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第八話 「Rainy」

「まったく、なんでこんなにひどくなるかね。」


 俺は亜衣と商店街へ色々と買い物をしていた。しかし、とある店から出ると……


「土砂降りだね……」


 ホント、この季節にここまで凄い勢いで雨降られると、正直きついわ。出かけたときは晴れてたから、傘なんて持ってねえしよ。


「濡れて帰るか?」


「で、でもこんな季節にぬれっちゃったりしたら風邪ひいちゃうよ〜!」


 まあ、そりゃそうだな。家までざっと3Kmはある。走ってもずぶ濡れは決定だ。くそぅ、歩いてくるんじゃなかったぜ。


「だけど、だからってずっととどまっとくわけにもいかないしな。雲見た限り、しばらくは止まないぞ、これ。」


 ザー、という雨の音は、おそらく今日の間に止むことはないだろう。こっから見渡せる空全部分厚そうな黒い雲で覆われてる。雲どもめ、たった30分で空を覆うんじゃねえ、こんちくしょう。


「仕方ない、俺が走って家まで戻る。それからお前のかさをここまで持ってきてやるよ。」


 俺は荷物を置いて、上着を亜衣にかしてやり、軽く準備運動をはじめる。


「こ、浩介くん!!せめて上着は着てたほうが……」


「濡れたら重くなる。それに、この季節に雨が降ってんだ。お前も寒いだろ、少しでも厚着しとけ。往復で30分前後で戻ってくる。じゃあな、少しの間、待っとけよ!」


 俺は濡れること覚悟で走り始めた。この季節の雨に打たれるのは、正直体もこたえる。

「くしゅん!さみ〜!」


 走り始めて約3分、服は濡れて、絞ったらかなりの量の水が出てきそうだった。だが、この冷たさが逆に俺を速く走らせる。普通の人だったら、この雨で体力を余計に消耗するんだろうが、俺は「これ以上濡れるのはヤダ。」と言う考えがさらにスピードをプラスしてくれている。


「到着!!」


 家には、10分でたどり着けた。さっさと傘を取ろうと家の中に入ろうとしたら、中から親父が出てきた。って、おい。


「だから、いいかげん仕事に行け!!」


 反射的に俺は蹴りをぶっぱなつ。今日は日曜日、こいつは仕事の日だ。今は昼、すでに会社にいないといけない時間のはずだ。


「甘いな、浩介君!!そんなものでは、この偉大なる父を倒すことはできな……グフッ!」


 蹴りは止められた。しかし、止められた瞬間、すぐさま顔面にパンチを入れる。これは流石に決まった。


「て、こんなくだらないことしてる場合じゃない!えっと……」


「傘なら、ほら。」


 立ち上がった親父が手に持っていた傘を俺に投げ飛ばす。それをうまくパシッ、と取った。


「サンキュー、といいたいところだが、何でわかった?」


「ほらほら、そんなことより亜衣ちゃん待ってるんじゃない?」


「ちっ!今からでもいいからちゃんと仕事行けよ!」


 その傘を持ってそのまま亜衣の待つ店に向かった。











「……あれ?どこだ?」


 店についた、そこまではよかったんだが、どこを探しても亜衣がいない。どこいったんだ、あいつ、寒くなったから店内にでも入ったかな?


「……中にもいないな。」


 店内に入ってくまなく中を見て回ったが、中には亜衣の姿は見当たらなかった。もしかして、あいつ……


「勝手に帰った、とか?」


 亜衣なだけにありえてしまうな。あいつ、もしかして俺に無駄な労力を使わせないように、って勝手に帰っちまったのかも知れねえ。亜衣はどうでもいいところで人に気を使いすぎるやつだしな。


 もしそうだとすると……ヤバイ。


「あの馬鹿、こんな雨の中を帰ってたら絶対風邪ひくに決まってるだろうが!」


 しかもあんなにいっぱい荷物も持ってるんだ、速く走れるわけがない。ちくしょう、どうでもいいところでばっかり気ぃ遣いやがって!!


 いや、ここに来るまでにどっかですれ違ったはずだ、それに気づけなかった俺も悪いか。ならなおさら急がないと!!


「くそ!傘の意味なくなっちまったじゃねえか!」


 さっさと走るためには、傘なんてさしてる暇もねえ!


 そのまま手に傘を握ったまま、もう一回家に帰った。











「どういうことだ?」


 家の玄関を開けてみた。亜衣の靴はない。


「ここに来るまでの道のりにいた人の中に亜衣は絶対いなかった……じゃあ、なんで?」


 ……まさか、道に迷ったか? この辺は結構道が入り組んでる。商店街なんて、亜衣はほとんど行ってないんだ、そんなすぐに道が覚えれるとは思えねえ。


「くそ!一体どこにいるんだ!?」


 すぐにまた家を出て商店街辺りを走り回ることにした。ちくしょう、俺がもっと早く着いてたらこんなことにはならなかったかも知れねえのに、俺は何をやってんだよ!!











