第五話 「エスケープスクール」
えっと、今の俺の状態がよくわからなくなってきた。ひとまず整理してみよう。
えっと、亜衣が俺のクラスに編入されて、そこで俺となんらかの関係があることがバレて、俺Vs学校のかくれんぼが始まって、逃げてたけど樹につかまったんだよな。そして、現在にいたる、かぁ……
……なんなんだ、この状況は?
「これより、被告人「荒神浩介」の取り締まり+裁判を行う。」
体育館は、すでに裁判所のように姿を変えていた。俺は、裁判で被告人が立っているところに立たされている。樹は、裁判官が座っている位置に座っていた。しかも、俺は手を手錠で拘束されている。逃がさないためだろう。
「ちょっと待て、樹。このセットはなんだ?」
「見てわからんか?こんなことが起こった時のためにひとつきごとに学校の経費で買い集めた裁判セットだ。若干百数万はしたな。」
こいつ、学校の経費をなんだと思ってやがるんだ?この事態には流石の校長も驚いているぞ。
「伊藤先生。まさか学校の経費をこんなことに使っていようとは……若いうちからこんなことを……この学校でなければ、クビどころの問題ではありませんよ。」
「はっはっは!この学校だからやったのですよ!当然じゃないですか!」
この野郎は……
校長も校長で、そんな甘っちょろいことを言っとらず、こんな奴は早くクビにすりゃいいのに……
「え〜、それでは、まず被告人「荒神浩介」と広瀬亜衣の関係を自白してもらいたいと思う。荒神、どうだ?素直に吐けば、もれなくこのカツ丼を食わせてやるぞ。」
「ほう、カツ丼か……だが断る!」
答えてやる義理もないね。ってか、カツ丼で釣れるとか思うなよ、この馬鹿。俺はどんだけ軽いんだ、おい。
「残念だが、荒神!!お前に黙秘権はない!!」
裁判の警察がいる席(正式な名前を俺は知らん)には、多数の生徒がいる。見える範囲では、俺のいる10組、5組、4組、1組のほぼ全員いた。
「素直に吐かない場合は……どうなるだろうな?ああ、色々とやばい事態が起こることが頭に浮かんでくる……」
こういう何するかは、ちゃんと言ってくれないと余計に不安になってたまらん。だめだ、自白してしまいそうだ……だが、ここでくじけたら駄目だ、今後の俺の生活の平和のためにも!
「ほう、俺を脅すとは、たいした度胸だな……あとで覚えてろよ?」
一応脅してきた奴にはガン飛ばしておいた。少しはびびったっぽい。なんだ弱いな、おい。さっきビビった俺はなんなんだ。
「しかたない。それでは証言者が数名いるから、ちょっとよろしく。」
この体育館へと、2人の男が入ってきた。
「俺が昨日ラーメン屋の虎鉄から帰ろうとした時、浩介にあったんだが、その時いやに浩介はきょどっていたんだ。多分そのときから何か関係があったと思うんだ。」
そこにたっている男の一人は、孝昌だった。手にはしっかり5000円を握っている。
「いや〜、ここしばらく浩介君が女の子を家に連れてきているようでしてね……もしかしたら、その子を連れてきていたのかもしれません。」
そして、証言をしているもう一人の男は……
「って親父!何でここにいやがる!」
「いや〜、浩介君が非行に走っていないかと心配だったしね?」
なんと神出鬼没の男だ。学校に普通きますか?てか……
「それより仕事はどうした?」
「サボってきたに決まってるじゃん♪わかりきったことなんだから聞くまでもないでしょ……て、ゲフンッ!」
アンパンが、まだ1個残っててよかったぜ……
「アンパンっていっても、顔面あたると結構きくもんだな。」
しかし、アンパン1個顔に当てられたくらいでダウンする人間は見たことなかったけどな。
「とりあえず証言者の話から推測すると、荒神と広瀬の関係は休日辺りから発覚したようだ。しかも家に連れてくるとは、なかなかやるな、少年。」
「うるさい、黙れ、息をするなカス教師。」
「いきなり酷くねえか、おい!」
お前の作った今の状況のが酷いわ、ボケ。
「という事らしいが弁護人、なにか弁護することはあるか?」
え、俺を弁護してくれる人いたの?
