第七話 「JUN’S SISTAR」
「さあ、昼休みだ!飯だ飯!」
今日はひょんなことから朝飯を作ったにもかかわらず朝飯を食いそびれてしまった。なぜかというと、美咲の後ろに座っている奴が中々起きなかったからである。
「ゴメン、昨日騒ぎ過ぎちゃったから……」
苦笑いながらおぼつかない足取りでこちらによってきた。
「謝んなくてもいいって。悪いのは未成年に酒を飲ませた美咲と孝昌だから。」
そういって美咲をにらんだ。苦笑いをしながら両手を合わせて頭を下げてる。一組の教室を方を窓から見てみると、孝昌も手を合わせて謝罪の意を示している。あいつの耳はどんだけいいんだ?
「まあそんなことより、さっさと昼飯にしようぜ。いざ、目指すは購買部!」
そう言って教室の入り口に向かって歩こうとした時、ふいに扉がガラララ、と開いた。そこには、背丈を見た感じ、一年生であろう茶髪の小さな少女が立っていた。(この学園では、学年を見分けるための違いは何もない)
見覚えのない少女だが、このクラスに何か用だろうか?いや、用がなければわざわざ来ないか。
「すいませ〜ん!!伏見 純っていう人いませんか〜!!」
純を呼んでるってことは純の知り合いか。でも、俺はあんな奴知らないぞ?俺は大抵純と一緒に居るから純の知ってる奴はほとんど知ってるはずなんだが。
そんなことを考えていると、少女は純の存在に気付き、とことこと近づいてきた。
「あ、いたいた、お兄ちゃん!!」
………………………
…………え?
「オニイチャン!?」
という叫び声をあげようとしたのだが、俺が叫ぶ前に教室にいきなり入ってきた孝昌が叫んだ。女のことが絡むと、こいつは人間の限界でも超えるのだろうか?
「ん、どうしたの、司?」
「もう!お兄ちゃん、お弁当忘れてたでしょ!せっかく作ったんだからちゃんと食べてね。はい。」
手にもっていた弁当を純に差し出すと、「それじゃ。」と言って満面の笑みを浮かべて去っていった。ガタン、という音をたて、少女「司」は去っていった。その後、教室の中の人間の時は止まっていた。(純を除く)
「さて、お昼お昼〜♪あれ、浩介、美咲ちゃん、みんな、どうしたの?」
そう首を右に左に動かし、「あはは〜。」と苦笑いして頭を掻いた。
「言ってなかったっけ?」
「聞いた覚えがない。」
短い返答に対して、「あちゃちゃ〜。」と言いながら頭を掻いた。
「さ〜て、このことについてはじっくり聞かせてもらおうか?」
後ろから孝昌が純の肩にポンと手をおいた。
「純、お前にいつから彼女ができたのか。そして、いつから他人に「お兄ちゃん」なんて呼ばす趣味を持ったのか。この2つをしっかりはいてもら……いでっ!」
身をすばやく翻し孝昌に綺麗なボディーブロー。う〜ん、ナイス純。
孝昌は腹を抑えながらその場にうずくまった。純は笑顔だったが、額のすみには怒りマークを浮かべていた。
「でも、んじゃ今の子誰だよ?お前に妹がいたなんて知らないぞ?」
「私も聞いたことないわ。いたら絶対私たちわかるはずよ?」
俺と美咲は純が5歳くらいからの付き合いだ。俺たちが知り合ってから12年間も妹の存在を隠せたわけないし、隠せたとしても隠す必要がない。
「まあ、浩介たちが知らないのも無理ないよ。だって僕もつい最近まで知らなかったし。」
それだけ言うと、すぐに教室を出て行った。別にこれ以上話したくない、という意思表現ではなく、あまり大勢に言うつもりはないから早めに屋上に来てくれってことだろう。
この答えがあってるって確証はないが、長い付き合いだから純の考えることは大抵解る。その辺は美咲もしっかりわかっているようだ。
「純くん、怒っちゃったのかな?」
亜衣は心配そうにしているが、なんら心配する必要はない。