 俺はすぐに商店街まで戻ってあちこち走りまわってみたが、まるで見当たらねえ。

 

「ちくしょう!亜衣、どこだ!」


 叫んでみても、返事は返ってこない。周りの奴らが変な目で見てるが、もはやそんなことはどうでもいい!あの馬鹿、一体どこにいるんだ!


「亜衣、亜衣!……ん?」


 狭い路地裏の先に、赤色の髪の毛が見えた。もしかして、あれは……


「亜衣!」


 赤色の髪の女性は、バッ、と振り向いた。案の定、それは亜衣だった。


「こ、浩介くん……」


「この馬鹿!心配させやがって!」


 はあ、どうやら無事そうだ。まったく、寿命が3年近く縮んだぞ。


「ゴメンなさい……3kmも浩介くんに往復で走らせるのは、ちょっと気が引けて……」


「お前はくだらん気遣いをするな。俺は別に10km走るのだって平気なんだ、6kmがどうしたってんだ。とにかく!今度からこんなくだらねえまねをしないこと!このことを肝に銘じておけ!」


「はい……」


 ……………


 ちょっと言い過ぎたか?ボリボリとほおを掻きながら少し考えてから亜衣の頭を軽く撫でながら言った。


「でも、気持ちは嬉しいよ。けど、頼むから無茶だけはすんなよ。お前のためにがんばったのに、お前が倒れらたら意味ねえんだからな……ホントに、ありがとな。」


 それから亜衣の頭上に傘をさしてやり、雨に当たらないようにしながら家に帰った。
























「もう7時か。晩飯作らねえとな。」


 家に着くと、すでに外も真っ暗になっていた。もう晩飯を作る時間だ。


「亜衣のおかげで、見事なまでに中の食材たちは濡れてなえな。」


 亜衣の持っていた袋の中は、どうやってかばったのかは知らないが、中の食材には水一滴たりともついてない。


う〜ん、お見事。


「よし、予定通り今日の晩飯は麻婆豆腐、タマゴ豆腐だ。デザートにも杏仁豆腐を使って何か作っとくか。」


 なんとなく、今日は「豆腐」と名前がついたものが食べたい気分だったのだ。俺は濡れた服を洗濯機に叩き込み、すぐに着替えて台所に立った。


「あ、私も手伝うね。」


 そこに着替えてきた亜衣もやってきた。


「無理すんな。あんなに濡れまくったあとだぞ?ゆっくりコタツとかであったまっとけ。」


「濡れたのは浩介くんも一緒でしょ?」


「う〜ん、まあそりゃそうだがよ……じゃあ、手伝ってくれ。極力さっさと終わらすから。」


 途中までは普通どおり調理をおこなえていた。亜衣がいるおかげでこれまでより順調に。しかし……


「亜衣、そこのお玉を……亜衣?」


 顔を真っ赤にし、ハア、ハア、と荒い息を立てている。目もうつろになってて、すでにヤバそう。


「おい、亜衣!大丈……」


 バタン、と大きな音をたてて俺がすべてを言い終わる前に、亜衣はその場に倒れてしまった。


「お、おい、亜衣!しっかりしろ、亜衣!」


 どうすればいいのかわからなかった俺は、とりあえず亜衣の部屋に連れて行って、ベットに寝かせてやった。





























「う……うん?」


 氷枕を作ってやったり、熱冷まシートをでこに張ってやったりと色々騒いで30分、ようやく亜衣が目を覚ました。


「39・3℃。お前の現在の体温だ。」


 目を覚ました亜衣にそう伝える。


「お前、最初からしんどかったんだろ!?何でいわねえんだよ!!」


「……ゴメンなさい。」


「ゴメンじゃねえ!!さっきも言っただろ!!無理すんじゃねえ!!」


 大声が家中に響く。亜衣は今にも泣き出しそうな状態。


「お前が俺を気遣ってくれてるのは嬉しい、だけどな……それでお前がダウンしちまったら、意味ねえじゃねえか……」


 手で亜衣のほおにやさしく触れながら言う。


「お前はもっと自分を大事にしろ。わかったな。」


 そのほおに触れた手を、亜衣の頭の上におき、髪を撫でてやる。


「浩介くん……本当に、ごめんね。」


「そう思う気持ちがあったら、今はゆっくり休んで、さっさと風邪を治せよ。」


 亜衣に向かって微笑んでやり、俺はそのまま部屋を出ようとする。


「ちょっとおかゆでも作ってくるよ。ちょっと待ってろ。」


 それだけ言い終えると、俺は亜衣の部屋から出た。


 そして階段を降りて、すぐにおかゆを作り始めた。その時、俺はぼそっ、と呟いた。


「39・5℃もある俺が亜衣にえらそうにも言えねえか。」


 それでも意識が無茶苦茶はっきりしている俺は、ある意味凄い人間ではないのか?そう心の中で呟いた。



続く





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