桜に誓う幸せ
和モノ春花企画参加です。
少し違うかもですが、読者様の心に響いたら幸いです。
桜に誓う幸せ
桜は出会いと別れの季節。
桜の木の下には死体が埋まっているなどなど、桜は様々な言葉となって、日本人の心に住み着いている。
季節は春、桜満開。
俺は新しい出会いと悲しい別れを体験した。
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「……と言うわけで、俺が兄だ。よろしく頼む」
「兄貴で良いですか? こちらこそよろしくお願いするっす」
現在地は自宅近くのファミリーレストラン。
向かい合うは俺|(高校二年生)と弟|(小学三年生)。
今日初めて出会った俺とこいつは、今日から一緒に暮らすことになったのだ。
………………
…………
……
「ここが今日からお前の家だ」
「失礼するっす」
俺とこいつに血の繋がりはない。
つい先日再婚した親父の嫁さんのつれ子であるこいつは、俺と同じ日に両親を失った。
新婚旅行だと張り切って出掛けた先で、事故に遭ったのだ。
戻ってきたのは多少の遺品と、幸せそうに笑う写真が数枚。
俺たちは、あまりにも簡単に天涯孤独の身となった。
「とりあえず、お前の日用品を買いに行こうか。何か欲しいものはあるか?」
俺の親父は転勤族で、高校に入って初めてこの家で一人暮らしを始めた俺は、自分の物と言うものが少なかった。
だからこそ、最初はこいつに自分だけの物を与えたいと思ったわけだ。
「着替えはや日用品などは、前の家から届いてますし、改めて買う必要は無いかと思いますよ?」
「…………そうか」
どうしようか? こいつは俺よりもしっかりしていそうだ。
「なら嗜好品は何がほしい? ゲームソフト一つくらいなら買える余裕は十分にある」
「自分、スマホゲームで十分っす。無課金で無双してますし!」
「…………そうか」
これは困った、会話が続かない。
もともと話上手ではないが、こんなに歳が離れた相手と話す機会などあまりなく、どんな話題が受けるのかわからない。
「んじゃとりあえず、夕飯の買い出しに行くか」
「了解っす」
俺は沈黙を是としたくなく、こいつを買い物へと連れ出した。
………………
…………
……
「……そういやだが、お前のこと何て呼べば良い?」
「桜って呼んでほしいっす。それが田中桜なので」
俺の唐突な質問に、少し考えてから桜が答える。
「随分可愛い名前だな?」
「そうっすね。可愛いから好きっす」
「そうか」
そうして、言葉は少なくとも会話を続けながら買い物をし、俺は桜との距離をはかる。
「今日の夕飯はカレーだけど、甘口が良いか?」
「中辛でお願いするっす。自分、子供じゃないので」
「そうか」
えへんと得意気な顔で俺に微笑む桜。
今日初めて出会ったはずなのに、俺とこいつは家族なんだとそう思える。
(可愛いは正義と言うやつか)
俺の悪友が言っていた言葉をふと思いだし、俺は世界の真理を知る。
「んじゃ帰るか」
「ういっす」
………………
…………
……
「「ごちそうさまでした」」
少し心配していたのだが、桜は中辛のカレーを少し辛そうな食べていた。
どうやら強がりだったらしい。
「んじゃ風呂入って寝るか」
「お風呂苦手なんすよね。手伝ってくれないっすか?」
子供を風呂に入れた経験など無いが、どうにかなるだろう。
桜が持ってきている荷物の中に、お風呂用具も揃っていたし、シャンプーハットも完備である。
「そうか」
俺は頷くと、風呂の用意を始める。
「お風呂、沸かさないんすか?」
「あぁ言ってなかったな。うちは24時間風呂なんだよ。だから入りたい時に入れるんだ」
父親の帰る時間がまばらなため、風呂好きな父がどうせだからと、いつでも入れる風呂にしたのだ。
「それはすごいっす。文明の利器っすね」
「おう。……んじゃほれ、バンザイしろバンザイ」
俺は桜の服を脱がしていく。
「ばんざいっす」
上を脱がし終え、下をすぽんと一気に脱がす。
「…………お前、妹だったんだな」
「何を今さらっす。わかってなかったんすか?」
堂々としながら恥ずかしがる桜は、少し拗ねたようにそう言うと風呂場へと先に行く。
「そうか」
その姿に何故か俺の方が恥ずかしくなり、腰にタオルを巻くと俺も風呂場へと入った。
………………
…………
……
「そんじゃおやすみ」
「おやすみなさいっす」
俺は二階の自分の部屋。
桜には一階の畳部屋な布団をしいて寝ることにする。
桜に俺の部屋のベッドを使わせることも考えたが、桜はベッド初体験らしいので、無難に布団で寝てもらうことにしたわけだが。
「……どうしてこうなった」
現在時刻は夜中の3時。
喉が乾いて一階へと降りてきた俺は、泣きながら寝ている桜を見つけ、泣き止むように頭を撫でてやっていたところ、そのまま腕に抱きつかれ、身動きがとれなくなってしまっていた。
「おかぁさん……」
「…………そうか」
やはり突然親がいなくなると言うのは、とても寂しい事だったのだろう。
いくら戸籍上は家族とはいえ、俺と桜は今日が初対面だ。
初対面の年上……それも異性を相手にして、緊張もしていただろう。
(俺は少しでも、兄貴をやれていたのだろうか?)
改めて強く、桜を家族と感じる。
どうやら俺も、親父を亡くして寂しかったらしい。
「おかぁ……さん」
「ッ」
泣きながら……俺の腕を抱き枕のように抱きながら眠る桜。
「大丈夫だ。兄貴がここにいるぞ」
俺は桜を起こさないように隣で横になると、桜を抱き締めて眠りについた。
………………
…………
……
「……うみゅう」
「目が覚めたか?」
朝6時30分。
桜より早く目が覚めた俺は、桜が起きるまで体をそのままにしていた。
「あに、き? ……はっ!? おはようございます」
「おう、おはよう。朝飯食ったらでかけるぞ」
俺はそう告げると、桜から離れて朝食の準備をする。
「? わかり、ました」
………………
…………
……
「ここは……お墓?」
「そうだよ。一応ここに、お前の母さんも眠ってることになってる」
朝食を終え、出掛ける支度をしてここへ。
お墓には「菅菜家」と書かれており、ここが俺の家の墓だと示している。
「ちょうど桜が満開だな」
「そう、ですね。きれいです」
この墓地には珍しく、周囲に桜が植えてある。
もともとここを作った人が、死者が寂しくないようにと植えたそうで、とてもきれいに咲いていた。
「なぁ、桜。俺たちは出会ってまだ二日目だけど、それでも俺は、お前の兄貴だ」
「………………はい」
横にいる桜に話しかけるようで、天にいる親へと報告するように。
「俺はここに誓う。桜を必ず幸せにすると。病気の時も、元気な時も、落ち込んでる時も、はしゃいでる時も。常に隣にいて支えることを」
「兄貴?」
例え血は繋がってなくとも、たった二人の兄妹なのだ。
おれは桜を幸せにする。
「だから桜? これからは俺を頼ってくれ。俺に遠慮なんてしないでくれ。これからどうぞよろしく頼むよ、桜」
「…………はいっす」
桜が舞い散る幻想的な風景の中、俺は桜と自分に誓う。
大変なこともあるだろう。
どうしようもないときもくるかもしれない。
だけど俺は忘れない。
この日の誓いと、桜の笑顔を。