「あいつは別に怒ってないよ。だけど、待たせるのも失礼だな。早く昼飯かって屋上に行こう。」
俺たちもすぐに教室を出て、購買部に向かった。昼飯をかって、さっさと屋上に行かないとな。
「やあ、みんな。結構早かったね。」
屋上に上がると、弁当のふただけあけて待っている純の姿があった。
「まったく、なんか一言くらい言ってけ。亜衣が何気に心配してたんだからな。」
「いや〜、ごめんごめん。」
毎度おなじみの柔らかい笑顔を見せると、外してあったふたから箸を取り出した。
「みんなも、ほら、早く食べようよ。」
みんなも純のそばに座り、各々がかったパンを袋から取り出してかじりだした。
「んで、純。さっきの子は一体誰なんだ?」
俺は焼きそばパンにかぶりつきながら聞いた。
「僕のことをお兄ちゃんって呼んでるんだよ?妹に決まってるじゃん。」
あたかも当然のことを言うかのような口調だった。
「でも、私たち、あんな子見たこともないわよ?」
「さっきも言ったでしょ。僕だってつい最近知ったんだ。」
そう言って弁当の中のおかずをパクリ、と口の中に入れた。そして、純はあの少女、司との出会いを話し始めた。
一週間前、つまり、浩介が亜衣ちゃんと会うちょっと前だね。雨がふってて、あの日はすぐに解散したでしょ?
ああ、亜衣ちゃんは僕の家に着いて知らないよね?僕の家には3歳の頃から親が仕事で出かけてて、一度も帰ってきたことがないんだよ。だから、僕はいっつも一人で家で過ごしてるんだ。
その日は一人でソファーに寝転んでトランプいじってマジックの方法とか考えてたら、ふいに「ピンポーン」て音が聞こえたんだ。
「は〜い、誰ですか?」
まあ、こんなリビングで声出したって意味がないのはわかってたんだけどね。とりあえず、僕は起き上がって玄関に向かったんだ。
「あの、ここって伏見さんのお宅ですよね?」
がチャッ、と玄関の戸を開けると、目の前には短い茶髪の女の子がちょこんと目の前にいたんだ。
短い髪も、雨ですごくくぬれてて、風でもひいてそうな感じだった。現在一月下旬のこの季節、これだけずぶ濡れになったら、風邪を引くのは時間の問題、そんな感じ。
「き、きみ、大丈夫!?え、えっと、どうしよう……!!な、なんだか知らないけど、とりあえずあがってあがって!!」
「あ、はい……すいません。」
そのままその子を家に入れてあげてから髪とか乾かした後、まともな話を聞くことにしたんだ。でも話を聞いて、僕もホント驚いたよ。だって、いきなり僕の妹だって言うんだから。
「…………………は?」
長い沈黙の後、僕の口から出た第一声はそれだった。
「ですから、あの、私、あなたの妹なんです。あの、一応、証拠になるかな、と思って写真、持ってきたんですけど。」
手渡されたのは、この子が生まれた時の写真(?)や、僕の親と一緒にいる子のこの写真だった。
「で、司ちゃん、わざわざアメリカまで何しにきたの?」
両親がまだ移動をしていなければ、今ごろアメリカのとあるラボでまだ研究を続けてるはずだ。ああ、ちなみに僕の両親は科学者ね。結構優秀らしいよ。
「私、つい先日、お兄ちゃんがいることをお母さんに聞いたんです。それで、どうしても会いたくなって……それで、親の反対を押し切って、ここまできたんです。お兄ちゃんに、どうしても会いたくなったから。」
まあ、いるとは思っていなかった兄がいると知れば、それが普通だろうね、うん。しかし、ホント凄いね。この子がここまできたこともそうだけど……
「あの親が、まさか僕のことを覚えてるとは思わなかったよ。」
それも、住所までしっかりね。お金も残さず、この家にはほとんど何も置いていかずに僕だけを置いてアメリカのラボまで飛んでいった両親だ。