ふと見てみると、純と美咲の二人が弁護人のイスに座っている。ああ、やっぱり持つべきものは友だ。孝昌はもう友達じゃない。
「その話だと、本当に広瀬さんと浩介がつながっているとは証言できないと思います。裁判長の判断は推測の域を出ていません。」
ああ、やっぱり純はいいやつだ。真剣に俺のことを弁護してくれてる。って、ちょっと待て。じゃあ何でお前まで俺を捕まえようとしてたんだ?
「というか、僕らは弁護人に選ばれたのに被告人と話す暇もらってません。できれば、少し話す時間をいただけませんか?これって正当な要求ですよね?」
ニッコリとした笑顔で裁判官こと樹に尋問を要求する純。にしてもさっきから美咲のほうはまるでやる気なさそうだな。おい美咲、形式上でもそこにいるんなら手鏡見ながら髪を整えんな、馬鹿!
だが、樹がこの要求を素直にのむとは思えん。さあ樹、如何にしてかわすつもりだ。
「……だが断るッ!」
職権乱用か!卑怯な手段に出たな樹!
「しかし樹先生、このままでは埒があかないですし……」
「いやだがな、俺だって先に回答知る奴がいたらむかつくじゃん?ほら、自分はコード○アスR2見てないのに他の奴が見てたらむかつくじゃん?そういう気持ちと似てると思うんだが……」
ごちゃごちゃと、途中から趣旨の変わりつつある話し合いを進めていく樹と純。ギャラリーはたまに二人の言うことに「確かに……」とか「あ〜、その気持ちわかるわ!」などと頷いたりしている。
……もう開放してくんないかな?もはや話し合いに俺の名前なんざ出てねえじゃねえか。と言っても開放してくれるわけはないか。んじゃ、勝手に抜け出すとしましょうか。
「……ィッ!……よし。」
あまり回りに聞こえないように極力声を押さえ、音を出さないようにして関節を外す。そしてそのまま慎重に手、指を抜いていく。
「……オッケ、成功。」
バレないように関節をはめ直し、手錠を外すことに成功した。ここまでくれば、回りも油断してるしどうにかして強行突破で出口から抜け出せるかも。
(……いや、ありゃ無理だな。)
回りを改めて見回してみると、唯一の出口である扉は警察側の席のあるところ、そこには証人だからだろう、孝昌が立ちふさがっていた。
あいつがいたら、どうやっても逃げ切るのは無理だ。すぐに捕まっちまう。
(畜生!どっか行きやがれ、この馬鹿!)
意味はないとわかってはいるのだが、とりあえずむかつくので孝昌に向かってギロリと睨む。俺と目が合った孝昌は、ニヤリと笑みを浮かべた後に俺の眼光を柳のように流すように悠然と顔をそむけた。
(……余計にうぜぇ。)
このまま睨み続けててもなんか不毛だし、そろそろやめておくか。ともあれ、俺が自白しなきゃいいんだ。樹のたまにかけてくるプレッシャーを我慢し続ければ、どうにか脱出口がみつかるだろ。
とりあえず、しばらくはあっちの議論に耳を傾けて……って美咲は!?あいつ何も離すことなく職場放棄!?
周りをキョロキョロ見回してみても美咲の姿が見当たらない。一体どこ行った?と考えていると、次はスピーカーを通して誰かのカウントダウンが聞こえてきた。
「10・9・8……」
この声は……まさか、美咲か?なにをやるつもりだ、あいつ?あたりの人間は、まったく意味がわからず、樹でさえリアクションに困っている。だが、例外がいた。
「3・2・1・0!」
0の掛け声と共に、凄まじい爆音とマイクを駆け巡り響く雄叫び。その二つによって体育館の中の人間は、驚きによって体が硬直するか、目を閉じて耳をふさぐかのどちらかだ。だが、そのどちらのリアクションをとることもなく、行動を開始する奴らがいた。
「よ〜し、準備は整った!浩介、逃げるよ!もう手錠外してるんでしょ!」
純がそう叫び、体育館の入り口の扉を孝昌が蹴飛ばした。亜衣の方は、美咲がすでに救出してくれているようだ。
「おお、さすが純、美咲、孝昌!持つべきものは友達だ!」
俺もすぐさま純と一緒に体育館から逃げ出した。
「畜生、あいつら謀りやがったな!みんな、もう一回捕まえてきてくれ!今度は1万円出す!」
樹の野郎、生徒たちの闘争心に火をつけやがって!だが、HRの時間まであと2時間だ、逃げ切って見せるぜ!
