10 ギブアンドテイク
「アキさんどうしたんです?
表情が暗いですよ?」
「ん!? あぁいやちょっとな」
夕食を二人で食べながら(今日は客がいなかった)
ワプがそう聞いてくる。
先程 俺は絵本館に行って この世界には
ある時まで文字などがあったことが
判明した。つまり今は文字という文化が
消されているということになる。
この非現実的な事実への動揺がまだ
態度にどうやらでてしまっているようだ。
ワプは俺を疑っているのか目を細めて
これを見つめている。
ーそれにしても俺はこのままこの世界に
文字を含む色々な知識をひろげていいのだろうか
文字が消えたのは恐らく誰かが何らかの理由が
あってのことだろう。それをむやみやたらに
ひろめていることが知られれば
俺は襲われたりするんじゃないか
殺されてしまうのではないか
思考が止まらない。
ダメだ嫌な想像をしてしまう
こんなこと考えたくもない
ないけど止まらない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖ー
ニギィィィ
「!?おわァァァ」
肩を急に掴まれ思わず振り向く
見るとワプがいつの間にか後に回り込んで
俺の肩を掴み…
ニギニギ
揉んでいた。
「ワ、ワプ?」
「そのままで 体にずっと力を
入れすぎたら疲れますよ?
少し休んだ方がいいです。」
そういい肩を揉み続けるワプ
「アキさんは物知りです。
アキさんのおかげで私はなんとか
店を続けられています。
最近は売り上げが上がってきているんですよ?
本当に本当にありがとうございます。
私はアキさんを心から信頼 尊敬しています。
夕方何かあったんですか?
あったんですよね…
毎日顔を合わせてればわかります。
もしよければ聞かせてください。
1人で抱え込むのは辛いはずです。
先程も言いましたがアキさんは
いい知識も知りたくないような悪い知識も
たくさん知ってる 知ってしまうでしょう。
その知識を私と共有しましょう
アキさん夜 勉強のとき
よく言いましたよね
知識は共有してなんぼって。」
そう優しい声で言ってくれた。
涙がこみ上げる。
言葉で人の心はここまで
あったくなるものなのか
不安で恐怖で冷めていた心が
熱を取り戻していく。
「なぁワプ 俺の話聞いてくれるか」
「もちのろんです。」
「もしかしたらワプにも危険なことかも
しれないんだぞ。そんな知識を共有しても
いいか…?」
「はい信頼してください。
アキさんは私を助けてくれました。
私もアキさんの力になりたいんです。
あれですねよくアキさんが言う
えっと その…ギブアンドトーク?」
「ぷっ テークだよ」
「あちゃあ惜しい」
「分かった話すよ嘘みたいな、
信じられないような話だよ?」
「それでも私は信じますから」
ありがとう とは言いきれなかった
いや喉がしゃくりあげて言ったけど
上手く発音できてないのか
涙が落ち着くまで待ち
俺は自分が異世界から来たことから
今日起こったことまでをワプに話した。