね、本当に素晴らしいものですわよ」


 どうやらアイテムボックスについては納得してくれたみたいで、さすがのカムシンさまさまだ。 

 ただ、シルさんが本当にアイテムボックスに興味津々なのはあいも変わらずで。

 ミアさんと、メイさんも興味深げに話を聞いていて、マリーナさんは、1人ウンウンと頷いていたかと思ったら、一言。

 

「マリーナ、感心しちゃいます!」

 

 腕を組んでそんなことをのたまった。

 


 そんなこんなで俺たちは帰途に着いたんだけど。

 腹が減ってはなんとやらだ。

 

『マリーナの魔法薬草店』まで帰ってきた俺たちは、ついつい家に帰ってきたような安心感につつまれて、気が緩んでしまったんだろう。

 街を出てからほとんどなにも食べていないことに気づいた俺たちは、そうそうに宿屋『緑葉亭』に向かうことにしたんだ。

 

 食堂のテーブルはお客さんで埋まりかけている。

 タイミングが良かった。ギリギリだったかな?

 ちょうど、1つのテーブル席が空いていて、俺たちはそこに腰かけて、さっそく食事を注文することにした。


 やがて少しすると、順々にソニアちゃんが料理を運んできてくれた。

 まず最初に大きなお皿に盛られた猪鳥のステーキだ。

 猪鳥は日本でも食べたことがあるようなお肉の味で気持ち安心して食べることができる。しかもボリューム満点だ。


 次に出てきたのはスープなんだけど。食感がヌルッとしてコリっとしている。

 試しにみんなのスープをのぞいて見たんだけど、色が赤っぽかったり、青っぽかったりでそれぞれに独自の色を醸し出しいて、しかもドロドロなんだ。

 コラーゲンが豊富そうだから、そこは良いんだけどね。

 まぁ、スライムをスープにして温めたものなんだそうで、コリっとした部分がスライムの核らしい。

 俺はちょっと強酸スライムを思い出して、ふと悪気なくマリーナさんの胸元を見てしまったんだけど。

 マリーナさんはそんな俺にすぐに気がついて、俺を見てくると軽く小首をかしげたんだ。


「んっ? どうしたんですか、真斗さん?」

「いえ、マリーナさんのスライムスープ美味しそうですね!」

「はいっ! 極上のスライムさんですよっ!」


 スライムスープは、最初に知らずに飲んだからだろうか、意外に美味しくて最後までいただくことができた。


 そんな食事を、俺たち4人は美味しくいただいて完食した。

 やっぱり食事は1人でするよりもみんなで食べるほうが美味しいよね。

 さすがに歩きづめの働きづめだったからかな。

 女性のみなさんもモリモリと食べて、大皿はあっとゆうまに空になった。


 食事を食べ終わった俺たちは、それぞれで精算すると、おかみさんにはまたあとで一泊するために戻ることを伝えた上で、さっそくみんなで魔法薬草店に戻ることにした。


 店内に戻ると、すぐに薬草類や草花の匂いが俺たちを出迎えてくれる。

 マリーナさんは、さっそく石化解除薬を作るとのことで、地下への階段を降りていった。だから俺もみんなといっしょに降りていったんだ。

 地下の魔法薬作成室は、周りを木の壁に囲まれていて、ところどころにすり鉢だとか、木のお皿、それに見たこともないような草花が棚にはいっぱい置かれている。

 雰囲気は、なんだか秘密の部屋みたいだ。

 

 マリーナさんはガロン草を集めると、生活魔法で水を出して綺麗に洗い、軽く火を出して風を起こすと、ガロン草を乾燥させた。

 そして、そこに木の便から注いた不思議な色をした液体を注ぐと木鉢に中を棒でこねくり出した。

 もうしばらくはかかるそうで、なにか手伝おうかとも思ったんだけど、かえって邪魔になってしまうみたいで。

 

 なので、俺とミアさん、シルさん、メイさんの4人は薬が出来上がるまで、上の部屋に戻って待つことになったんだよね。

 ただ、そう、マリーナさんが大切な魔法薬作りを一生懸命にしているっていうのはわかってるんだけどさ。

 

 うん。これが暇なんだな。

 こればっかりはどうしようもない。


 俺はそんな暇さに耐えきれずに、ミアさん、シルさん、メイさん、それぞれ鑑定をかけてみる。

 鑑定!

 

  ミア・トラップ

  説明

  人族の女性。赤髪、赤目の彼女は13歳だけど、Dランク冒険者!

  理性よりも野性が大事。そんな彼女は冴え渡る直感で、怪物だってやっつけるのじゃ。

  でもでも真斗にはやっつけられちゃう!?


 うん? 俺がなにをやっつけるって?

 まぁいっか。

 

 続いて、シルさんだ。

 鑑定!