「1つ聞きたいんだけどさ……浩介と広瀬さん、てどういった関係なの?」
走って逃げながら純が聞いてきた。いきなり核心をついてくる質問だ。
「ただの彼女、とかってのじゃなさそうだな。どういう関係なんだ?」
前を走る孝昌が孝昌もこっちの方に振り向いて聞いてくる。ってかすごいな、後ろ向きで走って俺たちとあんまり変わらんのか、こいつの速度は。
「……わかった、話すよ。でもできれば他の奴には話さないでくれよ?」
そして、俺は亜衣が俺の家に同居してきたことから、一応大まかに説明をした。
「――――――――――で現在にいたる、て感じだな。」
「なるほどね。本当はもっと詳しく聞きたいけど今はそれどころじゃないからね。詳しく話してもらうのは後でいいよ。」
一応、全員ひとまず落ち着いてくれたようだ。なんのリアクションもしなかったのは、俺にとっては結構うれしかった。
「とりあえず、ここらで止まって作戦を考えよう。ここからどうする?」
こうなった時の作戦参謀こと孝昌がみんなに問い掛ける。まあ流石に5人に増えると逃げづらくなる。なにせ目立つし、何より今回は亜衣という荷物をしょっているからな。なんか考えないとどうしようもないよな。
「こうなったら、ひとまず校外に逃げるしかねえんじゃねえか?」
俺がそう発言すると、まるで可哀相な物でも見るような目で孝昌が俺を見る。なんだよ、普通の提案だろ?
「いいか、そんなもんは全員考えることなんだよ。問題は、その出口が相手に押さえられているこの状況でどうするかっつー話だよ。」
なるほど、そういうことか。校門の前を通ったわけでもないのに封鎖されてるって事がわかるあたり、流石の洞察力だな。……だから、俺が馬鹿ってわけじゃないぞ?孝昌が良すぎるだけだからな?
とりあえず、まともな出口が封鎖されたってなると、残る手段は……
「ってなると、やっぱ『アレ』を使っちゃう?」
「あ、やっぱり美咲ちゃんもその考えにたどり着く?」
「純もか。んじゃ孝昌、全員の意見が一致だ。『アレ』を使うぞ。」
満場一致で、俺たちは『アレ』を使うことにした。『アレ』って何かって?そりゃ秘密だ。
「OK。『アレ』に関しては、みんなが使ってる奴以外に他に2つ当てがある。普段3年生のヤンキーがたむろしてる部室棟裏と職員室だ。3年がわざわざ少しばれやすいところでたむろしながらタバコを吸えるってことは、おそらく逃げ道があるからだろう。職員室も同じだ、非常時に逃げ出すためには、職員室にも一つつけたほうがいい。というわけで、この2ヶ所を探して外に出るか?」
流石は孝昌、いざって言う時に一番頼りになる男だぜ。これだけのことを瞬時に考えられる
「んじゃ、そこの2つを探そうぜ。どっちを先に行く?」
「部室棟に行くべきじゃないかな?僕たちだったら別に喧嘩売られても負けはしないだろうし。」
「そりゃそうだ。逆に職員室だと、先生が1人でもいたらアウトだからな。」
というわけで、目的地は部室棟裏のヤンキ―どもがたむろしているところに決定した。
……にしても、なんだろう?純が購買部で俺を奇襲していたときにも感じていたんだが、なんというかみんなの放つ雰囲気というものがピリピリしている。もしかして……
「お前ら、なんか怒ってんの?」
「……当然でしょ。」
普段このようなことを聞いたら美咲が答えるものだが、今回はめずらしく純が返事をした。純はめったなことがないと怒らない温和な性格なので、他の奴も怒っているに違いないだろう。
「なんでこのこと黙ってたんだ?ちょっと重要そうな話だけどよ。」
さっきまで面白おかしくイベントに参加してた奴が言うセリフか、と突っ込もうとしたが、明らかにそういう雰囲気ではないな。それに、おそらくこいつらのことだ。多分アレは俺に対する報復だったんだろう。確かにしんどかったしな。
「確かに何も聞くな、てはいってたけどさ、少しくらいは教えてくれてよかったんじゃないの?」
そういえば純は、俺が亜衣と一緒に登校してたのを見てたな。たしかにこういった少し重要そうなことを黙っていたのだとわかれば、少し怒るだろう。
