お題: 誰もいないファーストフード店 が舞台で『植木鉢』が出てくる暗い話 (1000字前後)
その物体は突然降ってきた。まるで植木鉢のような形をした金属質の塊。雲ひとつない空を煌々と輝きながら落ちてゆくその塊は、段々と速度を緩めながらも確実に地表へと向かっていった。やがて地表に近づくと、パラシュートを広げ上下反転、逆噴射をしながら地面に接地した。5分ほど経ったであろうか、塊の一部がスライドし、中から男が出てきた。男は一度だけ辺りを見まわし、目の前のファーストフード店へ歩みを進めた。
「懐かしいな。」
店の入り口に立ち、思わずそうつぶやく。世界中にチェーン展開するこのファーストフード店は、この星ではしごくありふれた存在で、どこの店で食べても慣れ親しんだあの味が楽しめる、そんな店だった。少し感傷的になりつつも店の入り口を開けた。
――誰もいない。
中はがらんとしていた。照明さえ点いていない。テーブルや椅子は懐かしい姿をしていたが、窓から入ってくる昼下がりの陽に当たって、どこか物憂げなコントラストを表していた。以前は店内を走りまわる子どもたち、怒声をあげる母親、注文を読み上げる店員たちが、平和を主題にした大合唱を披露していた。あたりが暗くなるころには、そこにカップルたちが加わったものだった。
――もうだめか。
そうは思ったものの、男はあきらめきれなかった。まだ誰かいるのではないか。全ての席、カウンターの下、調理場やトイレ、従業員の更衣室も調べたが誰もいない。最後に執務室の扉の前に立つ。ドアに耳をそばだて、中の様子を探る。何の音もしない。だが男の培った匠の感が告げていた。ここに誰かがいる、と。男は音がしないよう慎重にドアを開け、中を見回す。男は目に入った書類棚の方に一直線に向かい、勢いよく扉を開ける。
――たった2人。
目の前にはやつれた女が娘らしき少女を抱きかかえていた。少女の方は、ぱっと明るい顔をしたが、女の方は少女ををより強く抱きしめ身を震わせながら男を凝視している。
「いや…やめて。お願いだから見逃して…。」
男の表情に変化はなかった。男は静かに女たちの首に手をかけ、慣れた手つきで勢いよく捩じる。ゴキっという子気味の良い音がして、2人は糸が切れた人形のように倒れる。静寂が戻った。
このような結果は予想していたことだった。地球上でもっとも有名なピエロであり、宇宙でも有数の人間猟の匠である男ドナルドは、今、ヒトという種を保護してこなかった報いを受けているのだった。