  シル・フォン・ブラウン

  説明

  人族の女性、金髪、碧目の彼女は12歳だけど、Dランク冒険者!

  ツンデレな彼女は、実は男爵の1人娘。

  真斗にはツン成分がなくなってきていて、キャラ崩壊の危機なのじゃ!?

 

 ソウイエバソウダネ。

 けどさ、現実でツンツンされたって俺はうれしかないんだよ。

 だからデレだけで良いんじゃないのか?

 うーん。

 まぁいっか。


 さて、最後はメイさんだ。

 鑑定!

 メイ・ウェーバー

 説明

 人族の女性、銀髪、紫目の彼女は12歳だけど、Dランク冒険者!

 ロンド教会の元秘蔵っ子で、元聖女な彼女は現在はなんでか今はアーシア教会で修行中。

 真斗に助けられて、さらにはの手に甲に浮かんだ紋章に気づいてからは、ずっとドキドキ。

 でもでも実は、恋にドキドキ!?


 なんだそりゃ。

 ずっとドキドキ? 手の紋章?

 それと恋にドキドキ?

 

 なんかさ、この鑑定、変な主観が入っているのではないと、暇を持て余していることもあってか俺はついついそう考えてしまった。

 客観的な能力の評価ではない気がするんだが……。

 しかし、一方で妙に正確でもあって。

 うん、よくわからん!


 そんなこんなで暇を潰していると、地下の魔法薬作り場からはマリーナさんの声が聞こえてきた。

 さすがの魔法薬の生成魔法なんだろう、その声はふだんより張りがあって、まるで歌っているようにも聴こえる。


「作って♪ いっぱい♪ 石化だって治っちゃうー♪」


 おぉぉ。

 これはマリーナさんの魔法だ。いよいよかぁ。

 みんなで頑張った甲斐があったよね。

 さらに詠唱は続いていく。


「続いて♪ 作るよ♪ 石化なんてなんでもなーい♪」


 ドタドタとステップを踏む音かな?

 地下からはジャンプをしては着地。今度はクルッ♪ と回ってまた着地。そんなことを延々と繰り返しているだろう音が聴こえてきて、階下はどんどん騒がしいものになっていく。

 まだまだ詠唱は続く。


「マリーナはっ♪ 負けないのっ♪ 絶対やっつけるんだからー♪」


 ドタドタと階下がますます騒がしくなっていく。

 ジャンプに着地。クルッ♪ と回ってまたジャンプ。クルックルックルッ♪ と回ってまたジャンプ?

 目が回らないのかな。

 邪魔になるからと思って下には行ってないんだが、正直お金を払ってもいいからさ、この生ライブを見てみたいような変な気持ちにかられてしまって、俺はそのことを反省する。

 魔法薬作りは大変な仕事なんだ。


「みなさーん、できましたー」


 マリーナさんから大きな声で、薬が完成したことが告げられた。

 5本の木の筒に入った石化解除薬を大事そうに抱えて、1階に上がってくる。

 そんな彼女は、真っ先に俺のところに来ると、急にぺこりと頭を下げた。


「真斗さんにご協力いただいたおかげでお薬ができました。本当にありがとうございました!」


「「「ありがとうございました!!!」」」


 ミアさん、シルさん、メイさんもマリーヌさんにも、続いてお礼を言われた。


 最後まで見事に声をハモらせる三人。

 今日1日いっしょにいた感じ、仲良かったもんなぁ。

 まぁ、そんなことを考えながらも、俺は薬を無事に作れたことに一安心だよ。

 本当よかった。

 

 マリーナさんたちは、これからもう寝るとのことで。

 明朝早々に街を出て、魔法薬を届けるために冒険街ランドパークまで向かうんだそうだ。

 

 俺も寝ようか。

 あくびが出てくきたわ。

 緑葉亭に戻った俺は、扉をすれ違った際に聞こえて声が、どこかで聞いたような声だったから、ついつい耳を済まして聴いてしまった。

 

「お父さん、今日も飲みすぎだよ! ほら、ちゃんと肩に手をつかまってね。お父さん、大丈夫?」

「んー、ふんごお、フボフグラグ……んーアリシアちゃん……? でへへへえ 」

「キャッ! お父さんのえっち!」

 

 ドサーン

 

「おーい。誰か来てくれー。シゲさんがぐるみん馬車の荷台に頭から突っ込んじまったんだよー!」

「きゃー! お父さんが死んじゃう! 誰かー!」


 ぐるみん馬車?

 しかし、それにしても、フローラさんは今日も大変そうだな。

 

 なにはともあれ、聞こえなかったことにした俺は おかみさんに戻ったことを一言告げると、早々に階段を上がり、自室のベッドに転がり込むと、あっというまに眠りについた。

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