「私たちの間で隠し事はなし、でしょ。どうでもいいことはともかく、なんでこんな大事なことを言わなかっのよ?」
こいつらが怒るのももっともなことだ。俺も俺で、なんでこいつらにまで黙っていたのだろう?と考えてしまう。
「あ、あの……喧嘩は、よくないです……」
亜衣も、なんだかこの重い空気で心配になったのか、先ほどまでずっと黙っていたのに、いきなり口を開く。
「安心しろ、喧嘩とかじゃない。」
亜衣の頭をなでてやりながら、とりあえず落ち着かせることにした。まだ不安そうだが、先ほどまでよりはまだ落ち着いた様子だ。
「今回のことは、俺が悪かった。本当にすまない。」
全面的に、今回は俺が悪い。謝るのが筋、というものだろう。
「……まあ、いいや。とにかく、学校からはやく逃げよう。謝罪はあとからしっかりしてもらうからね。」
「うまく逃げれたら、今日の晩御飯は浩介のおごりだからね!」
そういって、全員は再び部室棟裏へと足を進めた。
「悪い。みんな、ありがと。」
「似合わないこというな、気色悪い。」
苦笑いしながらの孝昌の返事。やっぱり、こいつらはいいやつだ。俺は、かなりの幸せ者だろうな、と心の中で思った。
『アレ』を求めて部室棟裏までたどり着いたが、やっぱりというかヤンキ―の方々がたむろしている。かくれんぼしてた俺たちが言えることではないが、授業参加しろよ。……ごめん、今のやっぱ無し。蒼月学園でそんなこと言えるもんじゃないよな。
「先輩方、すいません。ここに『アレ』ないか探させてもらいますね〜♪」
純がずいずいと進んでいく。俺たちもそれについていく。
「まてや、こら。誰が通っていいっつった!?通りたきゃ10万はらえ!」
やってることが古臭いぞ、おい。こんな馬鹿に付き合うのもなんだしな、さっさと終わらすか。
「孝昌、美咲と亜衣を守りながら『アレ』探しててくれ。俺と純でこの馬鹿たちのしておくから。」
「えっ、僕も!?仕方ないな〜。」
と、いうわけで、俺と純で不良どもをのすことにした。
「ふざけんな!!ぶっ殺し……「はい、遅い!!」
相手が全部セリフを言い終わる前に、顔面めがけて思い切り蹴りを入れてやった。一発でノックアウトか。弱いな、こいつ。
「はい、次は僕の番♪」
純も、とにかく手当たりしだい近くにいる奴を殴っていく。さっき嫌々っぽかったくせにノリノリだな、おい。
俺も悠長に敵を一人一人つぶすのも面倒くさいので、純と同じく不良どもを殴り飛ばしていく。全員潰すのに10分とかからなかった。
「でかいのは態度だけだったな。ひい、ふう、みい……10人はいたみたいだな。」
「ホント、たいしたことなかったね。」
実際、これが俺の普段の日常だった。まったく、親父のせいでややこしい日常に変わってきそうだな。
「お〜い、見つかったぞ!例の『アレ』!隠し通路だ!」
孝昌は隠し通路をしっかり見つけてくれていたようだ。……非常識とか言うなよ?そんなもんはこの学園の理事と校長に言ってくれ。
孝昌の見つけてくれた隠し通路は、部室棟裏にあるマンホールから、学校のすぐ外にあるマンホールへとつながっているものだった。まさか偽物のマンホールがあるとは、正直思っても見なかったな。
「浩介くん、荷物はいいの?」
「今は逃げることが優先。荷物なんざ、2の次だ。」
そうさ、今は逃げることが優先だ。もしかしたら、校外まで追っ手が来るかもしれないので、俺の家まで逃げることにした。
家に帰っても、まだ親父はいなかった。それにしても、まさかアンパン如きで気絶するとは思わなかったな。
「親父がいないからリビングを使ってもよさそうだ。」
いやまあ、いても勝手に使ってるけどね。俺に限らずこいつら全員。
取り合えう、俺は「さっ」とコーヒーを淹れ、全員に配る。
「今日は晩飯、食ってくか?」
まだ晩飯まで数時間あるが、話す内容がこれしか思いつかなかった。
「もともとお前がおごる予定だったろ?」
「そうね。それじゃあ、今日は浩介の手料理で我慢してあげるわよ。」
「僕も。」
「ん。OK。」