ほとんど、というより完全に捨てられた状態の僕のことを、まさか覚えていて生きてまだここにすんでることを知ってるんだから、たいしたものだよ。海斗さんがいなかったら、僕はすでに死んでたかもしれないのに。
「ん〜、で、会いにきた、ここまではいいとして、これからどうするの?」
「え……この家にいちゃ、ダメなの?」
「あれ、ここにとどまるつもりだったの?てっきりすぐにでもあの両親のところにでも変えるのかと思ってたんだケド。でまあ、いてもいいけど、帰らなくていいの?君にとっては、大事な両親でしょ?」
うつむいてから、首を横に振った。
「ううん。お母さんたち、ちっとも私にかまってくれなかったの。ほとんど放置されたままだった。その時に、お兄ちゃんのことを知ったから、お兄ちゃんと一緒に生活したいな、て思ってきたの。あの、家事とかもちゃんとできる、だから一緒にいさせて!お兄ちゃんしか、もう頼れる人いないの!」
そういって、泣きながらいきなり抱きついてきた。こんな小さい体で、一人で家事とかずっとこなしてきたんだろうな。あの親が、この子のために家事をしてやっていたとは思えない、研究を何より第一にしてる親だから。
「わかった、わかった、泣かないで。いいよ、いても。だけど、ちょっと僕との生活は大変だよ?結構雑な生活してるから。それでもいい?」
そういっても、司はためらうことなく首を縦に振った。
「んじゃ、明日からは色々と司の部屋とか作らないとね。今日はもう遅いから、僕の部屋で寝てて。ベット、勝手に使っていいから。」
2階の部屋まで案内してあげた。僕が1階に降りようとしたら、司が口を開いた。
「……お兄ちゃん。」
「なに?司。」
「……ありがとう。」
「あははは♪僕たち、兄弟なんでしょ?そんなどうでもいいことで、お礼はいいっこなしだよ♪」
そのまま僕は1階のリビングのソファの上で、その夜はゆっくりと眠ったんだ――――――――――――――
「と、いうわけ。わかった?」
全てを話し終わると、純はまた口におかずを放り込んだ。
「ん〜、なんていうか、その……おめでとう?」
何をいえばいいかわからず、とりあえず妹と出会えたことに対するお祝いを一言。確かに言われてみれば、さっきのこと純は似てないこともないかもしれない。髪の色はまったく違うが、顔立ちだとか、性格もなんかにてそうな感じだったし。
「まあ、そう言うことだから今日は早退するね。」
「ああ、わかっ……って、何で!?」
そう言うことだからって、それは早退の理由にはならないぞ、純!
「だ〜か〜ら〜、司の家具を買ってあげないといけないんだ。海斗さんにお小遣いもらったし、今日のうちにもう買ってあげたいんだよ。」
そう言って、弁当を手に持って校舎の屋上にはよくあるタンクの一つに近づいた。
ちなみに、この校舎の屋上、すなわちここにはタンクが5つ置かれている。が、しかし一つはダミーである。その正体は……
「それじゃ、また明日、みんな♪」
純はタンクのダミーを軽くおした。すると、普通押すだけでは絶対開かない、というよりおしてあけるものではないはずのタンクが開き、中の空洞が見えた。
早い話、これが学校から抜け出すための隠しルートの一つだ、ということだ。
「よ〜し、レッツゴー!!」
そう言って、純はタンクの中を滑って学校の外へと出て行った。ちなみにこれは、地下下水道につながってんだ。臭いけど、まあ我慢できる範囲の臭さ。
「……また忙しいことになりそうだな。」
伏見 司、か。純の妹、か〜。新しい面子が増えると、ろくなことになりそうにない。そのいい例がすぐそばにいる。これからも平穏な日々がしっかり続いてくれることを、俺は切に願おう。
続く