晩飯は何にしようか、と考えながら台所へと歩く。
「大勢いるし、カレーでいいか。いや、それは昨日作ったから芸がない。ふ〜む、どうしよう、お好み焼きでも作るか?」
そう考えると、すぐにキャベツを取り出しきり始める。その他の具材、お好み焼きのもとなどを鍋に入れかき混ぜ、下ごしらえを済ませた。下ごしらえを終わらすと、またやることがなくなる。その間、荒神家の家の中は非常に暗い雰囲気になっていた。だって誰も喋んないし。
「ううううううう……うあああ!!」
美咲がいきなり叫び始めた。どうした、とうとう人の限界を超え獣になったか?」
「暗い!!暗すぎる!!もっとポティシブに行きましょうよ、ねえ!?こんなに暗いの、私絶対ダメ!!」
うるさい女だな、お前がダメだろうが知ったことか。
「えっと、それじゃあ親睦を深めるために、明日親睦会でもやりましょ!最低でも、このメンバーには広瀬さんもなじんでもらわないといけないし。」
別に悪い提案ではない。ちなみに明日は校長の娘の旦那の誕生日なので、休みなのだ(それくらいで休みになる学校は普通ないが)。
それに、亜衣が俺にくっついて行動するのなら、こいつらとは最低でもなじまないといけない。
「あ、自己紹介がまだだったわね。私、清田美咲、呼び捨てでいいからね。その代わり、私もあんたは亜衣って呼び捨てで呼ぶからねっ!」
「僕は伏見純。僕も呼び捨てでいいよ。」
「あ〜、俺は斎藤孝昌だ。趣味は女性と一緒にすることだったらどんなスポーツだろうがなんだろうがすべて趣味になる!」
美咲と純は普通の自己紹介だが、孝昌は精神状態が普通に戻ってしまったので、単なる女好きに戻ってしまったため、変な自己紹介だ。こいつは真面目にしないといけない時以外、このメンバーで一番軽い性格なのだ。そういえば……
「お前、亜衣は口説かないんだな。」
孝昌は、女性を見れば、誰かの彼女だろうと、婚約者だろうと人妻だろうと自分の守備範囲以内の年齢ならくどく男だ。なぜ亜衣を口説かないのだろう?
「俺は人の彼女とかは口説かないよ?」
「嘘つけ!お前これまで何人のカップルを別れさせてきた!第一俺とこいつはカップル関係にはないぞ!?」
そういいながら亜衣を指差す。
「なにいってんだ、あんなに格好良く亜衣ちゃんを背負って必死に走ってる姿、大半の人間から見たらお前と亜衣ちゃんはどこからみてもカップルっぽいぞ?それに、俺は見ててむかつくカップルを分かれさせているだけであって、すべての人の彼女を口説いているわけじゃねえ!」
熱弁されてもな〜。ホント、こいつの真面目な時と普通の時はギャップがありすぎるぞ。
「んじゃ、とりあえず親睦会に呼べる人、探しておくわね。」
携帯を開いて、何名かにメールを送っている様子。
「え、ちょっ……」
「亜衣、拒否権はなし。こういうことはしっかりしておかないと、クラスになじめないわよ。」
「でも……浩介くん……」
なんでもかんでも俺に頼るな、こいつ。でも、親睦会とかは、しといたほうがいいとおもう。ここでこの意見を否定することはないだろう。
「大丈夫だ、亜衣。クラスに変な奴は多いが悪い奴はいないから。」
「浩介くんが言うなら……」
この会話を聞いていた3人が、口元をニヤニヤさせている。
「ホント、あっつあつだね。」
「見ててこっちが恥ずかしいわ。」
「それでよくカップルじゃないと否定できたな。」
むかっ!!
「うるせぇ!!お前ら飯くわさねえぞ!!」
「うわ〜ん、権力の横暴だ〜!!」
俺が怒鳴り散らすと、3人とも「わ〜」とか言いながら部屋中逃げる。
「はあ、仕方ない。とりあえずお好み焼き、作るか。」
ホットプレートに電源を入れ、さっさとお好み焼きを焼いた。みんなでそれをさっさとたいらげ、その後すぐに解散した。
「晩飯サンキュー!!じゃな〜♪」
そんなことをいいながら、みんな家を出て行った。
「あの人たち、いい人たちみたいだね。浩介くんの親友?」
少し考えた後、俺はこう答えた。
「親友……か。どっちかって言うと、俺にとって一番大切な「仲間」だな。」
続く